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デュラはん、ボニたんのために戦う

 宵闇に紛れて俺は教都の塀を乗り越え、塔の裏に回る。

 体重0の妖精さんをなめたらあかん。多少荷物があっても体積がでかい分、風にのればどっからでも入れる。忍び込むんはお茶の子さいさいや。

 スピリッツアイを起動。きゅぴん。

 うーん。各層に何人かずつおる? 歩いとるんは違うんやろな。あんま動かん人は6人くらいや、どれやろ。

 ……あ、あれか。ボニたん考え事しよる時は部屋の端から端を行ったり来たりしよるからな。あんな怪しげな癖あるんボニたんくらいやろ。6階くらいかな。窓もあるな。よっしゃ。

 俺は地面を伝って塔にぶつかる上昇気流に合わせて大きく跳躍して塔を駆け上がり、目的の部屋の窓枠にふわりと捕まり体を引き上げる。やっぱウロウロしとったんはボニたんやった。


「ボニたん抹茶まだみつからんの? 俺ずいぶん待っとるんやけど?」


 俺の声にボニたんは振り返り、信じられないという顔で俺をみる。


「デュラはん? なんで?」

「帰り遅いから迎えにきたん。早よ帰ろ?」


 なんでそんな悲しそうな顔で見るんよ。


「デュラはん、あとで帰るから村で待ってて? ここに不法侵入したら捕まっちゃうよ? きっと大丈夫だから先に戻ってて」


 そんでなんでそんな顔しよるん?

 嘘つきめ。


「あかん、抹茶待てへん。もう村で作ろ思うから探さんでええわ。帰ろ、な?」

「デュラはん……」

「心の友ボニたん、俺のこと信用できへんのか?」

「そんなこと……ない」


 窓から部屋の中に入る。

 簡単な脚付ベッドしかない狭い部屋。

 質素で簡素で寒々しい。


「自分が戻ったら村に迷惑かけるとでも思てるんやろ? ボニたんのことやから技術は自分しか知らんとか言い張っとるんやろなぁ。でも俺も村も、ボニたん1人に守ってもらうほど弱ないで?」

「……でも」

「村長さんもボニたんに帰ってきて欲しいってさ」

「なんで? 僕が帰ったらまた目をつけられる。僕の発言力が増えたら困る人がここにいるんだ」

「だから?」

「だから? ……だから僕が帰ったら迷惑をかける」


 ペシっとボニたんの頭をはたく。


「いたっ」

「ボニたんほんまアホやな。やから土塁積んだんやろ? デュラはんが守ったるわ。必要やったら自重なんてせん。知識チートの真髄みせたるわ。大丈夫やから帰っといで」

「無理だよ」

「無理ちゃうわ。それともボニたん俺のこと嫌いなん? 一緒におるん嫌なん? 俺、ボニたんと村のためやったら神様ぶち殺して世界滅ぼしてもええ思ってんのに」

「ふふ、大好きだよデュラはん。それから僕は一応聖職者なんだけどな。でも僕がここから逃げるのは無理だよ、ここの下には兵隊がたくさんいるし応援を呼ばれたらすぐに囲まれる。教都だから兵隊が多い。デュラはんでも無理だ。それに塔を出られても身分証は取りあげられたから門を出られない」


 ほな、帰ろか。

 大好きなんやったら許してくれるやろ。


 さて、どうするかなぁ?

 窓際に戻って下を見る。うーん、15メートルくらい?

 一緒に下を眺める。ひゅるりと風が吹いている。


「あの、デュラはん?」

「ボニたんこっから落ちたら死ぬよね?」

「……死ぬね。だからデュラはんは村に戻って」


 下で受け止めても死ねる高さやな。やけど覚悟を決めた俺の知識チートに無理の文字はないで。

 背嚢から取り出したるは大工さんに作ってもろた軽量折りたみ式クロスボウ。


「デュラはん、弓スキルあったっけ」

「そんなもんないよ? でも道具ならアリ」


 黒く染めたロープを結んだ矢を装填し、近くの塔を狙って打つ。

 おし、刺さった。引っ張っても抜けない。

 ベッドの脚にロープの反対側を通して先端同士を結びつける。これで片側を切ればロープを全部回収できる。村を守るためにもなるべく技術の痕跡を残しとうない。よし大丈夫そう。あの刺さった位置から地面までは、うーん約5メートル。いけるな。


「デュラはん何してるの?」

「ボニたんお願い、俺の頭もってて。絶対離したらあかんよ? 大好きいうん、ちゃんとし・ん・ら・いしとるからな」


 頭を預けてボニたんを片手で左肩の上に抱え上げる。


「ちょっとデュラはん?」

「ほんま、絶対頭おとさんといてな? あと口閉じて目つぶっとき。逃げるんやから叫んだらあかんで?」


 右手でロープを掴み窓を飛び出し左足を絡ませてロープをつたい渡る。


「ちょっちょっ空飛んでる!? 怖い!?」

「ボニたん静かにしたって。大丈夫やから。頭おとさんといてな?」


 向かいの塔に渡って地面に降りて鏃もロープも回収。

 よかった、今時点では気づかれた気配はないな。

 さて問題はこれからや。ボニたん担いだまま塀超えるんは無理やから最後は強行突破しかない。

 教都の外から確認した中で1番兵の少ない早馬用の門まで移動して様子を伺う。門に立ってる兵士は1人。門は開いてる。近くの兵舎には4、5……6人か。やっぱここが1番都合ええな。


「ボニたん、ちょうど壁の向こう側のあっちのあたり、あの門出て西門に向かってしばらく行くと村長さんが待っとる。俺が陽動して門の2人を引き付けるからさ、その間に門から出て村長さんと合流しとって」

「え、ちょっと、デュラはんはどうするのさ」

「俺、軽くしたら4メートルくらい飛べるん知っとるやろ? 壁飛び越えて逃げるわ。村長さん馬連れてきとるから、一緒に逃げよ」


 背嚢ごと荷物をボニたんに渡す。


「本当に大丈夫なの 逃げてくるまで待ってるからね。絶対置いていったりしないから! ちゃんと逃げてこれる?」

「もちもち、当たり前やん。やからほんま逃げてな。捕まったらあかんで」


 ボニたんが壁の影で待機するのを確認して門兵の前に姿を現す。

 わかりやすく鞭をピシピシ。街中でも鞭は使いにくいんやけどな。ほんま面倒くさいわこのスキル。


「なっ……デュラハン? なんでこんな街中に!?」

「おいちゃんら、遊んで~な」

「なっ喋った!?」


 あれ?

 普通のデュラハンて喋らへんの?


「鬼さんこちらっと」


 距離をとって振り返ると、門兵の一人は兵舎に応援を呼びに行き、もう一人はついてきた。

 その隙にボニたんが門を潜って村長さんのいるほうに走り去る。


 おっしゃ、あとは時間稼ぎやな。俺氏最後の肉弾戦や。はりきるで。

 細い路地に駆け込む。鞭は捨てる。正直使えんし身軽なほうが楽や。


「こっちや~で!」


 スピリッツアイをオン。正面に3人。

 剣士と盾持剣士、その後ろに槍士?

 どいつも軽鎧。いける。

 3人が路地に突入する瞬間、それにあわせて大きく地面を蹴ってカウンター気味に風に乗って正面2人の間を駆け、一番後ろの槍士の首にフライングラリアット。一撃。よっしゃ奇麗に奇襲決まった。

 軽鎧は首空いとるからな。狙い目や。

 素早く倒れた槍士から槍を奪う。

 よし、気ぃは失っとるな。


「なっ! デュラハンが槍を?」

「そんな馬鹿な?」


 まぁデュラハンいうたら鞭ですよね。

 すかさず槍を振りかぶって2人の隙間に投擲。避けられたけど予定通りや。

 頭と頭の間を貫く槍に2人が目を取られる間に槍を追って追走し、剣士のほうを殴り飛ばしてその間を走り抜ける。

 当てるつもりなかったら投げられるんやで? 知らんかったやろ?

 クリーンヒットやから剣士は気絶しとるはずや。1人は残して追いかけてもらわんといかん。


 じわりと10メートルほど距離をとる。細い路地に影が伸びる。

 あちらも動かずどっしり盾を構える。

 その間に周りをスピリッツ・サーチ。後方から4人が駆け足で来とるな。

 んんー、計5人かぁ。ちょいきっついな。


 振り返ったこの先は大通り。

 夜やけどスピリッツ・アイの反応だと人が多いな。なら乱戦がええ。


 5人の合流を待って大通りに飛び込む。

 突然の魔物の登場に大通りは怒号に包まれ人は交々逃げ惑う。

 都合がいいことに屋台街。障害物が多い。


「どこだ!?」

「どこに行った!?」


 俺を追うて通りに飛び出した5人は俺を探して分散した。そんな簡単に妖精さんを見つけられると思うなよ?

 店主の逃げた無人の屋台の陰に身をひそめる。おし、各個撃破やな。1人1人隙をついて背後から忍び寄って首に手刀を見舞うと音もなく崩れた。

 剣士・剣士・両刀剣士?・剣士、これで4人。

 あとはさっきの盾持剣士。


 首の防御薄すぎん?

 ひょっとしたらこの国って徒手拳法全然ないんかな。

 ボニたんにスキルのこと聞いた時、徒手は自分の体やからスキルはない言うてた気がする。そらそうや、ダメやったら襲われたとき抵抗できんもんな。でもスキルレベルが上がらんくても誰でも使えるんやから凄ない? よけい護身術とか流行ってええと思うんやけど。

 ようわからんな。スキルがあるからそっちしか見えんのかもしれん。

 まあ敵が減るんは好都合や。

 俺はわざわざニヤリと笑いながら意味ありげに剣を拾ってゆっくり構える。なるべく俺を印象づけた方がええからな。


「なっ!? デュラハンが剣を? 馬鹿な!?」


 この発言テンプレでもあるんかなこれ。

 演劇のつもりなら剣も持てるんよ? 知らんかったやろ。


 大通り沿いに西に走る。スピリッツ・アイ。地味に便利。

 ん、後方からさっきの盾持剣士に2人追加か。それから大分離れた左手側から固まった10人の団体様が隊列組んで向かってる。よし、他の部署に連絡が回ったな。

 盾持剣士ら3人は各個撃破で手刀で落とす。

 こいつら学習しないんか?


 次はあちらの10名様か。

 あつらえ向きの屋台街。

 2階建て程度の高さの建物が両側にずらりとならぶ。6メートルほどの街路を挟んだ両脇の建物の前に飲食屋台が並んでいる。いいね。

 麺でも売ってたんかグラグラと湯が煮立った鍋の取っ手に屋台のロープを通して建物の2階に駆け上がり、ロープでゆっくり鍋を引き上げる。


 あぁ、団体さんは重装兵か。お気の毒様だな。

 路地を抜けると同時に煮えたぎった熱湯を投下すると上がる阿鼻叫喚。

 金属鎧のすき間に熱湯はきちぃな……。

 俺、村に狭間作っちゃったけど、あれこんな凶悪なもんやったんか、ちょい反省。

 そう思っとったら左腕に矢が刺さった。

 振り向くと、大通りの反対側、中央区の方からやってきた団体は複数の弓持ちが弓をつがえていた。


 弓士は……8人か。それ以外の兵士も30人くらいおるな。

 弓が当たったとこはほんのりじんわりする。磁力でコリをほぐす奴みたいな。多分聖別された矢で本来のデュラハンに効果があるんやろうな。


 さすがに30人で面制圧されたら終わりやな。建物の屋根を走って塀の方向に足を急がせる。

 スピリッツ・アイ。

 ん。あれがボニたんと村長か。あと馬。ちゃんと合流できたんやな。よかった。

 ……でも俺がこのままそっちに逃げるわけにはいかんのよね、そっちに追手が行っちゃうからさ。

 背中にプスプスと矢が刺さる。コリがほぐれる。なんかちゃうな。

 カタリと音がして建物の屋上に梯子がかけられた。潮時か。

 大きく振りかぶって投げる。

 俺が最後に見たのは、切り裂かれ、崩れ落ちる俺の体やった。

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