**第十四章:邪崇的烙印**
竹村真一は地面に背を預け、激しく上下する胸の動きを抑えようとしていた。彼の目は灰色に霞む空を虚ろに見つめている。首元の肉腫を無理やり潰したものの、そこに残った血のような赤い印は消えることなく肌に焼き付いていた。それはまるで、閉じたままの目がじっとこちらを睨んでいるかのようだった。
「お兄さん……」ユイがそっと彼に近づき、小さな手で彼を支えようとする。「大丈夫……?その、首が……」
「触るな!」竹村真一は彼女の手を払いのけ、怒りとも恐怖ともつかない混乱した声を上げた。「俺もこれが何なのか分かんねぇんだ!変に触ってお前にまで移ったら、どうすんだよ!」
ユイはその言葉に怯えたように後ずさりし、涙目で彼を見つめた。
竹村真一は息を荒げながら、自分の首に手を伸ばして触れる。そこには赤い印が今も焼き付いており、痛みとともに奇妙な感触が伝わってきた。まるで何かが皮膚の下で蠢いているような感じだ。
「……まさか、まだ生きてるのか?」
その感触に吐き気と恐怖が押し寄せたが、彼は虚勢を張るように眉をひそめて吐き捨てた。「クソが……こんなの命劫って呼ぶとか、ふざけてんのか?命逆らったくらいでここまでやられる筋合いねぇだろ!」
「お兄さん……」ユイは弱々しい声で言った。「村の人が言ってたの……命劫は、邪崇の力が体を蝕むものだって。このままにしておいたら……お兄さん……死んじゃうかも……」
「死ぬ?そんな簡単に死ぬわけねぇだろ!」真一は吐き捨てるように言いながら立ち上がったが、その動きはどこかぎこちなく、右手は時折痙攣していた。
彼は視線を周囲に巡らせると、冷たく重い霧が漂う荒野を見回した。湿った風がどこからともなく吹き付ける中、彼は拳を強く握りしめて言った。「とにかく村まで戻るぞ。ここにいても埒があかねぇ。」
ユイは小さく頷き、真一の後ろを歩き始めた。
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### **村の忌避**
村への道を進むにつれ、竹村真一の身体はどんどん重くなり、首から広がる痛みがじわじわと四肢に伝わっていく。まるで見えない網が彼を締め付けているかのようだった。
「……俺の体、どうなっちまってるんだ?」彼は心の中で呟きながら歩き続けたが、その時、耳元に低く囁く声が聞こえた。
「お前は、もう我らのもの……」
「黙れ!」真一は声を張り上げて叫んだ。
驚いたユイが彼を見上げる。「お兄さん、どうしたの?」
「何でもねぇ!」彼は手を振って言いながら、眉間にしわを寄せた。しかし、あの低い声は止むことなく、まるで彼の体の中から直接湧き上がってくるようだった。
「お前の命はすでに邪崇の手の中にある……」
真一は強く首を振り、足を速めた。
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ようやく村が見えてきた時、そこには重苦しい静寂が漂っていた。薄い霧が村全体を覆い、人気の気配はほとんどない。壊れかけた木の門や古びた家々が並ぶ中、村はまるで死んだように静まり返っていた。
「……ここが村か?」竹村真一は眉をひそめた。「どっからどう見てもゴーストタウンだな。」
ユイは小さな声で答えた。「みんな……私の命劫のことを知って、怖がって外に出なくなったの……」
「命劫?んな迷信に振り回されてんのかよ。」真一は鼻で笑った。「そんなんで助かるなら俺だって迷信にすがりてぇよ。」
彼らが村に足を踏み入れると、いくつかの家の扉がわずかに開き、中から年老いた顔が怯えたように覗き込んできた。
「ユイ、なぜ戻ってきたんだ!」一人の老人が扉越しに震える声で叫んだ。「命劫を連れ戻して、村を滅ぼす気か!」
「そうだ!命劫は邪崇の印!なぜ村に災厄を持ち込む!」別の家から、女性の泣き声混じりの声が聞こえた。
ユイはうつむき、唇を噛んで何も言えなかった。
「……てめぇら!」竹村真一はその様子を見て怒りが込み上げた。彼は周囲を見渡しながら怒鳴りつけた。「この子、死にかけてんだぞ!それなのに追い返そうってか?どんなクソみたいな村のルールだよ!」
その時、一人の老人が震える足取りで家から出てきた。彼は竹村真一を見て、恐怖の色を浮かべながら言った。「あんた……その首の印……それは命劫の烙印じゃ……あんたも……逆命者か……?」
竹村真一は無意識に自分の首元に手をやり、冷笑を浮かべて答えた。「そうだとしたらどうする?俺も追い出す気か?」
老人は肩を震わせながら首を振った。「いや……追い出すつもりはない……だが、逆命者に待つのは天罰だ……命劫は止められん……」
真一は老人の胸倉を掴み、低い声で問い詰めた。「なら教えろ。これをどうすりゃ解けるんだ?」
老人は怯えた目で彼を見つめ、か細い声で答えた。「……それは……解けぬ……命劫は天道の罰……逆命者は自らの命を差し出すしかない……」
「使えねぇ答えだな。」真一は老人を乱暴に放し、舌打ちをした。
老人はしばらく沈黙した後、低い声で続けた。「だが……もし何か望みがあるとすれば……村外れの『枯骨庵』だ。そこには……上古の仙師がいるという……」
「枯骨庵?」真一は眉をひそめた。「何だそりゃ?」
「それは……死者のための庵だ……仙師は死人を導くだけで、生者を救うことはない。もしそこへ行けば……帰って来られぬかもしれん……」
竹村真一はその話を聞いて一瞬考えた後、不敵な笑みを浮かべた。「死人を導くだけ?俺が行けば、そいつが生きてる俺を導くかどうか試してやるさ。」
彼は振り返り、ユイに尋ねた。「その枯骨庵ってのはどこだ?」
ユイは震えながら答えた。「村から三里先の山崖に……でも、誰も近づきません……」
真一はニヤリと笑い、「上等だ。」と言い放ち、その足を村外に向けた。
「仙師だか何だか知らねぇが、俺が逆命者の価値を教えてやる……!」




