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第3話 初デート(3)

 城西駅行きの電車に乗った俺と沙苗は空いてる席に隣同士で座る。

 現在の時刻が9時55分だから、後5分で発車となる。

 電車内を見渡してみると、休日と天気が良いことが影響してるのかは分からないが、家族連れやカップルが多く乗車していた。

 (はた)から見れば俺と沙苗もカップルに見られているのだろうか?というどうでもいいことを思ってしまった。


『間もなく城西駅行き普通列車の発車時刻となります。

 発車する際、ドア付近にいる方は閉まるドアにご注意下さい。

 繰り返しお知らせ致します。

 間もなく城西駅行き───』


 このアナウンスを聞いた沙苗が口を開く。


「ねぇ俊吾、今日は思いっ切りデートを楽しむわよ!」


「ああ、存分に楽しもう!」


 と、やり取りしながら沙苗の表情を見て思った。

 さっきまでの怒りは治まったみたいだな、と。


『城西駅行き普通列車の発車時刻となりましたので、白蘭駅を発車致します。

 閉まるドアにご注意下さい。

 繰り返しお知らせ致します。

 城西駅行き普通列車の───』


 発車時刻となったことを告げるアナウンスが流れた後、俺と沙苗が乗った電車は白蘭駅を後にする。

 走り始めた車内で俺と沙苗は、俺のスマホで城西駅周辺の食事処を検索していた。


「しゅんごしゅんご!このお店の料理、美味しそうじゃない?」


「どれどれ……ほぉ、確かに美味しそうだな。

 しかも値段がとてもリーズナブルだし」


「注目するのはそこじゃなくてこっちよ!」


 そう言って沙苗が指さしたのは料理の値段ではなく、料理の総重量表示の方だった。

 なので俺も沙苗が指し示した箇所を見て声を上げる。


「えっ?嘘だろ?この量で580円は安すぎるな!」


「でしょ?」


 俺と沙苗が興奮している理由は至ってシンプルだ。

 料理の総重量が多くて安いから。


「昼食はこの店で決まりだな!」


「うん、決まりね!

 評価も悪くないし、レビューも良いことばかり書かれてるしね!」


 お金持ちだからといって必ず高い料理を食べる必要はない!

 寧ろ安くて量が多い料理を食べるべし!

 この2つは我が瀬戸崎家の家訓となっている。

 だからこそ俺と沙苗は必死になってサイトを漁っていたのである。


「ふっ、また一つ良い店を発見した気がするよ」


「それを決めるのは、実際に食べてからじゃないと!

 今決めてもダメだと私は思うわ!」


「確かに沙苗の言う通りだな。

 ならば、実際に食べてから決めることにしよう」


 傍から見れば、なんとも不思議なカップルと思われてることだろう。

 だけど他人から見た印象なんて、俺と沙苗には関係の無いことだ。

 自分達が納得し、楽しく食事が出来ればいいのだから。

 そう思っていると、車内アナウンスが流れる。


『間もなく当列車は次の停車駅の城西駅に到着致します。

 お忘れ物がないか再度の確認をお願い致します。

 繰り返しお知らせ致します。

 間もなく当列車は次の停車駅───』


 料理店探しに夢中になっている間に到着時刻となっていたらしい。

 夢中になると時間が経つのは早いな。


「話に夢中になってたら、あっという間に到着時刻になっちゃってたわね」


 沙苗も俺と同じ感想を抱いていたらしい。

 やはり俺と沙苗の相性は最高のようだ。

 とか思っていたら電車は城西駅のホームに停車してた。

 そしてドアも開いていた。


「ほら俊吾、行くわよ!」


「おう!」


 先に席を立った沙苗に手を取って立ち上がらせられ、手を引かれながら電車を降りる。

 白蘭駅の待合室の時の逆バージョンだ。

 そう思いながら改札口へと続く階段を上り、改札ゲートに切符を通してから通過する。

 そして白蘭駅の建屋から出た俺と沙苗は、沙苗が行きたいと言っていたアミューズメント施設へと向かった。











 歩くこと10分後、俺と沙苗はアミューズメント施設入口前に到着した。

 到着するまでの間、俺はずっと沙苗に手を引かれた状態だったと付け加えておく。

 施設内に入った俺と沙苗は受付前へと向かった。

 受付をしないと施設内で遊べないからだ。


「セトザキ・アミューズメントパークへようこそ!

 入場手続きを致しますので、会員証のご提示をお願い致します」


 受付嬢が言ったように、このアミューズメント施設は瀬戸崎財閥グループ直営の施設です。

 なので俺が会員証を提示した場合、これから起こる出来事の予想はつくハズです。


「これで手続きをお願いします」


「………………」


 俺が会員証を出して受付嬢に渡すと、会員証に記載された名前を見た受付嬢が石像のように固まった。

 まぁ、そうなっちゃうよね……。

 自分が働いている施設の会長が目の前にいるんだから。


「あ、俊吾の会員証を見た受付のお姉さんが固まっちゃったわ」


 沙苗の言葉を聞いたからなのかは分からないが、石像状態から回復した受付嬢が慌てて言う。


「た、大変失礼致しました…瀬戸崎会長。

 そ、それでは入場手続きの方に入らせて頂きます!」


 ガッチガチに緊張しながら俺と沙苗の入場手続きを始める受付嬢。

 なので俺は助け舟を出す。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。

 今回は視察ではなくプライベートで遊びに来てるだけですので。

 だから普段通りに接して下さい」


「か、会長がそう仰るのなら……。

 ですが、出来れば事前に連絡して欲しかったです。

 心臓が止まるかと思いましたので……」


 やっぱり事前に連絡しとくべきだったか……。

 そう思った俺はお詫びの意味を込めて言う。


「確かに連絡してから来るべきだったと反省してます。

 なので……この施設で働く全従業員の夏のボーナスを10%上乗せさせて頂きますね」


「あ、ありがとうございます!!」


 俺の言葉を聞いた受付嬢は嬉しそうな表情をしながらお礼を言ってきた。

 いや、お礼を言われてもなぁ……。

 今回はこちらに落ち度があったわけだし、ねぇ?


「入場手続きが完了致しましたので、会員証をお返し致します。

 瀬戸崎会長、心ゆくまで当アミューズメント施設をお楽しみ下さいませ!」


「ええ、存分に楽しませて頂きますね。

 では沙苗、行こうか」


「うん!」


 受付を済ませた俺と沙苗は、入場ゲートを通過して施設内部に足を踏み入れた。






 ゲートを通過した先に広がる光景を見た沙苗は、俺の手を引いて一直線にUFOキャッチャーコーナーへと小走りで向かって行く。

 UFOキャッチャーコーナーに辿り着いたと思ったのも束の間、沙苗は俺の手を引いたまま猫のぬいぐるみが入ったUFOキャッチャー前へと向かい始める。

 そして辿り着いてから言う。


「よしっ!絶対に取ってみせるわ!!」


 そう言う沙苗の目には炎の闘志が宿っていた。

 余程、猫のぬいぐるみが欲しかったんだなと俺は思った。


「さ~てと、最初は真ん中から攻めて見ようかしら。

 ……あー、ちょっと後ろ過ぎたわね。

 だったら次は前よりの真ん中に進めてっと♪

 よしっ!その調子でお願い!出口まで何とか耐えて!

 ……あっ!そこまで耐えてたのに、何で落ちちゃうのよ!

 それなら次は───」


 と、そんなことを繰り返すこと20分後。

 遂にその瞬間が訪れたのだ!


「よしっ、そのままの状態を保ちなさい!

 そのままよ?絶対にそのままよ!

 …………………。

 …………。

 ……落ちた……出口に落ちたわ!

 ようやく猫のぬいぐるみを手に入れたわよ!!」


「沙苗、おめでとう!」


「ありがとう俊吾!」


 猫のぬいぐるみを抱きしめる沙苗の嬉しそうな表情を、俺は生涯に渡って忘れることはないだろう。

 そう俺が思ってしまう程に───沙苗は美しかったから。

 猫のぬいぐるみを手に入れた以降も、沙苗はUFOキャッチャーで喜怒哀楽の表情を浮かべながら次々と景品をゲットしていった。

 だが腕時計で時間を見ると昼を過ぎてたので、沙苗に声を掛ける。


「沙苗、そろそろ昼食を食べに行かないか?

 もう昼も過ぎてることだしね」


「もうそんな時間なの!?

 UFOキャッチャーに夢中になり過ぎてて気付かなかったわ!」


「だと思ったから声を掛けたんだけどね」


「まだまだUFOキャッチャーをプレイしていたいし、あの店の料理も食べたいし……。

 う~ん、非常に悩むわね……。

 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ………。

 ……よしっ、決まったわ!

 昼食を食べに行きましょう!」


「結構な時間、悩んだな!?」


 かれこれ30分くらい悩んでたぞ!?

 どれだけUFOキャッチャーに気持ちが傾いてたんだよ!?って、言いたいのを何とか(こら)え、沙苗の手を引いて入場ゲートを通り、受付嬢に昼食を食べに行く旨を伝え、沙苗が手に入れた景品を預け、施設から出る。

 そして電車の中で調べた料理店へと向かうのだった───











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