不気味な晩餐
月明かりは濃い霧に遮られ、「亡霊村」は陰鬱な静寂に包まれていた。村脳老人の頭部に埋め込まれた太鼓が微かに響き、その緩慢な足取りに合わせて奇妙な旋律を奏でているようだった。竹村真一は血刀を握り、不機嫌そうな表情で老人の後をついて歩いていた。
「腹が減って仕方ねえ、じいさん!」竹村真一は声を荒げた。「お前がこの村の主だってんなら、何か食い物ぐらい出せるだろう?空腹のまま血淵天隙に行けなんて言うなよ。」
「ほっほっほ……食い物か?」村脳老人は顔をくしゃくしゃにして笑い、その皺だらけの顔が霧の中でますます異様に見えた。「あるとも、この村にはねぇ。どこも欠けているものばかりだが、食い物だけは豊富だ。少しばかり用意してやろうじゃないか。」
竹村真一は、彼の異様に膨らんだ頭をちらりと睨みながら嫌そうに言った。「その頭から何か得体の知れないもんが出てくるなら、俺は遠慮しとくぜ。」
村脳老人は声を上げて笑いながら、ゆっくりと崩れかけた家の方へ向かって歩いて行った。「安心しな、若いの。ちゃんと人間様が食えるものを用意するさ。」
背後でそのやり取りを聞いていたゆいが、不安げに竹村真一の袖を引っ張り、小声で言った。「真一お兄ちゃん、あのおじいさん、本当に食べられるものをくれるのかな……。あんな怖い人……。」
「黙ってろ。」竹村真一は短く言い放ち、村脳老人を睨みつけながら言った。「あいつが妙なものを出してきたら、頭をぶった切るだけだ。」
しばらくして、村脳老人は古びた木の盆を持って戻ってきた。その盆には、不気味な色合いをした肉片と、黒ずんだ干からびた「山菜」が乗っていた。
「見てみろ、これが村のもてなしだ。」村脳老人は地面に木盆を置き、その皺だらけの指で軽く盆を叩いた。「山で取った獣の肉と干した山菜だ。見栄えは悪いが、腹を満たすには十分だろう?」
竹村真一は慎重に盆に近づき、刀の切っ先で肉片をつつき上げた。肉は灰色がかった青緑色をしており、鼻を突くような生臭さを放っていた。さらに、どこか腐敗したような嫌な臭いが混じっている。
「これが肉か?」竹村真一は顔をしかめながら冷たく尋ねた。「見た目はまるで苔が生えた石ころだ。」
「真一お兄ちゃん、この肉……腐ってるんじゃない?」ゆいは鼻をつまみながら、恐る恐る言った。
村脳老人はまったく動じることなく、煙管を吹かしながら笑った。「ほっほっほ、これは風干しした肉だ。少しばかり置きすぎたかもしれんが、食えるさ。若いお前なら味が濃いくらいでちょうどいいだろう?」
「味なんてどうでもいいが……。」竹村真一は肉片を老人の目の前に突き出して言った。「まずお前が食え。食って無事だったら考えてやる。」
村脳老人は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにニヤリと笑い、自分の手でその肉を掴むと、ためらうことなく口に放り込んだ。彼は歯をきしませながら咀嚼し、「ゴリゴリ」という音を立てていた。
「どうだ、見たか。」老人は肉を飲み込み、歯を見せながら笑った。「何も問題ないだろう?俺が食ったんだから信じな。」
竹村真一は警戒心を完全に解くことはなかったが、刀の切っ先で肉を少し切り取って鼻に近づけた。強い生臭さはしたが、毒の臭いは感じられなかった。渋々とそれを口に放り込み、一口噛む。
「カチッ。」
歯に響く硬い感触に、竹村真一は思わず顔を歪めた。肉はまるで石のように乾ききっており、噛み切るだけで全力を要した。
「何だこれ、木の皮でも食ってる気分だぞ。」竹村真一は喉を鳴らしながら何とか肉を飲み込み、不機嫌そうに吐き捨てた。
「若者よ。」村脳老人は苦笑しながら言った。「ここでは味や食感に文句を言える立場じゃない。生き延びることが何より重要だ。食えりゃそれでいい。」
「もう腹は満ちただろう?」村脳老人は青い煙を吐き出し、目を細めながら言った。「さて、そろそろこれからの話をしようじゃないか。」
竹村真一は立ち上がり、衣服の埃を払い落としながら冷たく言った。「血淵天隙に向かう道を知ってるんだろ?とっとと案内しろよ。」
「ほっほっほ、若いな。」村脳老人は笑いながら言った。「その前に忠告しておこう。この道……簡単じゃないぞ。」
竹村真一は眉をひそめ、刀を握る手に力を込めた。「簡単じゃない?どういうことだ?」
村脳老人は煙管を吹かしながら、低く抑えた声で続けた。「秘道と言えども、血淵天隙の瘴気を避けることはできん。天隙に近づけば、そこに取り憑かれた『死霊』たちが道を阻むだろう。」
「死霊?」竹村真一は眉をひそめた。
「そうだ。」老人は煙管を叩いて灰を落としながら言った。「天隙の瘴気に蝕まれ、死にも至らぬ者たちだ。そいつらは生きた者の血と命を貪り、通る者を襲う……。」
ゆいは怯えた表情で竹村真一を見上げ、小声で言った。「真一お兄ちゃん、こんな道を本当に行くの?そんな怖いの……無理だよ……。」
竹村真一は冷笑し、刀を握り直した。「死霊だろうが何だろうが、この血刀でぶった斬るだけのことだ。」




