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 シルヴィアが13歳、エリオットが11歳になったころ、アーサー王太子の結婚相手を見繕(みつくろ)うための夜会が開かれた。


 国内から、アーサーと同じ年頃の貴族の子女たちが集められた。


 シルヴィアとエリオットは一緒に参加し、王族席でその様子を眺めていた。




「…………」

 シルヴィアは何故かずっとドキドキしていた。

 何か胸騒ぎのようなものを感じる。


 じっとしていられず、シルヴィアはキョロキョロ視線を動かした。


 この夜会……知ってる気がする。

 でもなんでかしら?


「あっ!!」

 その時、一人の少女が目に入ってきた。

 

 明るい茶髪に緑の瞳。

 溌剌(はつらつ)とした様子の彼女は美しく着飾っており、自身満々にアーサー王子と踊っていた。


 あの女の子は……セラフィ!!


「……思い出したわ!」

 シルヴィアは思わず呟いた。


 ここは小説の中の世界だ。

 私は以前、その小説を読んだことがある!


 たしか……


『貧乏令嬢が恋の力をお金に変えて王子様をゲットします!? 拾ったお猫様(実は恋の女神)は超気まぐれ!!』

 とかいうタイトルの小説だった気がする……


 主人公は今、アーサー王子と踊っている少女セラフィ。

 元気いっぱいな田舎の貧乏貴族だけど、アーサー王子のことが好き過ぎて、王太子妃になることを夢見ている少女……


 ある日、ピンク色の不思議な猫を拾ってお世話をするんだけど、その猫が実は恋の女神の化身なの。

 人間の〝恋のオーラ〟を食べる代わりに、その人の願い事を叶えてあげることが出来る。

 恋のオーラは食べられても、痛くも痒くも無く、恋心が無くなる訳でもない。


 ただその味を、女神様が気にいるかどうかだったわ。


 セラフィの恋心は人一倍強くって、何か困ったことがある度に恋の女神に願いを叶えてもらっていたわ。


 今日の夜会のドレスや宝石なんかも、何だかんだあって女神に出してもらったはず。


 そして、しっかりした伴侶を求めている気難しいアーサーに、案外、質素倹約に手堅く生きてきたセラフィが合うのよね……




 ーーちょっと待って、私は?

 シルヴィアは……?


 たしか、アーサーの弟としてエリオットは出てきたわ。

 

 エリオットはアーサーの引き立て役みたいに、遊んで暮らすバカな弟として、ちょっとしか出てこなかった。


 そのエリオットの隣にいたのは……ワガママなシルヴィア!


 2人して全くの無能だけど、害の無い人物として描かれていた。

 

 ラブラブなんだけど、タチの悪いバカップルなのよね!


 アーサーが苦労人だというエッセンスとしてだけの登場だったわ。


 


 だから、アーサーと話す時だけ、小説の文章が頭の中に浮かんだんだ……


 …………




「……ヴィー……シルヴィー!」


 気がつくと、長いあいだ考え込んでいたシルヴィアを、エリオットが心配そうな表情をして覗き込んでいた。

 

「大丈夫? 体調が悪そうだよ。今日はもう帰ろうよ」


 優しいエリオットが、シルヴィアを立たせて夜会からの退出を促した。


 シルヴィアは、エリオットのエスコートに素直について行った。


 彼女はまだドキドキしていた。

 思い出したことによる衝撃が、過ぎ去ってなかったからだ。


 なぜか小説の内容だけを思い出していた。

 他のこと……例えばどんな環境で小説を読んでいたかとかは、一切思い出さなかった。




 ーーーーーー

 なんだか、夢から覚めたような気分だった。




**===========**


 数日後、いつもと変わらずシルヴィアとエリオットは庭園でお茶会を開いていた。


 シルヴィアがカップに口をつけて紅茶を一口飲みながら、エリオットの様子を(うかが)う。


「何? シルヴィーどうしたの?」

 エリオットが優しい笑みを浮かべた。


「…………私、このあとに妃教育を受けようと思っているの」

「そうなんだ。……シルヴィーと離れる時間が出来るのは寂しいけど、仕方ないね」

 エリオットが悲しげな表情を浮かべて(うつむ)く。


 小説の内容を思い出したシルヴィアは、考えていた。


 エリーと私はサブキャラ……私なんかはモブぐらいの勢いだけど、大きくなっても王国のお荷物のような説明が少しあっただけ。


 具体的にどうなったか分からないけど、このまま2人で楽しく過ごすだけじゃダメだと思う。


 アーサー王子と、将来彼の王太子妃になるセラフィに、迷惑をかけ続けてしまうことも気が引けるし……


 だから、エリーと離れるのは寂しいけど、私たち2人の将来のためだわ!


「私、大きくなったエリーを立派に支えられる人になりたいから……」

「…………シルヴィーありがとう」


 エリオットの瞳に憂いの色が見えた気がした。

 けれど、彼は笑顔を浮かべるために目を細めたので、その(よど)んだように見えた光は見えなくなってしまった。




 それから、きちんと王族としての責務を果たそうとし出したシルヴィアとエリオットは、段々と2人でいる時間が少なくなっていってしまった。


 そのせいか、エリオットがシルヴィアに固執する気持ちが強まり、会える時間はより一層くっ付くようになってしまった。




「エリー……そんなに近いとお菓子が食べにくいわ」

 シルヴィアは、自分にピッタリとくっ付いて座るエリオットを見た。

「だって、あとちょっとしか一緒にいられないでしょ? 可愛いシルヴィーのそばに少しでもいたくて」

 エリオットがシルヴィアの肩を抱いて、首元に顔をくっ付けてくる。


「フフフッ。エリーは甘えん坊だね」

 シルヴィアも、そんなエリオットにもたれ掛かるように身を任せた。


 2人で一緒にいると、心安らぐのは昔から変わらなかった。

 シルヴィアとエリオットは、この時はまだ寄り添い合っていた。




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