荒村
霧が立ち込める山道を進む竹村真一は、血塗れの刀「血刀」を握りしめ、先ほど「鬼灯の灯守」を倒した際に手に入れた黒い玉を慎重に見つめていた。その背後では、怯えた顔の少女ゆいが、何度も周囲を見回しながら竹村の後をついていく。
「真一お兄ちゃん……こんな場所、怖すぎるよ……」ゆいは恐る恐る声をかけた。「少しだけ、休んだ方がいいんじゃないかな?」
竹村真一は振り返りもせず、険しい口調で言い放つ。「休むだと?そんなことしたら、この霧の中で喰われるだけだ。あたりを見ろ。立ち止まったら、それこそ命を落とすぞ。さっきの鬼灯の灯守の怪物、もう忘れたのか?」
ゆいは黙り込み、唇を噛みしめながら黙ってついていく。
しばらく歩き続けたその時、竹村は突然足を止め、霧の奥を鋭く睨みつけた。血刀を握る手に力を込め、低い声で呟く。
「前方に……何かいる。」
ゆいはおそるおそる竹村の背後から覗き込むと、霧の中にぼんやりと浮かび上がる朽ち果てた建物の影を目にした。それは、捨てられた村のようだった。屋根は崩れ、苔むした木の壁には大きなひびが走り、建物の形を辛うじて保っているだけだ。村全体が濃霧に包まれ、まるで生気を失ったかのような静寂に支配されていた。
「村みたい……」ゆいは小さな声で呟いた。
「確かに村だが、まともな場所には見えねえな。」竹村は刀を構えながら村の方に近づき、低く言い放った。「どんなヤバいものが潜んでいるか、調べる必要がある。」
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村に足を踏み入れると、周囲の空気はさらに冷たく、異様な静寂が漂っていた。風の音も虫の声も聞こえず、聞こえるのは二人の足音だけ。ゆいは怯えた顔で竹村真一の袖を掴み、何度も辺りを見回している。
「お兄ちゃん……静かすぎるよ、この村……」ゆいの声はかすかに震えている。「ここ、やっぱりおかしい。早く出ようよ……。」
「黙れ。」竹村は冷たく言い放ち、周囲を鋭い目で見渡しながら、村の中心に見える古びた石碑の方へ歩み寄った。
石碑は苔むし、ひび割れており、時の流れを物語るように風化していた。しかし、よく見ると表面に文字が刻まれているのが分かる。竹村は手で苔を払い落とし、刻まれている文字を読み上げた。
「……亡魂村?」
竹村は眉をひそめ、その不吉な名前を呟いた。「まるで、死んだ魂が彷徨っているような村名だな。」
ゆいは石碑の名前を聞き、さらに怯えた表情を浮かべる。「お兄ちゃん……この村、絶対に呪われてるよ……。」
「黙ってついて来い。」竹村は冷たく言い放ち、さらに村の奥へと進んだ。
その時、村の中にある崩れかけた小屋から、小さな物音が聞こえた。
「……パタ……パタ……」
何かが木の床を引きずるような音だ。竹村は即座に血刀を構え、音の発生源を鋭く睨みつけた。
「誰だ、そこにいるのは!」竹村が鋭い声で呼びかけると、壊れかけた家の扉がギィッと音を立てて開いた。
そこから現れたのは、異様な風貌の男だった。
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現れたのは、痩せ細った四肢を持つ奇怪な男だった。彼の肌は死人のように青白く、背中は異常なほど曲がり、頭部が不自然に大きい。その異様に膨れた頭部には、青白い鬼火が揺らめく灯籠が二つ埋め込まれている。男は口に長い煙管をくわえ、そこから立ち上る青い煙が辺りを包み込んでいた。
「おや、生きた人間じゃねえか……」男は喉を震わせるような声で呟き、ゆっくりと笑みを浮かべた。「珍しい客が迷い込んできたな……。」
竹村は血刀を構えながら冷たく問い詰める。「生きていようが死んでいようが、俺には関係ねえ。お前、何者だ?」
男は煙管を深く吸い込み、ゆっくりと青い煙を吐き出した。彼はその煙越しに竹村を見つめ、不気味な笑みを浮かべた。
「俺か?俺はこの村の最後の住人だ……。まあ、住人っていうより、村そのものと言った方が正しいかもしれねえな。」
竹村は目を細め、鋭い口調で問いかけた。「この村の住人はどうした?お前以外に誰もいないのか?」
男は再び煙を吐き出し、異様に膨れた頭部を指差しながら、不気味な声で笑った。「みんなここにいるんだよ。」
「頭の中に?」竹村は疑いの目を向ける。「それはどういう意味だ?」
男は笑い声を上げ、突如として自分の膨れた頭蓋骨をガコンと開けた。すると、その中には無数の歪んだ人間の顔がぎっしりと詰まっていた。それらの顔は苦しげに呻き、助けを求めるかのように動いている。
「見えるか?これがこの村の住人たちさ。」男は笑いながら言った。「死んだ魂はみんな、俺の一部になったんだ。」
「……気味が悪い。」竹村は眉をひそめ、血刀をさらに強く握りしめた。「お前が邪悪な存在だってことは分かった。理由は十分だ、今すぐ斬り捨ててやる。」
男は頭蓋骨を閉じ、煙管をくわえながら嘲笑した。「まあ待て。俺はお前に敵意はねえ。むしろ、助けてやろうかと思ってな。」
「助ける?」竹村は冷たく笑った。「お前みたいなやつがか?」
男は再び青い煙を吐き出し、その煙が空中で渦巻いて一枚の地図を作り出した。「お前、血淵天隙に向かうんだろう?なら、俺が道案内をしてやる。そうでなけりゃ、天隙には辿り着けねえよ。」
竹村は煙でできた地図をじっと見つめ、冷たく笑った。「いいだろう。ただし、裏切ればその膨れた頭ごと真っ二つにしてやる。」
男はその言葉に笑みを浮かべた。「ふん、誠実な俺を信じろ。お前にとって、俺ほど頼れる仲間はいないさ。」




