表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

閑話:アブソルトの物語

アブソルトの物語


 昔々、カレルギアの国にアブソルトという1人の王子がおりました。アブソルト王子は魔法が全く使えませんでしたが、かわりに強い心と優れた目を持っていました。そしてアブソルト王子はこの世界を管理する魔女様をとてもお慕いしていたのです。


 ところで魔女様は世界のバランスを保つと言う大切なお仕事をされています。そのため聖域深くにお暮らしになられていて、誰ともお会いになりません。

 アブソルト王子はなんとか魔女様にお会いできないものかとたくさん考えてたくさん調べました。そして聖域とこの世界を魔女様がお作りになった魔力の川が繋いでいると知ったのです。


「そうだ! 魔力の川をつたっていけば魔女様にお会いできるんじゃないかな?」


 けれどもアブソルト王子は魔法が使えません。魔法が使えなければ魔力を見たり操ることができません。だからアブソルト王子は魔力の川というものを見つけることすらできませんでした。アブソルト王子は途方に暮れました。


 けれどもアブソルト王子にはたくさんのキラキラした魔法の石のかけらが味方をしていたのです。石たちはアブソルト王子が大好きでした。

 石たちは魔法の使えないアブソルト王子に石の魔法を使って魔力の川の位置をピカピカ光って教えようとしました。


 最初はアブソルト王子はピカピカ光る石たちが何を言っているのかよくわかりませんでした。けれどもアブソルト王子は強い心と優れた目で、注意深く石たちを観察し、その声に耳を傾けました。そのうち石たちがどこに魔力の川があるのかを教えようとしてくれていることに気がつきました。

 そうしてアブソルト王子は石たちの協力を得て、ようやく魔法の川をみつけることができたのです。

 アブソルト王子は石たちから作った船を浮かべて魔女様のもとにたどり着くことができました。


「アブソルト。そなたはどうやってここにきたのですか」

「魔女様、僕はキラキラ光る石たちに魔法の川の場所を聞き、石たちの船に乗ってやってきたのです」


 石たちはキラキラ光って魔女様に応えました。

 アブソルト王子はその頃にはすっかり石たちと仲良しになっていて、石たちを細く綺麗に加工して身に纏い、術式という特別な言葉を使って石たちにいろいろなお願いをすることで、魔法とは違う不思議な力を使えるようになっていました。

 アブソルトは少しでも時間がある時は魔女様と一緒にいました。いろいろなお話をしたり魔女様と仲良く過ごしていました。


 ところがその平穏な暮らしは唐突に終わりをむかえたのです。

 なんとこの世界の上空に大きな穴が開き、この世界の魔力を全て吸い取ろうとしたのです。

 魔女様は魔力の川と深くつながり、このままでは魔女様ごと穴に吸い込まれてしまいかねません。魔女様が魔力の川ごと穴に吸い込まれてしまうと大変です。この世界の魔力が全てなくなってしまいます。


 そしてこの世界の魔法を使う人々は、すでにその体の魔力ごと穴に吸い込まれそうになっていて、色々なところに掴まってなんとかふんばっている状態でした。魔法が使えなくても魔力がある人は、体の中の魔力が穴に吸い取られてしまってぐったりとみんな倒れています。

 それは魔女様も同じでした。

 最初は魔女様が穴を塞ぐための旅に出ようとしましたが、聖域の出口までくるとなんと魔女様もその大きな穴に吸い込まれそうになったのです。

 つまりこの世界で自由に動けるのは魔力を全く持たないアブソルト王子ただ1人だったのです。


「魔女様、私がこの世界を回って穴を塞ぎたいと思います」

「それは危険です。おやめなさい」

「けれどもこのままでは世界が、そして魔女様が穴に吸い込まれていなくなってしまいます。それはとても嫌なのです」


 魔女様はとても悩みました。けれども穴をこのままにしておくとこの世界は滅んでしまうでしょう。魔女様は悩みに悩んで、最終的にアブソルト王子に全てをまかせることにしました。そして代わりに魔女様の力をアブソルト王子が使えるよう、魔女様は魔力の川にアブソルト王子の言うことをよく聞くように命じました。

 アブソルト王子はその力を使って、最初に魔女様を守る結界を張りました。魔女様が穴に吸い込まれてしまうとこの世界が滅んでしまいます。それに何よりアブソルト王子は魔女様をお慕いしておりましたから、一番には魔女様をお守りしたかったのです。


「魔女様。それでは行って参ります。必ず戻ってきてこの結界を解きます。そうしてらまたこれまでと同じように楽しく暮らしましょう」

「ええ、私はいつまでもお待ちしております」


 アブソルト王子はたった1人で穴を塞ぐための冒険の旅に出ることになりました。道の途中に魔力の暴走によって噴火している山があれば魔力の川から力を借りて結界を張り、荒ぶる波によって街を飲み込もうとしている海があれば力を借りて結界を張り、これ以上魔力が吸い取られないようにしました。


 そうして旅を続けてカレルギアの国の最南端にたどり着きました。

 そこではギアの大穴と呼ばれる巨大な穴が空にポッカリと空いていました。その大穴の下では既にこの辺りの魔力は全て吸い取られ、何も存在しない荒廃した大地が広がっています。

 アブソルト王子が大穴を塞ぐ結界を張るためには魔女様の川から力を得る必要があります。なのにその川自体が見当たりません。きっとこのあたりの魔女様の川は全て吸い取られてしまったのでしょう。

 アブソルト王子は一度はもう無理か、と諦めかけました。けれどもその脳裏に魔女様の姿が自然とうかんできたのです。


「そうだ、魔女様のために何とかしなければ」


 アブソルト王子は何にも負けない強い心を持っていました。その強い心と石たちの助けで、この大地のものすごく奥深くに魔女様の川がわずかに残っていることを突き止めたのです。

 アブソルト王子は魔力も何もないその腕で地面を穿ち、深く掘りすすみ、やがてようやく魔女様の川に辿り着き、結界を張ることにしました。けれども魔女様の川は大穴に晒されると吸い込まれてしまいます。だからアブソルト王子はその穴の底で一番最初に穴を塞ぎました。真っ暗になった穴の底からたくさんの結界を作り出し、ギアの大穴に向けて打ち上げます。それはあたかも、昼間に花火を次々と打ち上げるかのような美しい光景でした。

 どのくらいたったでしょう。アブソルト王子の耳に声が届きました。


「アブソルト、よく耐えました。あとは私たちにお任せください」


 それは4人の魔女様の声。

 この大惨禍に他の領域の魔女様がこの領域を救うために来られたのです。

 よかった。アブソルト王子は心の底からそう思いました。でもアブソルト王子は疲れ果てていて、魔女様の声に返事をすることはできませんでした。


 魔女様たちが大穴を塞いで以降、世界には平穏が訪れました。再び世界に魔力が満ち、元の暮らしを取り戻していったのです。

 けれどもギアの大穴はあまりに魔力が吸い取られすぎたため、未だにギアの大穴周辺ではその魔力は乏しくなっていました。だから、その近くを訪れるものは誰もいませんでした。


 大厄災から50年ほどたった頃、ギアの大穴を1人の青年が訪れました。新しく来た魔女様から、ここにかつてこの世界を守ろうとしたアブソルトという青年が眠っていると聞いたからです。

 青年はせめて、アブソルトのお墓を建てて弔いたいと思っての訪れたのでした。


 青年はその荒地の真ん中をひたすらに掘りました。かつてアブソルト王子が穴を掘ったのと同じように。掘るごとに地面は煌めきます。青年はここにアブソルトが眠っていると確信しました。

 最後の一突きで穴が開き、ちいさな空間に到達しました。そこには沢山の石の煌めきに守られながら、1人の老人が倒れていたのです。

 驚いた青年は駆け寄ると老人はゆっくりと目を開けました。なんとアブソルト王子はその強い心で魔女様を想い続け、未だ生きていたのです。


「だれかわからないがお願いがある。どうか、もし魔女様がまだ封印されているのなら解放して差し上げてほしい、どうか」


 アブソルト王子は既に弱りきっていて、ここを動くことはできませんでした。この僅かに残る魔女様の川を離れれば、たちまち命を失ってしまうでしょう。

 アブソルト王子はその方法を青年に伝えてゆっくりと目を閉じました。


 青年は困りました。

 なぜなら青年の国はもともとのカレルギアの国と仲が悪く、カレルギアの国に行くことができなかったからです。そして言伝を頼むにはその内容はあまりに重大すぎました。


 そこで青年はこのアブソルトが眠る地の上に教会を建て、アブソルトの言葉を残していくことにしました。

 いつかアブソルトの方法を知った誰かが魔女様の封印を解くことを期待して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ