ねんどろいど爆誕
リシャたんが目の前に横たわっとる。神殿で寝てたときとおんなじような感じやから聖域にいっとるんかな。
その隣でボニたんが寝とる。この簡易祭壇いうんは多分1人用やからちょっとぎゅーぎゅー感。
さらにその隣でマルセスが難しそうな顔でコンソールに向かい合っている。そんな俺はコンソールの端っこに置かれている。
今他にこの部屋におるんはリシャたんの機甲に入ったリシャたんのお母さん。エウドキナ様? キナたん。
リシャたんのお父さんの皇帝は神子の神事だからといって追い出されていた。
「なぁ、今リシャたんは聖域いうんにおるん?」
「そうだ」
「そのうち戻ってくるん?」
「わからない」
「なんで?」
「リシャール様は今この簡易祭壇から聖域に向かった。ここにはいないからわからない」
ううん? それはそうなんかな?
火山に行ったってどうやって? ようわからんな。電気みたいなもんなん?
「結局何がどうなっとるん?」
「それは私が聞きたいよ。アストルム山に行ったんだろ? そこで何があった」
「何言われたかて、山に登ったらヌルたんがおってリシャたんとキナたんが祭壇で寝よって、そんでもってえーと、ボニたんがなんか聖域? に行ってしばらくしたらリシャたんとキナたんが帰ってきたから一緒に降りてきた」
「さっぱりわからん」
「俺も」
結局これ、何が起こっとるん?
俺氏さっぱりわからんのやけど。むーん。
「なぁ。神子って何する人なん?」
「それは神子しか……そういえばエウドキナ様ならご存知なのでは」
そう思って振り返るとキナたんが手信号を送った。
マルセスに聞いたら応答不能、だって。
うーんまぁそうか。手信号いうんはあれやんな、あっちいくぞーとか、後退ーとか、そんなんを指示するもんやろうし。
「それよりデュラはん。エウドキナ様はどうやって動かれているんだ?」
「うん? 俺といっしょやん。なんか魔力が漏れるらしいからそれを伝達腺につないで動かしとる、んやと思うんやけど」
こくこくとキナたんの頭部につながるヘッドギアが動いてキナたんの首がごいんごいんゆれている。なんか不自然で痛そう。マルセスは失礼しますいうてキナたんの後ろに回って首筋にはられたパッドみたいなのを見ている。そうそ、俺もアレで動かしたんやで。……俺の耳の脇はげてもうたんやけど俺もどうせなら首のほうがええな……。
「……はっきりとはわからないがデュラはんを載せた大型機甲の時と同じか。……エウドキナ様。魔力を意図的に作り出すことはできますか」
キナたんはちょっと考えたみたいに動きをとめた。なん?
「やはり無理なのですね。今のうちに最低限必要なことをお伝え願えませんか」
キナたんはトントンと自分の胸をたたくジェスチャーをする。
「エウドキナ様が向かわれた後、私はどうしたらよいのです?」
さっきと同じ応答不能のジェスチャー。マルセスは困ったように頭を掻きむしる。どっちみち話せないと話にならない感。なんとかならんかな、話せるもの、話せるもの。ええと、あそや。
「キナたん。俺を持って隣の部屋に行ってくれん?」
「あ、おいデュラはん」
キナたんは、私ですか? というようなジェスチャーの後に俺の頭は持ち上げてヨタヨタと隣の部屋に向かう。
んーと、机の上にあった。
「キナたん、その机の上のお人形持ってさっきの部屋戻って」
人形を掴む加減で俺の頭はキナたんの左手に移動してちょっと斜め。人形はキナたんの握力でぐにゅりと潰れてキナたんは慌てて直そうとして余計グニグニになって針金みたいなんが飛び出した。なんか辛うじて人、感。でもやっぱ芯が入っとるならこれは多分機甲ってことやんな。
やってアブソルトが作りたかったんは動く萌え人形やもん。動かんと意味ないもんな。
「キナたんちょっと力入れすぎ、痛い。そんでそこの机の上の伝達腺いうん? 針金みたいな奴をお人形からでとるやつに結んで魔力通せんかな」
「デュラはん、何をやってるんだ?」
ーザーザザァーアーあー、あ。ああ。あの、聞こえます、ね。
「まじか」
「腺つないで機甲動くんやったら繋いだら動くんちゃうかな思て。なぁ、ボニたんどうなっとるん? 教えて? 友達なん」
キナたんはだいぶん悩んで、妙に高いアニメ声でボニたんが今魔女の封印を解いて魔女を解放しようとしていること、解放すると魔力が溢れて火山が噴火する恐れがあり避難してきたこと。
それは多少は詳しいけれども既に知っていた知識。そういうことやなくて。
「エウドキナ様、それはわかりました。それで『初期化』と『再インストール』とは何なのですか」
ーそれは……私にもはっきりとはわかりません。ただ推測する範囲ではもともと島中に魔女様が作った魔力回路があったそうです。アブソルトはそこにアブソルトの術式が使えるよう『上書き』? したそうです。
「パねぇなアブソルト」
「どゆこと?」
「うーん、地球で言うと液体ストレージっていうのかな。ナノクラスタっていう超微粒子を液体に浮かべてそこに情報を保存する未来の技術? の概念があるんだ。それと同じものを魔力の流れに置いた」
「なんでそれがわかるん?」
「壁の紙に擬人化ナノたんがいっぱいいる」
液体? 微粒子?
俺は多分パソコンとかの仕事をしていたわけじゃないと思う。やから理屈がさっぱりわからんわ。
「なんなん?」
「魔力が何なのかっていうのはこの世界ではよくわからないんだよ」
「俺もわからん」
「体感的にわからないっていうのとは違う次元で。例えば地球では物質はクォークとレプトンから出来ていてそれを支配するのは4つの力。電磁気力、重力、弱い力、」
「ごめん、俺物理わからん。文系っぽい」
「まあこの世界には電気とか磁力とか重力とかと同じようなレベルで魔力っていう地球に存在しない力がある、んだと思う」
「う、うん」
「アブソルトはその未知の力、魔力の働きの性質を解析して、信じがたいことだが自由に操る方法を習得した」
ー魔女様もそのようにおっしゃっておられました。だから経験を積めばアブソルトも魔女に到れただろう、と。そのように魔女様がおっしゃられたそうなのですが、マホウショウジョカッコオトコは勘弁して下さい、と言って全く興味がなさそうだったそうです。
魔法少女? 魔女? アブソルトって男ちゃうの? 男でも魔女なん? 魔男はなんや変やけど。
ボニたんは魔女いうんはこの世界の魔力の制御をする役割って言うとったけど今のマルセスの話やったらアブソルトはその魔女? 魔男? になれるんかな。
でもキナたんからそれを聞いたマルセスは見事に固まっていた。
「魔女様の仕事なんて私にはわかりませんよ?」
「でも祭壇いうんうまくできたやん? 俺はボニたん助けたいん。そんで『初期化』と『再インストール』てなんなん?」
「……そうだな。今はそれだ。アブソルトは多分島中のどこでも自分の術式が使えるようにするためのプログラムを小さなPC、つまりナノたんにつめて魔力回路に大量に放流したんだよ。そうじゃないと使う度に使うための機構を設定しないと駄目だから」
「ふんふん」
「それで魔女様の封印術式は大厄災の時に大急ぎで作ったものだろうから細かい設定とかしてなくて、解除には一旦アブソルトのシステムを『初期化』するしかないんだと思う」
「他の術式も全部なしにするってこと?」
「そうそう。でもそれだとこの国の機甲術式もアブシウム教会の術式も使えなくなるから『再インストール』する」
ーお二人が何を言っているのかさっぱりわかりません。
俺もようはわからんのやけど。
ええと、魔女さんが封印されとるんがそのアブソルトの術式のせいで、やから解除して、それで出られたら、再インストールしてもとに戻すん?
「それって危険なん?」
「術式自体はおそらく問題ない。けれども『初期化』した時に魔女様と一緒に封印された大量の魔力とやらも開放される。……その時、おそらく無事ではいられない、と思う」
「は、え? その前に逃げて来たらええんちゃうん?」
「術式は口頭で行使しなければ駄目だと、思う」
「え、え、ちょまって、またれて。何でそれをボニたんがやるん? そんなんこの国の人がやったらええやん」
それ、そんなに急いでやらなあかんことなん。
聞いとったら200年は大丈夫やったんやろ? そしたらゆっくり対策したらええんとちゃうんかな。
ーその、大変申し上げにくいのですが、今直す必要があるのです。
「なんで」
ーその、デュラはん様が行使された魔力が魔力回路を破損しました。その破損によって魔力が回路から漏れ出して竜をおびき寄せるのです。
「ま、魔力?」
ーそしてこの領域で機甲を製造しているのは帝都カレルギアだけです。帝都が滅びればこの領域で人は竜に対抗することができません。だから今魔女様を解放して破損を修繕して頂く必要があります。
「でも俺、魔法いわれたかて」
「デュラはん、スピリッツ・アイだ。理屈は分からないがそれで帝都の魔力回路が破損した。昨晩から恐ろしい数の竜が帝都を襲っている」
え、え、待って、待たれて。
俺のせいなん?
俺がスピリッツ・アイつこたから破損ができて、それでほっといたらこの国が滅ぶん?
でもそんなん俺のせいやないし。俺を捕まえたやつのせいやし。
でも、でも。それ、多分ボニたんに通用せん理屈やんな。
それにそれがなくてもボニたんがその術式いうんを人に教えるとは思えへん。それに、その。
キナたんの表情は全然わからんけど、マルセスがめっちゃ悲痛な顔しとる。
ーですからリシャールが代わりに向かいました。
「か、代わりに?」
ーリシャールがボニ様から『初期化』の術式を聞き出します。そうすればボニ様は戻ってこられます。
「あの、ボニたんが教えたらリシャたんが死んでしまうん、ちゃうん?」
ーリシャは神子ですからその覚悟は出来てます。
「そんなんボニたんが教えるわけないやんか! なんなん、俺のせいでどっちか死ぬとか絶対ないわ!」




