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第1話 クールな美人が甘えてくる

ちょっとセンシティブなものが書きたくて突発的に書きました。短めです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~




 『高嶺の花』というのは実際に存在するらしい。自分では絶対に届かないと思わされるような完成された人物が。ライトノベルや漫画のラブコメでしか存在しないものだと思っていたのだが、本当に居るようだ。


 俺───西澤にしざわ律樹(りつき)にとっての『高嶺の花』は、同じサークルに居る秋原あきばら李衣菜(りいな)だった。


 容姿端麗、文武両道、そしてどこぞの社長令嬢な彼女。長く後ろに伸ばされた髪がポニーテールで纏められ、白く透き通るようなうなじが覗いている。先輩後輩、男女誰にも分け隔てなく距離を取って接する様子は逆に人気を博し、大学内部の、どちらかというとイケメンが集まっているサークルの中で誰が秋原李衣菜の彼氏になるのかという論争が起こっているほどだった。まさに一般人が求めるすべてのものを持っているかのような『高嶺の花』だ。


 一つ彼女の欠点として語られるところがあるとすれば、恋愛に興味がないことだろうか。一歩距離を取って接する彼女に告白しても誰も成功するわけがなく、サークル内でも玉砕した人が数人いる。


 というように、ガードが堅いのが彼女の特徴なのだが。


「西澤君。私にかまってほしいの」


 若干呂律(ろれつ)の回っていない声で、甘えるように視線を向けてくる李衣菜。明らかに普段の彼女のクールな様子とは掛け離れている。飲酒してしまうと、人はここまでキャラクターが変わるものなのだろうか。


「どうしたんですか秋原さん」

「もう、そんな他人行儀にならなくたっていいじゃない。同学年なんだし敬語とか使わなくていいわよ」

「いや、そんなわけにもいかないでしょう」


 こうして話しかけられているだけで周りからの視線が痛いというのに、なぜそこまで親し気に接さなくてはいけないのか。確かに美人と仲良くできるというのは嬉しいことかもしれないが、それよりは自身の平穏を守りたい。


 というか、酒に酔った李衣菜は妙に艶めかしい。少し頬を紅潮させながら暑さゆえか襟を持って首元を仰いでいてその白い肌が覗いているのが心臓に悪かった。自分の容姿の破壊力を理解しているのであればもう少し気を遣ってほしい。酔っているから無理な話なのかもしれないが。


「別に俺以外にも話相手いますよね?」

「いいじゃない。私は君と話したいの」


 軽く頬を膨らませる彼女の様子を見ながらため息を吐く。普段の様子とのギャップに思考が追い付いていない。


 普段こうしたコミュニティがある場合は基本的に隅で澄ました顔をしながら静かにしていることが多いというのに。いつもは彼女自身の女子友達に囲まれていて、男子が迫ろうにも何もできない程には周りとの交流を断っている。俺自身はあまり意識してこなかったが、他の男子が『手も出せやしねえ』と愚痴っているのをよく聞いた。


 そういえば普段李衣菜の周りを護衛している女子たちは何処に言ったのだろうか。周りを見渡してもあまり囲まれているようには感じない。男子たちの羨望と嫉妬の入り混じった視線はものすごく気になるものの、それを努めて無視して遠くを見渡した。サークルの飲み会にはかなりに人が来たようで、居酒屋の大部屋の中にはかなりの人がいる。


「普段一緒に居るような女子たちは何処行ったんですか?」

「私という存在がありながら他の女子に目をつけるのね……」


 面倒くさい。これが美人だからギリギリ許されているものの、一般人がやったら確実に敬遠される行為だ。


「俺と秋原さんはそんな関係じゃないですよね。で、どこなんですか?」

「酷い。もう少し乗ってくれたっていいのに」


 俺の言葉に対して李衣菜が言い返してくる。本当に李衣菜なのだろうかと問いたくなる程度には、普段の性格と違いがあり過ぎた。


「笑わせに来る男子を『何言ってるの?』って冷たい目で見ながらばっさばっさ切り捨ててる人からだけは言われたくないですね」

「……何も言えないわね」


 拗ねたような表情を浮かべ、李衣菜が腰を軽く浮かせて遠くの方を指さす。


「いつもは一緒に居てくれるんだけど、今日は西澤君がいるから安心だねってことで各自で楽しんでるわ」

「俺がいるから大丈夫ってどういうことですか」

「人畜無害ってことよ」

「酷い認識されてますね」


 俺は無害だからと俺に押し付けて自分たちは楽しもうということか。大方、『李衣菜と話せるのであれば男子としては嬉しいだろう』とでも判断されたのだろう。迷惑極まりない。


 俺自身はこの飲み会をさほど楽しみにしていたわけではないので、最初の期待値からの差を考えたら大した損にはなっていないのが、自分が取るに足らない人物だと明言されているような気がして逆に腹が立つ。


「んで、構ってほしいってどういうことですか」

「そのままの意味よ」


 悪びれる様子もなく堂々と李衣菜は言い放った。反省のかけらも見られない彼女に頭を抱えたくなる。


「妙にテンションが高い………」

「あら?かまってほしいっていうのは完全に無視されたってことでいいのかしら?」

「妙にテンションが高いですね。どうしてでございましょうか?」

「酔ってるからよ」


 なんだろうか、底抜けに明るいのはいいのだが、接していて疲れる。李衣菜が非常に楽しそうなのは看過できるとして、その被害が俺に及んでいるのはいただけない。俺の平穏な日常は自分探しの旅にでも消えて行ってしまったのだろうか。そんなに自我が不安定ならいっそのこと無感情でずっと傍にいてくれればいいのに。


 ちらりと李衣菜の顔を伺う。少し頬は赤くなっているが、泥酔しているわけではなさそうだ。まだ酒に手を伸ばし続けているから途中で止めないと大変なことになるかもしれない。少し酔っているだけでもここまで豹変してしまっているのだから。


「もうこれ以上飲まないでください」


 酒類を追加で注文しようとしている李衣菜を見て、その手に持たれているメニュー表を取り上げた。これ以上飲まれて酔われたら堪ったものではない。

 そんな俺の言葉を受けて李衣菜は目をしばたかせたあと、不満気に顔をしかめた。


「もしかして、西澤君もお酒を飲むのを制限するのかしら?いつも一緒に居てくれるみんなにも言われるのよ」

「酔うと対応が面倒くさいだからでしょうね」

「ナチュラルに罵倒されたわね。でも、なんだか新鮮で楽しいわ」


 何が楽しいのか分からないが、李衣菜はにこにこと笑みを浮かべている。今まで俺はこんな表情を浮かべる彼女を見たことがなかった。


「なるほど、秋原さんはMだったんですね」

「違うわよ。率直な意見を直接伝えてくれる男子がなかなかいないのよね。私の周りには」


 確かにそれはそうだろう。李衣菜の周りにつどる男子はほとんどが彼女の気を引くことを目的としているだろうから。


「ちょっとお手洗い行ってきます」

「私から逃げようとはしないでよね。ついていこうかしら?」

「何言ってるんですか変態」

「ふふ、酷いわ」


 明らかに正気の沙汰じゃない。これ見よがしにため息をついて見せ、いまだに楽しそうに笑う李衣菜を一瞥してから席を立った。


 自分の席に戻ってきたときには、李衣菜の前に置かれている酒類が増えていた。

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