うっかり魔界に入った
竹村真一は典型的な不良少年だ。
17歳、中退、毎日悪友たちとつるみながら、タバコを吸ってケンカに明け暮れる。肩には威圧感たっぷりの「昇り龍」のタトゥーが入っており、口癖は「社会の真ちゃんだぞ!ケンカも酒も大好き!」という感じだ。だが、彼は話し方がどこかズレており、ケンカの最中にも威勢よく吐いたセリフで相手を笑わせてしまうことがよくあった。
「オレ様が言っておく!この竹村真一は、お前に勝つだけじゃなく、天にも勝てるんだぞ!今日はお前が死ぬか……オレが死ぬかだ!」と言った瞬間、相手が一瞬黙り込み、次の瞬間には大笑いしてケンカにならないこともしばしば。
その結果、竹村真一はいつも血だらけにされるのだった。
その日も、彼は裏路地で「華麗なる散り際」を迎えようとしていた。3人に囲まれながらも、口だけは強気だ。
「お前ら3人で1人を襲うなんて、情けない野郎どもだな……オレはまだやれる!」
そして彼は見事に足払いを食らい、宙を舞った。
「ドンッ!」
竹村真一は地面に派手に叩きつけられ、頭がガンガンに痛む。なんとか体を起こして周りを見ると――そこは完全に見知らぬ光景だった。
「……ここ、どこだ!?」
竹村真一は頭を押さえながら立ち上がり、茫然と立ち尽くす。
ついさっきまでいた裏路地の代わりに、周囲にはボロボロの藁葺き屋根の家々が並び、小さな小川が流れていた。草は霜に覆われ、冷たい風が顔を刺すように吹きつける。
周りをぐるっと見回すと、遠くに小さな町らしきものが見える。湯気が立ち上り、明かりがちらほらと灯るその光景は、まるで歴史の教科書に出てくる江戸時代の町のようだった。
「こ、これ、夢じゃないよな?」
竹村真一は思い切り自分の太ももをつねる。痛さに顔を歪めながらも、現実だと理解せざるを得なかった。
そのとき、不意に肩をポンと叩かれた。
「お前さん、一体どこから来たんだい?こんな夜更けに外をうろついて、何をしてるんだ?」
竹村真一は心臓が飛び出そうになり、ビクッと振り返った。見ると、そこには皺だらけの老婆が立っていた。古びた着物を身にまとい、竹村真一をじっと観察している。
「え、えっと……婆さん、オレ、道に迷っちゃったみたいなんだけど……ここって、どこ?」
竹村真一はバツが悪そうに頭を掻いた。
「ここは三川村の外れさねぇ。」
老婆の声は低く、顔には刀で彫ったように深い皺が刻まれている。彼女は竹村真一の肩にあるタトゥーをじっと見つめ、突然険しい顔をした。
「おや?お前さん、その肩に刻まれているのはなんだい……?まさか邪霊の紋様かい?」
竹村真一は何を言われたのか一瞬分からなかったが、すぐにタトゥーを手で隠した。
「こ、これか?これは『昇り龍』だぞ!超かっこいいんだからな!婆さんには分かんねえだろ、これが現代のアートってやつだよ!」
しかし老婆は無言のまま、妙に険しい表情を浮かべ、何かを低く呟いた。
「やっぱり……禍を背負った人間だね。さあ、早く町に戻りなさい。この冬至の夜に外をうろついていたら、命を落とすことになるよ。」
竹村真一はその言葉に思わずゾッとした。普段はイキがっている彼も、この奇妙な環境に放り込まれてしまった以上、強がる余裕はない。彼は大人しく老婆の後について、町の方へ向かったのだった。