瀬戸崎財閥グループ会長としての俊吾(後編①)
桜坂会長と俊吾は、料理を食べつつもそれぞれの財閥状況について話し合う。
「それで、桜坂財閥グループの経営状況はどんな感じなの?」
「うむ。 概ね問題ないのだが、元竜ヶ崎財閥グループの傘下であった企業の幾つかが不穏な行動をしている……という報告が上がってきていてな……。 どうしたもんかと頭を悩ませている」
「元竜ヶ崎財閥グループの傘下だった企業の幾つかの不穏な行動、ですか。 行動を起こされる前に対処する必要がある、か」
「その通りだ。 俊吾君、何か知恵はないだろうか?」
「うーん……俺なら敢えて行動を起こさせてから処分する、な」
「なるほど、な。 それも1つの手か……。 しかし、何が目的なんだろうな」
「考えられるのは、元竜ヶ崎財閥会長らを失脚させた瀬戸崎財閥グループへの復讐……だろうな。 真っ向から挑んでも勝ち目がないと踏んで、瀬戸崎財閥グループと協力関係にある桜坂財閥グループ内で切り崩しを行い、権威を失墜させようと企んでいるか、だな」
「俊吾君が言ったようなことを実行されてしまえば、此方としては痛手となるな」
「だよな。 行動を監視する必要があるだろうね。 手が足りないようなら、こっちから出すが?」
「俊吾君、頼めるかい?」
「分かった。 直ぐに手配するよ」
そう言った俊吾が指を鳴らすと、ウエイターの男性が俊吾の傍まで来る。
「瀬戸崎会長、お呼びでございますか?」
「すまないんだが、桜坂財閥グループが吸収した元竜ヶ崎財閥グループ傘下の企業の一部に不穏な行動が見られるらしい。 どの企業が不穏な行動を取ってるのかを早急に調べ上げ、監視下に置け! それと、俺への報告も逐一してくれ。 以上だ」
「かしこまりました。 直ぐに調べ上げ、監視下に置きます。 では」
俊吾の指示を受けたウエイターの男性が、俊吾にお辞儀をしてから立ち去っていく。
俊吾の対応の速さに、桜坂会長が驚きの声を上げる。
「俊吾君の対応の速さに、私は驚いてしまったよ」
「現役高校生とはいえ、これでも瀬戸崎財閥グループの会長だからな。 対応が遅ければ、その分だけ此方が後手に回るからな」
「俊吾君、恐れ入ったよ。 対応してくれて感謝する」
早急に対応してくれた俊吾に、桜坂会長は頭を下げる。それを良しとしなかった俊吾が口を開く。
「桜坂会長には父さんの代から世話になってるんだから、さ。 お互いに助け合わなきゃでしょ? その為に相互協力関係を結んでるんだから、ね」
「ふっ……俊吾君の言う通りだな。 んで、俊吾君の所の経営状況はどんな感じだい?」
「こっちの経営状況は至って良好だよ。 瀬戸崎財閥グループが吸収した元竜ヶ崎財閥グループ・元西園寺財閥グループにいた傘下企業も、大分馴染めてきたとの報告があったよ」
「それは上々だね」
そう桜坂会長が言った後に、黙って聞いていたお爺様が口を開く。沙苗が不機嫌になってるのを察した為である。
「さっきから、お主ら2人だけの世界に入ってないか? 儂も沙苗嬢も蚊帳の外と化しておるではないか。 特に俊吾は、な」
「……返す言葉も御座いません。 沙苗にも悪いことをした、すまん……」
沙苗が不機嫌になってるのをようやく察した俊吾は、沙苗に謝る。その沙苗は、小さな声で呟く。
「………パフェ」
「へ? ごめん、聞こえなかったんだが……」
「パフェって言ったの!! 俊吾、なんで頼んでくれてないの!?」
「怒ってるとこ、そこなの!?」
「当たり前でしょ!? ってことで、これを奢ってくれたら許してあげる」
そう沙苗が言いながら、メニュー表のある部分を指し示した所を、俺も見る。そこに書かれていたのは───
● カップル限定スペシャル特大パフェ(総重量3
.8Kg)─3700円
「えっと……本日、カップル様限定で頼めるスペシャルデザートで、イチゴ・キウイ・リンゴ・パイナップル・桃・梨・ミカンを使用し、生クリーム(大量)とウエハース・バニラアイス・白玉(大量)・粒あん等をトッピングした贅沢なパフェとなっており、カップル様以外のお客様にはご提供しておりません。 完食したカップル様にはもれなく、2泊3日の豪華ホテル宿泊ペアチケットをプレゼント致しますので、カップルの皆様は完食を目指して頑張って下さい! 尚、チケット提供者は瀬戸崎財閥グループ様となっております……と。 沙苗、本当にこれを注文して良いんだな?」
敢えて、チケットとカップル限定という言葉を見なかったことにした俊吾が沙苗に最終確認をとる。
「うん♡ あっ、私が注文するね!! すいませーん、注文したいんですけどー!」
俺の返答を待たずに店員を呼ぶ沙苗。沙苗の声に反応したウエイトレスの女性が席にやってくる。
「お待たせ致しました! ご注文をお伺い致します」
「カップル限定スペシャル特大パフェを1つお願いします!」
「かしこまりました。 ご注文を確認致します。 カップル限定スペシャル特大パフェを、お1つでお間違いないでしょうか?」
「はい! それでお願いします!」
「かしこまりました。 只今お作り致しますので、暫くお待ち下さいませ」
注文内容をメモった後、お辞儀をしてから離れていくウエイトレスの女性。
それを見送った後に沙苗を見ると、パフェの到着を楽しみにしている表情をしていた。
注文してから暫くして、パフェが席に運ばれてくる。
運ばれてきたパフェの大きさに、沙苗を除く俺達3人は唖然としていた。
「「「……………」」」
「お待たせ致しました。 カップル限定スペシャル特大パフェになります。 以上で、ご注文の料理はお揃いでしょうか?」
「はい!」
「それでは、伝票をこちらの筒に入れておきまので、会計時に伝票と一緒にレジまでお持ち下さいませ。 では、ごゆっくりとお楽しみ下さいませ」
ウエイトレスが伝票を置いて去っていった後、沙苗が俺に言う。
「それじゃぁ俊吾、半分は任せたわね! いただきます!」
「え………」
沙苗に半分は任せたよと言われた俺は、絶望するのだった────