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63話 追憶――〇〇〇④


(あわわわ! ホントにからだがうごかせないよ~!)

 

 快活な声が脳内に響く。

 

 あぁ、俺は()()()()のか。 

 すぐに理解して、身体を起こす。


 身体の存在に違和感は覚えなかった。

 三百年も前だというのに死がまるで先ほどのように感じて、身体の動かし方や魔法の使い方を思い出す必要はない。

 

「POU! ん髪のォ毛が金うぃろになってるぅん!!」 

 キャリーの身体はドムナー家のソファに寝かされていた。

 騒ぐコドムナーの後ろには不安そうにキャリーの顔を覗き込む両親とドムナー夫妻。

 詠んだ未来と全く同じ光景に安堵を覚える。

 

「センドさん……でいいのでしょうか?」

 キャリーの父親の清濁入り混じる眼差し。

 疑心暗鬼、しかし愛情が籠った眸だった。


 どうやら兄は正しく言葉を紡いでくれたらしい。

 

「そうだ。俺は紛れもなくセンド・フューツだ。感謝する」

「いえ……。キャリーの様子はいかがでしょう?」


 (なんか変なかんじ! ふしぎだねぇ~! うふふ!)


「身体を動かせないことを不思議がっているが、楽しそうではある」

「そうですか……! よかった……!」


 キャリーの両親に娘の身体を借りることに対する感謝を伝えた後、身体を返すまでの仔細を説明する。


「これから一年はこれまで同様ドムナー家で生活し、その期間でキャリーに準備をしてもらう」

「準備?」

「一年後、キャリーは記憶を失った少女を演じつつ、魔物となったアイリスを導くことになる。未来通りの演技が完璧に出来るよう、全ての台詞を決められた場面で違和感なく発せられる状態まで仕上げてもらう」 

「そんな……キャリーはまだ五歳ですよ? 演技なんて……」

「問題ない。俺が詠んだ未来をキャリーに見せ続けるから、その通りに出来るようになるだけでいいのだ」

「それが難しいと思うのですが……キャリーはなんと?きっとプレッシャーに心を痛めて……」  

 

(たいへんそ~)

 

「……のんきだ」 

「あ、そうですか……」


 それから、キャリーの演技特訓の日々は始まった。

 初めは楽しそうにしていたキャリーだが基本的に俺と性格が合わず、少し強く言うと泣いてしまう為かなり難航した。

 ドムナー夫妻の献身的な支えとコドムナーの珍妙なユーモアが無ければ、おそらくキャリーは根を上げてしまっただろう。

 だが、キャリーをやる気にさせた最たる要因は、カインドが伝えた一つの言葉だった。

 

 (イヤぁ! つかれた! もうやんない!うええええん!!)

 駄々をこね、泣き出すキャリー。こうなると俺は口を聞いてもらえない。

 ドムナー夫妻に慰めてもらう為、キャリーに身体を明け渡す。


「ドムドムママぁ~!うえええん!」

「よしよし今日も頑張ったねぇ」   

 

 カインドは大きな身体でキャリーを優しく抱きしめて、頭を撫でる。

「キャリーちゃんは今悲しい?」

「うん……。だっていっぱいがんばってるのに、おじいちゃんイヤなことばっかり言うもん……」

「そうだよねぇ。キャリーちゃんはまだこんなに小っちゃいのに、難しいことを頑張ってやらないといけないんだもん。大変だよねぇ」


「でもね?」カインドはそう前置きし、

「センドおじいちゃんは、キャリーちゃんにアイリスちゃんのお姉ちゃんになって欲しくて、頑張ってるんだよ?」

「おねえちゃん? ……でもアイリスちゃんは十六歳なんでしょ? わたしよりもずうっとおねえさんなのにわたしがおねえちゃんになるの?」        

「そうだよぉ? アイリスちゃんはニョロニョロさんになっちゃうくらい悲しくて辛いことがあってねぇ? 心が赤ちゃんになっちゃったの」

「あかちゃん?」

「うん。嬉しいとか、悲しいとか、笑いたいとか泣きたいとか、ぜーんぶ分かんなくなっちゃって、自分のことも忘れちゃって、自分のことを魔物さんだと思って森で独りぼっちで生きているの。こわい魔物の王様から世界を守ってくれたのに、かわいそうだよねぇ?」

「うん……」           

「だからね? キャリーちゃんは優しいお姉ちゃんになって、色んなことを教えてあげてほしいの。頑張ったねぇ、偉いねぇ、っていつもドムドムママがキャリーちゃんに思ってることとおんなじことを、アイリスちゃんにも思ってあげてほしいの」

「……わたしにできるかなぁ?」

「きっと出来るよぉ。だってキャリーちゃんは優しくて賢くて、すっごい良い子なんだから。ねえお父さん?」

「そうだよぉ! ねえコドムナー?」  

「んぬううううん! ん我がぁン妹にィ……出来ないくぉとぉはぁ……にゃい!」


「ぐふふふふっ!!!」

 キャリーは元気を取り戻し、それ以降はアイリスの姉になると頑張るようになった。

 

 そして一年後。

 俺とキャリー、付き添いのウィークは、アイリスの待つ王都西側の森林――屍の森に向かう。

 移動手段は俺の魔法で呼び出した馬。魔物もおらず、食糧も充分。

 キャリーは初めての乗馬を喜んだ。

 

 森の傍でウィークと別れ、手ぶらで森の奥へ進む。

 魔狼(ウルヴス)肉人形(デスマン)、人間の死骸があちこちに散らばっており、醜悪な環境。

 かつて触手尾(リーパー)が蔓延っていた屍の森にアイリスが辿り着いたのは何の因果か。

 アイリスがここで死骸を移り住みながら生きていたと考えると、心が痛む。


「ここだ。あとは頼んだぞキャリー」

(うん!まかせておじいちゃん!)

 自信を携えたキャリーに身体を返し、髪と眸が赤色に変わる。

 

(これから仮死状態になる魔法をかける。かなり眠たくなるが、台詞は忘れていないか?)

「大丈夫!」 

(よし)

 

 所定の場所にキャリーが横たわってから魔法をかける。

 まどろみ始めるキャリー。

 そして、()()通りかかる傷ついた魔狼。

 しかしその臀部からは、異物感のある桃色の触手。


 ――アイリス。おかえり。


 キャリーに寄生した彼女を拘束する魔法を放ち、ひとまず俺の仕事はひと段落し、あとは最後の総仕上げのみ。

 それまでは平和になった世界を眺めながら、キャリーとアイリスの頑張りを見守ろう。

 

 ……グレインが幼女に振り回されるのを見るのが、今から楽しみだ。

 

残り三話です。

明日中に投稿します。

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