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完結まで書き上げています。
シルヴィアは持っていたカップを一旦ソーサーの上に戻した。
今は、結婚相手であるエリオット王子とのお茶会の最中だった。
そして、向かい側から送られる熱視線を無表情で受け止める。
「エリーは、いつもいつも私を好きだと言ってくれますが、具体的にはどこが好きなのですか?」
「全部。シルヴィーの光り輝く銀髪も、夜空のような深い青色の瞳も、可愛い笑顔も全てが大好き」
シルヴィアの向かいに座るエリオットが、屈託のない笑顔を浮かべた。
シルヴィアは思わず、冷ややかな目で彼を見つめた。
そして心の中で、ため息をつく。
ーーーー昔はこうじゃなかったのになぁ。
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時は遡り、シルヴィアが7歳、エリオットが5歳の時、幼い2人は結婚した。
国同士の結び付きを強めるための政略結婚だった。
シルヴィアは幼くして、他国に嫁いできたのだ。
隣国の第三王女であったシルヴィアと、この国の第二王子であるエリオットの結婚式は、王族内で盛大に行われた。
美しく着飾った7歳のシルヴィアは、まだ自分より背が低いエリオットの隣に立ち、不思議な気持ちで神に向かって結婚の誓いを立てた。
それが終わるとエリオットと向き合い、ちょっとしゃがんで彼にベールを上げてもらう。
すると、初めてエリオットの綺麗な水色の瞳を見た。
「本当だ。可愛いお姫様が僕のお嫁さんになったんだね」
5歳のエリオットが無邪気に微笑みながら言った。
そして、すこし背伸びをしながら、シルヴィアのほっぺに誓いのキスをしてくれた。
「…………」
シルヴィアはくすぐったい気持ちになって、思わず頬を染めた。
ーーーーーー
それから幼くして夫婦になった2人は、めいいっぱい遊んだ。
政略結婚という大役をもう果たしたからか、周りの大人たちは誰も咎めなかった。
「「きゃははは!!」」
王宮の園庭に、子供特有の甲高い笑い声が響く。
庭園を隅から隅まで走り回ったり、時には従者たちを巻き込んでかくれんぼをしたり……
遊び過ぎた日には、2人で一緒にお昼寝をした。
「シルヴィー、起きて起きて」
先に目覚めたエリオットが、シルヴィアを揺り動かす。
「うーん……なぁに?」
「シルヴィーの好きなお菓子を作ってくれたらしいよ! 食べに行こう」
エリオットは早速食べに行こうと、シルヴィアから離れた。
「待って! 私を置いていかないで」
シルヴィアが青ざめた顔をした。
エリオットは立ち止まって彼女を見つめた。
そしてニッコリと微笑み、シルヴィアに向かって手を差し出す。
「フフッ。ありがとうエリー」
シルヴィアは安心しきった笑顔を浮かべて、エリオットの手をとった。
この頃のシルヴィアの口癖は〝置いていかないで〟だった。
他国から嫁いできたので知り合いも少なく、自分のことを好ましく思ってくれているエリオットが全てのように感じていた。
だから2歳年下の彼に甘えて、どこにでもついていった。
ある時は2人でピクニックをしていた。
大きな木の下で木漏れ日を浴びながら2人で過ごす。
「あはは! 水玉模様みたいになってるね」
シルヴィアが葉っぱの隙間から降り注ぐ光の模様を見て、楽しそうに笑った。
「本当だ。シルヴィーの頭にもあるよ」
エリオットが無邪気に笑って、シルヴィアの頭を撫でるように触れた。
「フフフッ。エリーの顔にもあるよ」
シルヴィアもお返しにと、エリオットのまだ少しプニっとしたほっぺに触った。
そして2人してクスクス笑う。
すると、突然あたりが薄暗くなってきた。
ちょっと驚いているうちに、あっという間に雨雲が広がった。
「雨が降りそう!」
「逃げよう!」
2人はキャーキャー言いながら慌てて城内へ駆け込んだ。
間一髪で雨を免れ、窓から外を見るとシトシト降り出した。
シルヴィアとエリオットは見つめ合い、ニッコリと笑顔を浮かべた。
ーーあのころは、世界がキラキラしたもので満ちているように感じた。
1日中一緒に過ごし、時には喧嘩もした。
けれど次の瞬間には仲直りしていた。
2人で一緒にいろんな場所にも行った。
周りの人たちは、2人が一緒にいることを当然と思うようになった。
シルヴィアは、エリオットの澄み切った空のような瞳が好きだった。
その瞳に光が宿る時が、1番素敵なことを知っていた。
ーーーーーー
「置いていかないで」
「もちろんだよ。大好きなシルヴィーを置いていったりしないよ」
少し大きくなっても、2人の関係は変わらなかった。
相変わらず寂しがり屋で少しワガママなシルヴィアと、そんなシルヴィアに優しくしてくれるエリオット。
この時の2人は、そんな関係がいつまでも続くと思っていた。