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閑話:しゅわしゅわの聖水

 キヴィタス村は最近平和……ではなかった。

 けれどもそれは外敵の問題ではない。教都から派遣されたヤバめな神父は村長の尽力によってそうそうに追い出された。それに村はあたかも要塞のような様相を呈していて、おいそれと侵略を許すレベルではなかった。デュラはんの築いた高い城壁と深い堀は教都に比べても難攻不落で鉄壁である。

 時々教都から様子を伺いに使者が来ることも有るが、ぼんやりと口を開けて城壁を眺め、それから要件を伝えて去っていく。それが常日頃の様子。


 問題。それは村の内部のこと。

 ええと、厳密にいえば村の内部ではない、ような。いや、敷地内だから内部なのかな。ともあれ問題は結局の所デュラはんで、デュラハンの首である。

 ある日を境にデュラハンの首が落ちてくるようになった。最初に発見したのは釣りをしていた僕とデュラはんで、それはもう高高度からひゅーんと突然落ちてきてドグォという大きな音と土埃をたてて土にめり込んだ。


「いてていてて助けて誰かお願い」


 土埃が収まった後、そんな情けない音が小さい穴から聞こえてくる。


「なはは、これあれやん、王様の耳はロバの耳やん、めっちゃ受ける」

「たすけて、ほんまたすけて、動けへん」

「ええーどうしよっかなー」

「あんたも首だけやん。そこにおるやろ、体がある人」


 体って。親しげなわけのわからない問答にどうしたらいいかわからなくなって、とりあえず手元のデュラはんに問いかける、


「あの、これはどういうことでしょう」

「え~? 俺にもわからんけど首が降ってきたんやろ~? デュラハンちゃうの~?」

「たすけて、ほんま、たすけて」

「助けたほうがいいのでしょうか?」

「このままやったらどうなるんやろ、おもろいな」

「ちょ、ま、お前転生者だろ? 呪道海鮮丼の続き知りとうないんか!?」

「え、ちょ、ま、まじで! ボニたん、たいへんや! 助けたり!」

「噛み付いたりしません?」

「せんせん、せんから」


 なんだか腑に落ちない気分で穴に近づくと、50センチほどの深さの先に顔があってこちらを見上げていた。デュラはんと同じように黒髪黒目。デュラはんと同じ国から来た人なのかな。


 僕はとりあえず穴の端を広げる作業に着手する。少しずつ土をよせていく度にぱらぱらと土が穴の中に転がり落ちる。


「ぶへ、ぶほ、ちょ、もちょ、土が」

「そうはいっても広げないと掘り出せません、少し我慢して下さい」

「や、ちょ、ま」


 そんな様子をデュラはんはベンチでゲラゲラ笑いながら見ていた。ちょっとイラっとした。そんな作業を1時間くらいしたら、ようやく顔が取り出せた。


「ほんまおおきに。でもヤバイなコレ、下むいて落ちたらどうもならんとこやったわ」

「いえ」

「次来る奴は大丈夫なんかな」

「次?」

「んと、あー」

「あー」


 その首とデュラはんの首は上空を見上げて、つられて僕も上を向くと、青い空に黒い点が見える。それが太陽の光をキラリと反射した後、またドゴォという音とともに近くの地面にめり込んだ。今度はうめき声はしない。

 恐る恐る穴に近寄ると、同じ用に黒髪の後頭部が見えた。


「あの……」


 声をかけてみたが、心持ちもぞもぞ動いている気はするけれども声はない。ええと、これは、どういう状況?

 そうすると先程の首がコロコロと近くにまで転がってきた。


「おーい、ケンスケ、大丈夫かー?」

「……」

「やばいかも、あの、こいつを掘り出してもらいたいんやけど、だめかな」


 首はニコッと笑って言った。


「あの、ひょっとして掘り出したらまた降ってきたりは……」

「あ、ダイジョブダイジョブ、とりま俺とこいつだけ」

「とりま?」

「そうそう、即物的に役に立つのが俺とこいつやから」

「即物的に?」

「そう、俺、鯉の養殖してたん。この村養殖しとるやろ? でも見るからに間違うとるとこがあるから」

「ま、まじで! お魚増やしたいん! そんで埋まっとるんは?」

「こいつは農家。近代農家。土壌改良とかの知識持っとる」

「ま、まじで! おいしいお野菜!?」

「せやせや」

「ボニたん、急いで掘り出したって! ご飯増えるで!」

「はぁ」


 それでまた1時間ほどかけて土を掘り出した。そのケンスケと呼ばれた首はさすがにぐったりしていたけど、しばらくすると意識を取り戻した。


「お手数をおかけしました! 誠心誠意働きます! どうぞよろしくお願いいたします!」

「はぁ」


 でもその頃には夕方で日が少しずつ暗くなっていたから首を3つ持って帰ることにした。なんていうか、絵面がとても猟奇的。

 寝泊まりしている社に戻って燭台をつける。ええと、とりあえず晩ごはんかな。かまどに火を入れて野菜を切ってスープを煮る。それから猟師さんにおすそ分けしてもらった少しの鹿肉を焼いてパンを添える。

 それからどうやらデュラはんと違ってデュラはんの仲間の首はご飯をちょっとだけ食べられるらしい。妖精だからか基本的にはご飯は食べられないらしいのだけど、食べれると言い張った。デュラはんは懐疑的な目で見ていたからほんの一欠片だけ。

 ええとそれで、2人とも体がないけど食べさせればいいのかな? そう思ったら二人の前のパンが浮いて口元に移動してもしゃもしゃ食べ始めた。えぇ?


「ちょ、ま、お前らどうやったんそれ」

「えー普通に?」

「そうそう普通に」

「まって、まじで、俺できんのやけど!?」

「じゃあどうやってたん」

「そら、体が有るときは体で食べて、今はボニたんに食べさせてもろとるんやけど」

「うっわ、マンモーニだ、こいつマンモーニ」

「引くわぁ」

「ちょ、ほんま、どうやるん?」

「まじでわからんの?」

「まじで」

「不自由せんやつはこれやから」


 聞いてみると、どうやら二人は体は全然動かせなくて飯も支給されなかったから自力で魔法的な何かを練習して物が動かせるようになったそうだ。それで体内に悪影響が出ないようにコーティングして食べられるようになったとか。ちょっと何を言っているのかさっぱりわからない。デュラはんも練習したらできるのかな。


「そんでそんで海鮮丼は~?」

「えっとどこまで見てるん?」

「巨大ロボット出るとこまで」

「え、ちょま、それどういう話?」

「えぇ~? まさかそこまで到達してない!?」

「ごめ、教えて」

「もう、しゃあないなぁ。でもお前らみたいなのようけおるん?」

「結構いる、でもわりと技術職多いからチートできるで」

「ほんまに?」


 そんな話を隣で聴きながら夜も更けていった。

 デュラはん用の座布団の隣に座布団を追加で2つ置いて夜中まで話をしていた。修学旅行っぽいと言っていたけれど修学旅行って何だろう?


「ボニたん大変や!」

「なぁに? もう眠い」

「こいつらめっさホコリっぽいんや! 土に埋まったからな……」


 うう~そんな事今言われても。

 僕だって今日一日穴を掘ったりして埃っぽいよ。明日、明日ね……。



「なにこれなにこれ! めっちゃしゅわしゅわ~」

「やろやろ、最高やん?」

「ちょ、俺も」

「やめてください! 動かないで! 飛び散る!」


 翌朝、僕はデュラはんたちを聖水でシャンプーしていた。

 聖水ってなんだろう……。デュラはんだけが特殊かと思っていたけど、この2人にも聖水は効かないっぽい。しゅわしゅわ泡立つ聖水にご満悦だ。

 しかも2人は自分を持ち上げて浮かせられる。勝手に動くから頭が洗いにくい。それにしてもなんで泡立ってるの? 意味がわからないよ。論文出したらボーナスとか出そう。でも僕は死んだことになってるし、むう。


「ボニたん、俺も俺も!」

「ちょっと、順番です! 順番! 守って!」

「はーい」

「はーい」

「本当にもう」


 そう思っているとまた2人の首が空を見上げて、デュラはんも釣られて、僕も釣られて見上げた。そうするとひゅーんという風切り音とともにドゴォという音がして近くの地面がえぐれた。


「ぐあぁめっちゃ痛い! 痛い!」

「ああもう、このへんは湖より岩盤が固いんですよ! 痛いに決まってるでしょう!?」

「そんなん見てもわからへんもん、まじ痛い」

「もう、洗ってあげますから早くこっちに来て! 聖水って高いんですからね!」

明日から2章始めますので完結から連載に戻しました。

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