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短編 待ち受け画面の人。 ある男の苦悩。

作者: 単独行

深夜、ライトを消した一台のピックアップトラックが月明りを頼りに、枯れた大地を走っていた。

荷台には無造作に積まれたロケットランチャーと、マシンガンを抱えて腰を下ろしている4人の男が息をひそめていたが、男たちの闘志は熱く燃えていた。


彼らは出発する前に、指導者と名乗る男から、「トラックが到着した場所で敵の足止を図れ」という命令と「神は我々と共にある。この聖戦は必ず成功する」という、熱狂的な言葉を受け、男たちも、その言葉に心酔して、「我々の神は唯一無二だ! この命を捧げても神のもとへ還るだけだ!」と叫んで士気を高めていたからだった。

男達は勇敢でなければならなかった。それは掟がすべてであり、恐れることは恥じであり、死ぬことだからだった。


しかし、一人の男は他の者達とは考え方が違っていた。この戦いに恐怖を感じていた。

彼の父親は宗教学者であり、彼も父を尊敬し、父のような宗教学者を目指していて、心から我らの神の素晴らしい教えを広め、争いのない世界を築こうと夢見ていた。

だが、宗派間の小競り合いといわれていた内戦に、大国が民主主義国家の樹立を手助けするという口実に我々を支配しようとし始めた頃から彼の歯車は狂い始めた。

内戦の本質は何百年も続いてきた部族争に過ぎなかった。ほとんどの者が読み書きを必要とせず、口承と「先祖伝来」のしきたりに従って生きていて、戦う意味や目的は指導者と「利権屋」にしか分からず、戦いは混沌としていた。


だが、争いの陰には、常に野心家がつきものだった。


粘り強くゲリラ戦を続けていた一派が、何者かの手によって武器の援助を受け、攻勢に出た。その結果、優位と思われていた大国と同盟軍に多大な損害を与え、国土の半分を制圧し、彼の住んでいた地域も陥落させた。

戦争は無慈悲なもので、個人の幸せなど考えてはくれない。

彼は異なる宗派の新たな支配者から家族や恋人を守るため、生き残るため、新たな支配者の兵士になるしかなかったのだった。


彼はピックアップトラックの荷台で、これから始まる戦闘の恐怖に耐えようと、待ち受け画面に映る微笑む恋人を見つめていた。

そして、心の中でつぶやいた。「この戦いを早く終わらせ故郷へ帰りたい。家族や恋人と争いのない国で静かに暮らしたい」と。

もちろん、そのようなことを口に出すと、どんな罰がくだされるかも分かっていた。恐れることは死ぬことだからだ。


 トラックが止まると男たちは外国産の暗視カメラを装着し、荷台から降りるとロケットランチャーを担いで荒れ野の丘をゆっくり登りはじめた。

そして、先に上っていたリーダーの男から、「上ってこい」と手振りの合図を確認すると、静かに、歩みを速めた。

小高い丘から双眼鏡で見下ろすと、眼下の細い道を戦車数台と軍用のトラック、そしてマシンガンを搭載したクルーザーが前線を目指して移動しているのが見えた。


リーダーの男が「見えるか。あれが目標だ」と言った。

それを聞くと男たちは一斉にロケットランチャーを構え、照準を戦車やクルーザーに合わせた。スコープの中にはクルーザーの上で夜警にあたっている兵士の姿が見えたがこちらには気づいていない様子だった。

すると一人の男が「あれが敵なのか? 見たこともない国旗じゃないか」と言うと、リーダーの男が「足止めする事が俺たちの使命だ!」と一蹴した。

男たちは闘志を燃やし「使命」を果たすべく、トリガーに指をかけて、照準の的を絞った。

眼下をゆく隊列が最も近距離になったとき、リーダーの男から「撃て!」と号令が出ると、男たちはいっせいに引き金を引くと、素早く暗視カメラを外して発射された弾道の軌跡を目で追った。

弾は次々に命中し隊列は完全に沈黙した。

見届けた男たちは歓喜の声をあげながら全力で丘を駆け下りると、トラックの荷台に飛び乗って作戦の成功を喜びあっていたが、恋人や家族のことを想っていた彼は、


「被弾した彼らにも家族や恋人がいるだろうに・・・・・・。これは本当に我らの神が望んでいることなのだろうか」


と、思っていると、次第に胸中の鈍い痛みが広がっていき、その痛みが黒い塊になっていくのを感じた。



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