14
王宮の庭園で、シルヴィアとエリオットがいつものように2人だけでお茶会を開いていた。
シルヴィアの願い事が解除されたため、エリオット以外の人たちにも記憶が自然に戻った。
そして上手いこと、シルヴィア不在の時期は無かったことになっていた。
以前と同じようにエリオットの妃としてシルヴィアは過ごしだし、2人が一緒にいることが当たり前な状態に戻った。
2人の寝室からシルヴィアの部屋に繋がる扉も、元に戻っていた。
「はぁ。戻ったのはいいのだけど……」
エリオットの隣にピッタリくっついて座っているシルヴィアが、頬を赤くしながら喋った。
「私がリタだったことは……エリーを好きすぎてお世話をしたがった私の……そういったお遊びだったってことになってるのよね。恥ずかしいわ」
シルヴィアが更に赤くなりながら俯き「メイドプレイを率先してしていたことになってる……」とよく聞き取れない音量でブツブツ言っていた。
「メイド服も可愛かったよ。また着てよ」
「……エリーが意地悪になったわ」
シルヴィアが眉を下げて困っている表情をエリオットに向けた。
「髪は染めてたの?」
エリオットがそう言いながら、シルヴィアの美しい銀髪を優しく撫でた。
長い前髪は切っており、彼女の愛らしい顔がよく見えるようになっていた。
「魔法薬でね。メガネも伊達だったのよ」
「……シルヴィーの記憶がある時から、リタとしてそばに居たよね?」
「うん。……エリーが私といない時はどんな様子なのか気になったから、私専属メイドのハンナに頼んで、潜り込ませて貰ったのが始まりよ。フフッ」
シルヴィアが楽しそうに笑った。
「エリーに気付かれずに、上手くメイドに化けれてたでしょ?」
「……シルヴィーはお世話好きなの? すごく楽しそうにメイドの仕事してたよね?」
「…………」
シルヴィアが照れながらジト目でエリオットを見た。
「エリーのお世話が好きなの。エリーに尽くしたいの。メイドの仕事が好きな訳じゃないわ」
シルヴィアはそう言い終わると、顔をプイッとそむけた。
エリオットは、その可愛らしい様子を見て思わず笑った。
そして意地悪く聞いた。
「何で僕のお世話が好きなの?」
顔をそむけていたシルヴィアが、驚きながらエリオットに振り向いた。
エリオットが微笑みながら首をかしげる。
「……本当に、エリーは意地悪になったわ」
「そう? シルヴィーのワガママには敵わないよ」
「…………エリーが好きだから。エリーには風邪なんか引かずに元気にいて欲しいし、執務で疲れた時はフカフカのベッドでぐっすり眠って欲しい。いつも幸せでいて欲しいの」
「それも嬉しいけど、僕が1番癒されるのはシルヴィーといる時なんだけど。幸せなのはシルヴィーがそばにいる時なんだけど」
エリオットの返事は、リタとして尽くしているよりも、シルヴィアとしてそばにいて欲しかったという非難のようにも聞こえた。
「もしかして、エリー…………記憶を消したこと相当怒ってる?」
シルヴィアが恐る恐るエリオットに聞いた。
「…………」
「やっぱり、怒ってるのね。ごめんなさい」
「謝るんじゃなくて、シルヴィーが僕のことをどれだけ好きか教えて欲しいな。まだ不安だから」
「!!」
シルヴィアが目を見開いた。
そして赤くなりながら俯き「結局、害の無いバカップルなのは変わらないのね。まぁ〝無能〟は付かなくなったからいいのかしら?」とよく聞き取れない音量でまたブツブツ言っていた。
「シルヴィー?」
「……分かったわ。今までエリーがたくさんたくさん愛情を言葉にしてくれたから、今度は私の番よね」
シルヴィアがそう言いながら意気込んでいた。
ちょっと楽しくなってきたエリオットが、シルヴィアに質問して助け舟を出した。
「シルヴィーは、僕のどこが好き?」
「1番は私を大事にしてくれるところ。私が〝置いてかないで〟とお願いすると、必ず聞いてくれたわ。とても嬉しかったの」
「……僕をいつから好きなの?」
「結婚式の時から。エリーが可愛いお姫様がお嫁さんになったって笑顔で言ってくれた時」
「……僕の見た目ではどこが好き?」
「エリーの澄み切った空のような瞳に光が宿る時が好きよ。嬉しそうに笑っている時にキラキラ輝いているの」
「…………」
エリオットが真っ赤になって、シルヴィアから目を逸らした。
「??」
シルヴィアは首をかしげながらエリオットの様子を見ていた。
「……そんなにスラスラ言われると、流石に照れるね」
「フフフッ。そうやって照れてるエリーも可愛くって大好き!」
シルヴィアがニッコリ微笑んだ。
それからも、エリオットとシルヴィアは仲睦まじく過ごした。
2人で寄り添いながら、力を合わせながら、王族としての責務もこなしていった。
そして時間さえあれば2人で一緒に過ごし、周りが呆れるほどイチャイチャしていた。
たくさんたくさん愛を伝えるシルヴィアと、それを聞いて嬉しそうに笑うエリオット。
以前とまるで反対になってしまったが、2人はいつまでも幸せそうだった。
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