第6話 クールな美人がそばにいる
カーテンを閉じて薄暗がりになった寝室の中で、俺はこの人を大切にすることが出来るのだろうかと、彼女の白い素肌を見ながら思う。誰かと付き合うということがあっても、明確な恋慕を抱いたことはほとんど無いような気がするから。
「律樹くん、どうしたの?」
いつの間にか李衣菜の肌を撫でていたようで、幸せそうに目を瞑っていた彼女が聞いてきた。
「李衣菜の肌ってやらけえよな」
「まあ、女子だからね」
久々の其れは、まあ満たされるものだった。思っていたよりも長引いてしまったし、思ったよりも激しくなってしまったとだけしか言えない。
こんなもので満たされるだけ満たされて、そうしたらこの人に興味も持たなくなってまた振られるんだろうか。いつぞやのあの人に言われた『無関心すぎて腹が立つ』という言葉。虚しいというか寂しいというか自分に対する怒りというか。小さい棘みたいなものが居座り続けている。
「………律樹くん不安そうな顔してる」
「あー、分かる?」
「ええ。何でも言ってほしいわ。なるべく君の役に立ちたいと思ってるのよ」
献身的。ジェンダー混同のこの時代に女性の在り方を説こうとは思わない。そういう事々を抜きにして素直に嬉しかった。
そういう献身的な姿勢を自分も返せるようになってからこそ、支え合っていると言えるようになるのだろう。
「人間への関心が薄いっぽい、俺」
「確かに、そんな気がするかもしれないわね」
「……まあ。そうだよな」
小さいころから何が行動をするたびに、周りの人との熱量の差が気がかりでたまらなかった。太宰治の人間失格を軽く齧った身から言わせてしてもらうと、あれの主人公と微妙に似通った感じだ。自分の境遇と重なる部分があったからこそ、それ以上読み進めることはできなかったが。
「……自分に自信がなくてすまんな。多分自信持てるまでかなり時間かかる」
「大丈夫だよ。私はいつまでも待ってるわ」
「よくそんなくさいセリフ吐けるな」
「仕方ないでしょう?今最高に幸せなんだもの」
彼女の瞳にはどんなバイアスがかかって、どんな幸せが世界が広がっているのだろうか。自分の否定的な世界ではなく、もっときれいな世界が広がっているのだろうか。
彼女が自分を好いてくれるのはいつまで続くか分からないが、好かれている間だけはなるべく李衣菜に尽くせるように生きていたい。……こういう、いつまで続くか分からないなどと考えている点が嫌われる所以なのだろうか。
「とりあえず服着るぞ」
「えっと、私は続きしてもいいわよ」
「こんなしょっぱなから飛ばしてたらいつか途切れるぞ」
そもそもさっきまでも激しすぎたせいで体力は残っていない。のそのそと布団から這い出ると、李衣菜はゆっくりと目を瞬いた。
「……これからもこの関係を続けてくれるってことでいいのかしら?」
「あー、………そうだな。いっそのこと付き合ってる方がよさそうだな」
「え、え、え、え!いいの!?」
無言で首肯する。付き合ってもいない男子と肉体関係を持つというのは彼女の体裁も悪いだろうという発言だったのだが、李衣菜は予想以上に嬉しそうに歓声を上げていた。
頬を緩めながら李衣菜が抱き着いてくる。
「君が私のことどう思ってるか分からないけど、私は君のことが好きだから。だから付き合えるのは嬉しいの。分かってくれるかな?」
「……無理だな」
「だと思った。でも、それでもいい気がするわ」
さすがに全裸のまま話すことではないので、ブランケットを押し付ける。いたずらっぽく笑いながら胸元を見せて来たりするが、何度も言ってるが今日はもう限界だ。
どことなく歪んでいる自分でも、認めてくれる人はいるらしい。李衣菜も物好きなのだとは思うが、彼女に失望されるようなことだけはしたくないと思った。
【終わり】