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3章


 新しく始めるスローライフの第1歩を踏み出した僕は、村を出て早々、芳しくない状況に巻き込まれたのだ。

 それは突然、助けを求める女性の叫び声を耳にしたところから始まった。


 その叫び声がした方向を辿ると、そこには女性の2人がいた。


 1人は血だらけの女騎士。

 もう1人は身なりのいい少女。

 助けを呼んだのは恐らく身なりのいい少女の方だ。

 そして2人の少女を取り囲んでいたのは、ゴブリンの群れだった。


 ゴブリンは弱い魔物である。

 しかしいざ群れ集まると、1匹の森狼(フォレストウルフ)ほどに強くなる。


 幸いなことに、こっちを見ていないうちにゴブリンを1匹排除することに成功した。


 すると残りの4匹のゴブリンは恐らくリーダーであろう僕がさっき殺ったゴブリンの突然の終焉を目撃して、青ざめた表情からみると非常に驚愕はしていたが、不思議なことに逃げはしなかった。


 逃げれればよかったのに。


 正直に言って、同じDランクとして少しは同情があったが、魔物――特にゴブリンはとにかく最悪だ。


 生かせる意味がない。


 よって僕はここで、目の前にいるすべてのゴブリンを皆殺しにすることにした。

 

 ◇


 僕が持っている剣は普通の剣とはちょっと違う。


 どこかの東の国で鍛造された物と師匠が教えてくれた。

 確か、その国の名前もちゃんと教えてくれた覚えもあるが恥ずかしいことに完全に忘れてしまった。


 にもかかわらず、僕はこの剣を、師匠の弟子になってからずっと持っているのだ。、


 僕が持っている物の中で1番愛着のあるものは?

 と、訊かれたら、迷わずに「この剣が1番好きだ」だと胸を張って自信満々で答えると思う。

 

 師匠からのプレゼントなので当然でしょ。


 長さもいいし、重さもいいし……なんならその切れ味も世界で1番だと僕は個人的に思う。

 

 そのうえで攻防にも有利だ。

 

 欠点というものはまるでないこの武器を使っていて、それでも愛しない者は、なかなかいないじゃないかと正直思う。


 ……が、とはいっても、それぞれの人にはそれぞれの好き嫌いがあるので、好きかどうか決めるのは自分自身だけだ。


 強いて言うなら僕は好き派なんだけどね。



 ――敵を排除すると決めて動き出した僕は、目の前にいる1番近いゴブリンを次に斬ることにした。

 

 呼吸を制御しつつ手を剣の柄にかける。

 するとゴブリンは、僕の突然の動きを見て一瞬で怯んだ。

 

 しかしその一瞬はアイツの終焉につながった瞬間だった。

 次の瞬間、僕はアイツの懐にいた。


 刀身を素早く鞘から抜き、ゴブリンの喉元目掛けて円弧を描いて斬撃を繰り出す。

 するとゴブリンは……やはり反応することができなくて、その首が問題なく斬られたのだ。

 

 そのまま地面に死体が横たわるが、気にせずに僕は残りの3匹のゴブリンと視線を合わせる。


 そんな斬り捨てられたような感じでリーダーと恐らくその副将であろう、ついさっきほどまで僕が斬ったゴブリンが処分されるのを見ると、明らかに震え出すゴブリン達。


 もしかして、この期に及んでやっと逃げる気になったのか?


 まあ、それはそれは――残念だな。


 もちろん僕は、コイツらを逃がすつもりはまったくない。

 

 ……っていうかよく見たら、コイツらをまとめて排除するには、これが絶好のチャンスなのでは?

 

 残りの3匹のゴブリンは、あろうことか並んで立っている。


 3匹は全然動かずに、ずっと僕を警戒しているのだ。

 恐らくだが、僕があんなふうに1匹ずつリーダーとその副将を斬ったからか、3匹は壁のように固まって並んで立てば、僕が斬りにかかってくるときは簡単に攻撃を守備することができるだけでなく、必要なときに隙があれば反撃することもできると思っているでしょ。


 しかし我が師匠の剣技の前では無駄な努力だった。


 刀身を鞘に戻した僕は、その柄に手が掛けられたまま目を閉じると、深く息を吸い込む。

 普段なら戦闘中、特に敵のすぐ目の前では目を閉じることなんて狂気すぎる行動に他ならないが、そこまで心配する必要がないと思う。

 

 しかも、魔力を集めるためには……少なくとも僕にとってはこれが必要だ。


 すると必要な魔力を集めることができ、吸い込んだ息を吐くと同時に僕はパッと目を開ける。

 そしてやはり、ゴブリンは全然身動きを取れずに、ずっと僕を警戒しているのだ。


 が、そんな必要もこの次の攻撃ではなくなる。

 僕は刀身を円滑に抜刀するためにやや前のめりになる。


 そして、言う(唱える)


天地創終流てんちそうしゅうりゅう――奥義:旋風斬撃」


 と。


 すると気づいたら、身体の周りに風が渦巻いたのだ。


 これが、師匠が教えてくれた天地創終流てんちそうしゅうりゅうの奥義のひとつだ。

 

 剣が研がれていることをイメージすれば魔力をそんなふうに鋭くすることができる。

 そうやって魔力の属性を風に変えられる。


 けど、やっぱりそれは、口で言うほどそう簡単ではないだろう。

 

 もちろん、制御するのもちょっと難しいが、魔力操作があまり得意じゃない僕でも、あと数年間も練習してきた結果として、ある程度までやっと使えるようになった。


 率直に言って、この技をゴブリンに対して使うのはちょっとやりすぎだと思うが、まあいいや。


 コイツら最悪だし。


 そして抜刀すれば、身体の周りに渦巻いた風はひとりでに刀身を包み込んだ。


 そこで僕が繰り出す、横なぎだ。


「はァ!!」


 目前にあるずへての木々がまとめて引き抜かれてしまうほどの強烈な一撃だった。

 


 そしてゴブリンどもの運命は……まあ、そこまで言う必要があるとは思わないのだが。


 ◇

 

 これで危機が一旦去ったかな。


 剣を鞘に戻すと、振り返る。


「さてと、大丈夫か?」

「う……動くな……!」


 女騎士が剣を構えて、僕に向かって声を荒らげる。


 どうにも警戒されているようだが、あんな光景を見せつけられたら、そりゃしかたないか。


「あぁ、大丈夫。僕は冒険者……いや。元冒険者のアク。アク・リナンだ」


 そう、両手を見せて危険なヤツじゃないとアピールをしながら自己紹介を言う。

 するとうしろに控えていた金髪碧眼の少女が、僕たちの元へとやってくる。


「アサミ。剣を下ろしてください」

「しかしお嬢様……」


 どうやら女騎士はアサミというらしい。

 ってことは、この少女がもしかして、偉い人なのでは?


 お嬢様は僕を見て、ぺこっと頭を下げる。


「助けてくれてありがとうございます。わたくしはリリス=ヴオン=サテラと申します。サテラ公爵の息女です」


 答えはそう。

 偉い人だった。

 

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