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あれから、エリオットのお見合い話はトントン拍子に進んで行った。
クローディアは辺境の伯爵の娘だったため、わざわざ王都にあるタウンハウスに移り住んでくれた。
そして今日は、王宮まで足を運んでくれるらしい。
初めてエリオットとクローディアは会うことになった。
「お初にお目にかかります。エリオット様に会えて嬉しいですわ」
クローディアが優雅に微笑みながら、カテーシーをした。
「僕も会えて嬉しいよ」
エリオットも微笑んで、彼女をエスコートするために隣に並んだ。
クローディアがそっとエリオットの腕に手を添える。
2人は少しぎこちないながらも、和やかな雰囲気で会話をした。
そして庭園に用意されていた机と椅子に座って、2人だけのお茶会を開始する。
クローディアは凛とした素敵な女性だった。
豊富な話題、エリオットを立てながらも自分の意見もさりげなく伝えてくれる姿勢。
彼女はとても賢かった。
自分には勿体無いような相手だな。
エリオットは何気なく思った。
そして、クローディアに笑顔を向けながら考えていた。
おそらく、彼女と結婚するんだろうな。
そういう物なのかな。
特に嫌な所も無いし。
王族としての役目をよく理解していたエリオットは、そう納得していた。
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クローディアとのお茶会が終わり、エリオットが自室に戻ると、メイドのリタがベットメイクをしていた。
「あ、エリオット様。お帰りなさいませ」
シーツを綺麗にかけていたリタが、慌ててペコリと礼をする。
「お着替えなさいますか? でしたら私は一旦退室致します」
「いや、いいよ。その変わり何か飲み物とお茶菓子を準備してくれる? 2人分」
「かしこまりました。……2人分とは? どなたかいらっしゃるんでしょうか?」
「一緒に飲んでくれる? リタも休憩しようよ。君は働きすぎだと思うよ」
エリオットは困惑しているリタに優しく微笑んだ。
けれど少し疲れた様子の笑みになってしまい、リタが心配そうにエリオットを見た。
クローディアとのお茶会は楽しかったけど、初対面の人に対する気遣いでエリオットは疲れていた。
「じゃぁとびきり甘いのを準備しましょう。私の好みなので」
リタが俯きながらニコッと笑うのが見えた。
本当は、エリオットの疲れを癒すための甘いものチョイスだ。
「いいね。頼んだよ」
エリオットもその心遣いが分かっていた。
リタは返事を聞くと、いそいそと準備をしに行った。
「クローディア様はどうでした?」
エリオットとリタが、執務室にあるソファに向かい合って座っていた。
机には甘めの紅茶とお菓子が並んでいる。
「そうだね、とっても素敵な女性だったよ。僕には勿体無いくらい」
エリオットは紅茶を一口のんで、ソーサーに戻した。
「良かったですね。そんな素敵な方がお妃様になるなんて。私もお仕えするのが楽しみです」
リタが、本当に嬉しそうにニコニコしながらエリオットを見つめた。
近くで見る彼女の屈託のない笑顔は、とても眩しかった。
そんな笑顔を見ていると、エリオットまで嬉しい気分になった。
エリオットがリタを見つめていると、その視線に気付いた彼女が、少し照れながらカップを持ち上げ紅茶を飲んだ。
その一連の動作を見てエリオットは驚いた。
「……リタは……高貴な生まれなの?」
リタの紅茶を飲む仕草は、すごく優雅で美しかった。
「!! ……そんな、たいそれたものではありません。私は子爵家の三女になります」
驚いた顔をしたあと、リタは目を逸らしながら消え入るような声で言った。
「そうなんだ」
「はい。家を継ぐ必要や、結婚して他の貴族と縁を結ぶ役目がございませんので、王宮で雇っていただきました」
リタが俯いたまま喋った。
「おーい、エリオット、書類のここの箇所間違ってるぞ」
執務室にクリフが入ってきた。
「なんだ。お茶してたのか。……サボり?」
クリフが苦笑しながらエリオットに言った言葉だったが、リタが自分に言われたと勘違いした。
「申し訳ございません。……仕事に戻りますね。あとで下げに来ますので、エリオット様はゆっくり過ごして下さい」
彼女は立ち上がってペコリと頭を下げると、足早に去っていった。
エリオットが思わず怪訝な目つきでクリフを見た。
「……何だよ。憩いのひとときを邪魔して悪かったけど、お前アレなの? リタが好きなのか?」
クリフがそう言いながら、さっきまでリタが座っていたソファに腰掛けた。
「好きってわけじゃないけど……一緒にいると癒されるよね」
「あー、まぁリタのエリオットに対する忠誠心は半端ないもんなぁ。アレだけ尽くされると気分いいよな」
クリフがお茶菓子の一つを摘んで口に放り投げていた。
そしてモグモグしたあとに、また喋り出した。
「けど今更リタがいいとか言い出すなよ。クローディア様とお前の縁談進んでるんだから」
「そんな、リタと結婚したいとかじゃないよ」
エリオットは思わず苦笑した。
そしてカップを手に持ち、甘い紅茶を一口飲んだ。
「ただの大事なメイドだよ」
エリオットは何故か、カップを持つ手に力が入った。