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優しい王子から愛されるシナリオに、あらがってみたくなりました。サブキャラ2人のワガママな恋愛模様  作者: 雪月花
シルヴィアの章

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2/14

2


 シルヴィアは12歳に、エリオットは10歳になった。


 2人は相変わらず仲睦まじく、いつも一緒に過ごしていた。

 身長もエリオットがシルヴィアよりも少しだけ大きくなっており、だんだんと逞しい少年へと成長していた。


 ただ困ったことが起きてきた。

 2人はお互い一緒にいることを優先しすぎて、あまり勉強や王族としての公務をこなさなかった。


「シルヴィーが寂しがるから離れたくない」

 エリオットがそう無邪気に笑いながら言うと、周りの従者たちはあまり強く言えなくなってしまう。


「エリーと一緒ならいいわよ」

 シルヴィアが少し拗ねながら言うと、妃教育を受けてほしい先生たちは、たじろんでしまう。


 そして結局は、2人は第二王子とその妃というスペア的な立場であるため、好きにさせて貰えるのだった。


 たまに社交という名のお茶会に出ても、2人でイチャイチャしているためか、誰も近付けなかった。


「シルヴィー、このお菓子も美味しいよ。食べてごらんよ」

 エリオットが優しく微笑みながら、フォークに刺したお菓子を差し出してきた。


 そして、小さく口を開けたシルヴィアに食べさせてあげる。


「……本当ね。美味しいわ」

 シルヴィアが、扇で口元を隠しながら感想を言った。


「食べてるシルヴィーも可愛いね」

「私もエリーに食べさせてあげる」


 こんな調子で2人の世界によく入っていた。

 


 そうしてシルヴィアとエリオットは、周りの人々から(うつつ)を抜かしている愚か者のレッテルを貼られていった。




 **===========**


 王宮の庭園で、シルヴィアとエリオットがいつものように2人だけでお茶をしていると、アーサー王子が通りかかった。


 アーサーはエリオットの兄であり、この国の王太子だった。

 シルヴィアより3歳年上の彼は、常に威圧的な王子だった。


 金髪碧眼の彼は、いつも気難しい顔をしており、せっかくのカッコ良さも台無しだな、とシルヴィアは思っていた。




 護衛や従者を数名引き連れたアーサーが、シルヴィアたちを見て立ち止まった。

「……ふん。いい気なもんだな」

 そして吐き捨てるように言った。

 

 エリオットを見るその目には、憎しみの色が見えた。


「お前たちが遊んで暮らせるのは、誰のおかげだと思っているんだ」

 アーサーがため息をつく。


「…………」

 思うところがあるのか、エリオットが(うつむ)いた。


 アーサーは頼りにならない第二王子(エリオット)の分も自分が頑張らなくてはと、気を張り詰めていた。

 だから余計に、その原因であるエリオットにつらく当たるのだった。




「まったく。このままだとお前に何も任せられずに、結局僕1人が全てを(にな)うことになるじゃないか」

 アーサーがそう言いながら、チラリとシルヴィアを見た。


 彼と目があった瞬間、不思議な現象がシルヴィアに起きた。


【『少しは王族としての責務を果たしてくれないか』とアーサーは思わず5つ年下の弟に冷たく言ってしまった】


 シルヴィアの頭の中に、一節が浮かんだ。


「少しは王族としての責務を果たしてくれないか」

 目の前にいるアーサーがそう言い捨てると、少しだけバツの悪そうな表情になった。


「…………!!」

 シルヴィアは人知れず、目を見開いて驚いた。


 ーー何かしら?

 頭の中に浮かんだセリフをアーサーが言ったように感じたけれど……




 動揺する中、シルヴィアが意識を目の前の兄弟に戻すと、アーサーは話を終えたようだった。

 彼はきびすを返し、来た時と同じように人々を引き連れて去っていった。




「……何だったのかしら?」

 シルヴィアは遠くなっていくアーサーの背中を見つめながら呟いた。


「どうしたの?」

 エリオットが、様子のおかしいシルヴィアの顔を覗いている。


「なんでもないわ」

 シルヴィアは慌てて笑顔を作った。


 きっと、気のせいよね。




 ーーーーーー


 けれど、それからも同じような現象がたびたび起こった。


 どれも決まってアーサーがいる時だった。


 彼の言葉や行動が、先にシルヴィアの頭の中に文章として浮かんだ。


 シルヴィアはそのたびに考え込んだが、何かを思い出しそうで思い出せなかった。




「シルヴィー、最近よく何か考えてるけど、どうしたの?」

 ソファに隣り合って座っているエリオットが、シルヴィアの方を向いて手をそっと握ってきた。


「…………」

「アーサーに言われたことを気にしてるの?」

「そうじゃないの……」

「……じゃぁいつものシルヴィーみたいに笑ってよ。僕、シルヴィーの笑顔が大好きなんだ」

 エリオットがそう言ってニコニコ笑いかけてきた。


 いつもの優しいエリオットの眼差しを受けて、シルヴィアも自然と笑みを浮かべる。


「私もエリーの笑顔が大好きよ」


 そして2人はいつものように微笑みあった。



 

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