命劫の真実
竹村真一の両目は血のように赤く染まり、手にした血刀は全体が真紅に輝いていた。それはまるで無数の血液に浸されたかのように、鈍く光を放っている。彼の呼吸はますます荒くなり、胸が激しく上下する。その一振り一振りは、鋭い金属音のような音を空気中に響かせていた。
周囲の縫魂は、もはやほとんど残っていなかった。それらは竹村真一の激しい攻撃の前に次々と倒れ、魂の核を血刀に吸い取られては黒い霧となって消えていく。
「もう十分だ!竹村真一、やめるんだ!」村の長老は遠くから叫んだ。その声には一抹の焦りが混じっている。
「お前はもう十分に斬った。これ以上斬り続ければ、刀に喰われるぞ!」
「喰われるだと?」竹村真一は冷笑を浮かべながら、荒い息をつきつつ裂け目の奥を指差した。「俺がこれだけ殺したのは、この天隙を潰すためだ。誰が誰を喰らうか、見物じゃねえか!」
その声は低くしゃがれており、隠しきれない狂気が滲み出ていた。 ゆいが涙声で叫ぶ。「真一さん!もうやめて!見て、あなたの手が――!」
竹村真一が下を見ると、右腕はすでに紅い光に完全に覆われており、赤い紋様が無数の血管のように腕を伝い肩に達していた。
そして胸元に刻まれた逆命咒は焼けつくように熱を持ち、彼の魂を内側から焼き尽くそうとしているかのようだった。
ちくしょう……この刀、本当に反噬してくるってか。」竹村真一は低く呪いの言葉を吐きながらも、手から血刀を離さなかった。
裂け目の奥から発せられる紅い光はさらに強くなり、まるで竹村真一の殺戮に呼応するかのようだった。
その光は巨大な眼球のように彼をじっと見つめ、絶え間なく吸引力を放っている。 「竹村真一。」村の長老はゆっくりと前に歩み出し、その眼差しには言い知れぬ感情が宿っていた。
「お前はもう核心に近づいている……これからが、本当の運命と向き合う時だ。」
「運命だと?」竹村真一は鼻で笑った。
「俺は運命なんざ信じねえ。」
「ふふ……」村の長老は目を伏せて笑みを浮かべ、どこか不気味な声で続けた。「だが、お前がここに立っていること自体が、運命の采配じゃないか?」
「くだらねえ!」竹村真一は歯を食いしばって怒鳴りつけ、裂け目の奥を睨みつけた。
「この天隙を潰せば、俺の命劫は解けるんだろうな?」 村の長老はゆっくりと頷いた。
「天隙は命劫の源だ。それを封じれば、お前は命劫の呪いから解放される……だが、同時に『逆命』の資格も失うことになる。」
「逆命?」竹村真一は眉をひそめた。「
それはどういう意味だ?」 村の長老は目を細め、複雑な表情で彼を見つめた。「
逆命とは、お前が天道に抗った証だ。だが、天隙を封じるということは、お前が再び天命へと戻ることを意味する。その時……お前の命は、もはやお前自身のものではなくなる。」
「はっ、ややこしい話だな。つまり、どっちにしろ俺は死ぬってことか?」竹村真一は冷笑を浮かべた。
「それなら、何のためにこんなことをしてるんだ?」
「死ぬのではなく――選択だ。」村の長老はゆっくりと語った。
お前は命劫の一部となる道を選ぶこともできる。
俺のようにな、命の気を使って存在を延ばす方法だ。あるいは、天隙を封じてすべてを終わらせることもできる。」 竹村真一はしばらく黙り込み、目には迷いが浮かんでいた。
ゆいが小さな声で尋ねた。「真一さん……私たち、戻れるの?」
竹村真一は血刀を握り締め、裂け目の奥を見据えながら歯を食いしばった。「俺が戻れねえなら、この天隙も道連れだ!」
竹村真一が裂け目へと足を踏み出そうとしたその時、黒い霧の中から奇妙な音が響いてきた。 「ギシギシ……」 その音は金属が擦れるようでもあり、骨が砕ける音のようでもあった。ぞっとするようなその音に、竹村真一は足を止め、裂け目を凝視した。
霧の奥から、巨大な邪崇が這い出してきた。
そいつは二丈(約6メートル)もの大きさがあり、全身は粘つく黒い液体に覆われ、その中では無数の白骨が浮かび沈んでいた。その頭部は巨大な骸骨で、額には裂け目が走っており、そこから赤い光が漏れ出していた。
「これは……『骨淵主宰』か。」村の長老は低い声で呟いた。その声には恐怖が滲んでいた。「こいつは天隙の最強の守護者だ。天隙に飲み込まれた無数の魂が凝縮され、具現化した存在だ。」
「骨淵主宰?」竹村真一は鼻で笑い、血刀を掲げた。「主宰だろうが何だろうが、俺の邪魔をする奴はぶった斬るだけだ!」
巨大な邪崇が耳をつんざくような咆哮を上げると、裂け目全体が震え出し、周囲の黒い霧が暴風となって吹き荒れた。 邪崇は巨大な骨の爪を振り上げ、竹村真一に向かって振り下ろした。 「ドン――!」 竹村真一は地面を蹴り、稲妻のようにその爪を避けると、反撃の一刀を邪崇の腕に叩き込んだ。
「ザクッ――!」 血刀は骨の爪に深々と斬り込んだが、完全には斬り落とせなかった。その爪から溢れ出たのは血液ではなく、粘つく黒い液体だった。その液体は強烈な悪臭を放ち、周囲の空気を汚染しているかのようだった。
「くそっ、こいつ硬えな!」竹村真一は歯を食いしばり、数歩下がりながら邪崇を睨みつけた。
骨淵主宰は息をつく暇も与えず、もう一つの爪を彼の胸に向かって叩き込んできた。その速度は尋常ではなく、竹村真一はかろうじて防御態勢を取ったが、衝撃の余波で地面に叩きつけられ、口から血を吐いた。
「真一さん!」ゆいが怯えた声を上げた。
竹村真一はなんとか立ち上がり、血刀を握り直すと、目に狂気の光を宿した。「いいだろう、面白くなってきたじゃねえか!遊んでやるぜ!」
彼は深く息を吸い込み、血刀が突然眩い赤い光を放った。その光は彼の腕を伝って全身に広がり、刻まれた紋様が一斉に輝き始めた。
それはまるで彼自身が燃え尽きようとしているかのようだった。
「これで終わりだ――この一刀、お前に受けられるか!」竹村真一は怒声を上げ、血刀を振りかざして骨淵主宰へと突進していった。




