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シルヴィアは16歳に、エリオットは14歳になった。
2人は、勉強や公務をある程度こなすようになったからか、少しだけまともに評価してもらえるようになった。
アーサー王子も、嫌味を言ってくることが無くなった。
夜会のあと、小説のヒロインであるセラフィは、いろいろあって田舎の貧乏貴族だったことがアーサーにバレた。
けれど、何だかんだで上手くいき、無事に王太子妃のポジションをゲットしていた。
そして、王宮でよく会うようになったシルヴィアとセラフィは、友達のような関係になった。
そのため、今は招待されたセラフィの部屋で、シルヴィアはまったりお茶を飲んでいた。
「セラフィが王宮に来てから、そろそろ1年が経つのかしら?」
シルヴィアが隣に座るセラフィに尋ねた。
「そうね。早いわねぇ。……シルヴィアがいなかったら、このギスギスした王宮社会を生き残れなかった気がするわ」
「フフッ。王太子妃になった初めは、やっかみが酷かったものね」
「でも、本当にありがとう! こんな綺麗な義妹が出来て、私、とっても嬉しいんだ!」
セラフィが満面の笑みを浮かべた。
「私もセラフィみたいな、元気で可愛い義姉が出来て嬉しいよ」
シルヴィアもニコッと返した。
「しかもディーテが懐くなんて、珍しいんだよ!」
セラフィがそう言って名前を出したからか、ピンクの毛長猫が部屋に入ってきた。
「にゃ〜ん」
ディーテと名付けられている猫が、ピョンとジャンプしてシルヴィアの膝の上に座る。
綺麗な新緑のような黄緑色の瞳が、シルヴィアを見上げていた。
「私からの差し入れを、気に入ってるだけじゃないかな?」
シルヴィアが苦笑しながらも、猫の背中を撫でた。
シルヴィアは、この世界の元となる小説を知っているから、ディーテが何を好きかもある程度分かっていた。
この恋の女神の化身は、甘い甘いお菓子が大好きなのだ。
セラフィといるのも、彼女の恋のオーラが好きなのもあるけれど、半分はセラフィが作ってくれるお菓子が好きなのだった。
女神はセラフィに胃袋を掴まれたのだ。
それでセラフィが王宮に召し上げられる時にも、ディーテは付いてきた。
だから、シルヴィアはことあるごとに『ディーテに』と言って甘いお菓子を献上していた。
小説で読んでいる時から、可愛い猫だなと思っていたので、好奇心からだった。
女子2人で和やかにお茶会をしている所に、恐縮した表情のシルヴィアの侍女が近づいてきた。
「……シルヴィア様、エリオット様が……」
「あぁ、もうそんな時間? 分かったわ」
シルヴィアが侍女に向かって頷くと、次にセラフィを見た。
シルヴィアより先にセラフィが笑いながら喋る。
「アハハ! いつものようにエリオットが待ち焦がれてるんだね。いいよ。今日はここまで解散! またね、シルヴィア」
「ごめんね、セラフィ。約束の時間まではもうちょっとあるんだけど、エリーの予定が早く終わったみたい……」
シルヴィアがすまなそうに眉を下げながら、席を立った。
「小さいころから変わらずに仲良いのってすごいよね。私も2人のようになれるように頑張るよ」
優しいセラフィが、笑いながら手を振ってくれた。
シルヴィアもニコッと微笑んで手を振った。
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「エリー! 待たせてごめんね」
シルヴィアはエリオットの待っている部屋に慌てながら入った。
彼は待たせすぎると不機嫌になって、余計にシルヴィアを離さなくなるのだ。
そうならないためにも、上品に見える範囲でシルヴィアは急いで来た。
そしてエリオットの隣に寄り添って座る。
「はぁ。やっとシルヴィーに会えた」
エリオットがシルヴィアを抱きしめて、堪能するかのように彼女の首元に顔をうずめる。
「…………」
シルヴィアはエリオットから見えないことをいいことに、伏し目がちな悲しい表情を浮かべていた。
『シルヴィアとエリオットは好き合う設定でしょ』
心の中の、まるでもう1人の冷静なシルヴィアがいるかのように、悲しい囁きが聞こえる。
このところ、その煩わしい囁きが多かった。
エリオットに好意を向けられるたびに、そう位置付けられた関係だよね……ということが頭をよぎる。
シルヴィアはその度に、ぎごちない笑顔しか向けることが出来なくなっていた。
エリオットがシルヴィアに好きだと言ったり、抱きしめたりすればするほど、何故かシルヴィアは悲しくなった。
それは貴方の本心?
小説の強制力?
エリオットがくっ付けていた顔をそっと上げて、柔らかく微笑みながらシルヴィアの瞳を覗き込んだ。
「シルヴィー、好きだよ」
「…………私も」
今日もシルヴィアは、ぎこちない笑顔を浮かべた。