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デュラはんに転生したけど寄合いから逃亡して楽しく暮らしてるん。~心の友とのんびりスローライフ~  作者: tempp
デュラはんと機械の国のお姫様

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アブソルト=カレルギアの伝説

 イレヌルタの語る歴史は僕が知っているものと比べてより詳細な部分と抜け落ちた部分があった。

 アブソルトが没したのはアブシウム教国の奥地だ。アブシウムとカレルギアは間に2つの領域を置いて隔てられ、その歴史も隔てられたのだろう。


 およそ800年前、転生者であるアブソルト=カレルギアが魔女様を騙し、その豊富なスキルと能力で魔女様の力を奪ってこの島に魔力回路を構築し、その全ての魔力を我が物としようとした。

 濃淡はあれどもこの世界のおおよそには魔力が溢れている。この島でも同様で、その時代にはこの『灰と熱い鉱石』の領域の大気にも魔力が満ちていた。

 けれどもアブソルトがその魔力回路ですべての魔力を奪い取ったがため、魔力が突然枯渇した。それによってこの領域に様々な不具合がもたらされた。その一方でその魔力を得たアブソルトはまさに無敵で、思うがままに天変地異を引き起こし、全ての生物や無生物の生殺与奪の権をその手に握った。


 結局、アブソルトはその強大な力を扱いきれずに1週間ほどで自壊した。そして速やかに4人の魔女が現れてアブソルトを討伐し、この島をそれぞれ5つの領域に分割して各地の魔力の安定を図った。もともとこの巨島を管理していた『灰色と熱い鉱石』の魔女はアブソルトの生まれたカレルギア帝国を現在の領土に押し込められた。

 それ以降、島は5つに分断され、カレルギアは魔力が枯渇する特殊な土地となった。


 魔力の枯渇という環境の激変は『灰色と熱い鉱石』の領域の様相を大きく変化させた。

 わずかに残る不安定な魔力はその濃度差により火山の噴火や竜巻などの災害を引き起こした。かつての豊かな緑は失われ、この地には強大な魔力を自ら生み出しコアとする龍種と過酷な環境下でも生存可能な竜種を始めとした強靭な魔物、そしてわずかな魔力を操るためのアブソルトの術式を知る人間以外は生存し得なくなった。


 そのうち、龍種と人間が協定を結んだ。

 人間はこの領域において諸悪の根源たる術式を封印し、龍は魔力を失い弱体化した人間を守るために人里に降りようとする竜種を始めとする魔物を駆除することとした。そして人間は神子を、龍は神官を1人ずつ出し、魔女が目を覚まし領域の安定を図ることができるまで見守ることとした。

 それから数百年たつうちに、人間の間では神子を出すということ以外の伝承は失われ、術式は魔石から魔力を取り出すという行為で代替利用されることになるのだけれど、それは大気中の魔力を消費するものではないため放置されている。

 イレヌルタはすでにここで300年の間神官を務めているが、現在のところ魔女が復活する兆しはないらしい。

 これがイレヌルタの語るこの領域の姿。


「僕の知っている伝承とは違う部分、いえ、違いはしないのですが欠けている部分と、それから一つ誤りがあります」

「なんだと!?」

「魔女は眠りについているのではなく封印されています」

「誰にだ!?」

「アブソルト=カレルギアに」


 ざわりと空気が揺れる。

 長い長い階段を降りる間、壁面は鍾乳石のようななめらかな岩肌そのものから様々な鉱石がはめ込まれた豪奢なものに変わり、そのうち開けた洞窟に出た。走り出すコレドさんを目で追うと、洞窟の真中には柘榴のように赤い石段があり、その上に設置された色とりどりの鉱石に囲まれた場所に2人の人間が並んで横たわっていた。


「姫様! ご無事ですか!?」

「今二人の神子は魔女様と同期して魔力の沈静化を図っている。それより魔女様が封印されているとはどういうことだ」

「僕が聞いた話ではもともとこの島の魔力を安定させるために魔力回路を張り巡らしていたのは魔女様です。どれほどの魔力やスキルがあろうとも、若者一人の力で島中に魔力回路を張り巡らせたと考えるのは無理があります」

「むう?」


 イレヌルタはしばらく頭をひねってこちらを見返す。


「確かにそうかもしれぬ。ではアブソルトは魔女様からその回路を奪ったのか」

「いえ、違います。この島はもともとおかしいのです。異世界人が多すぎるとは思いませんか」

「異世界人? そういえばアブソルトも異世界人と聞くな」


 アブソルトはこの国の王族に転生した異世界人だ。

 この島は異世界人が多すぎる。僕はこの国に来てすぐにマルセスという異世界人に会った。流石に人口100人のキウィタス村には異世界人なんていなかったけど、この島の一定規模以上の村や町には1人か2人は異世界人がいるという。それに異世界人は異世界人であることを突然思い出すらしい。未だに思い出していない者や、思い出しても秘密にする者もいるだろう。異世界人は冒険を求めて島の外に出ていくことも多いから、目に見える数以上の異世界人がこの島に転移又は転生している。そしてその多くは地球という世界の日本という国から来ている。

 そもそも、僕の村には23人分の異世界人、しかも日本人の首がいる。


「この国に使われている機甲も元々は異世界の日本という場所に存在するものだそうです」

「ええと、厳密にはアニメで見たやつなんやけど?」

「でも、みんな機動戦士とか機動警察とかいえばわかるんでしょう?」

「みんなかはわからんけど男やったらだいたいわかるような気はするなぁ」

「つまりお主は何がいいたいのだ」


 小さい頃から好きで、村でもよく絵本を読んでいた伝説を思い出す。

 アブシウム教に伝わるその伝説だと、アブソルトは4人の魔女が駆けつけるまでこの領域を守った英雄だった。だからアブシウムと名前をかえて神になっている。おそらくカレルギアに配慮してアブソルトそのままの名前は使われなかったのだろう。


 そもそも僕らが暮らすこの世界自体が不安定らしい。この島以外でもたまに異世界から人が落っこちてくる。

 大昔、つまり800年前に突然この島に災厄が起きた。この島、もっというと現在のアブシウム教国の真上に世界と世界をつなぐ穴が開いて幸運がすべて失われ、島は闇と悲しみに沈んだ。そして世界を守るためにアブソルトは『灰色と熱い鉱石』の魔女と協力してその穴を塞いだ。

 アブシウムの都下に伝わるアブソルトの一般的な伝説では、穴を塞ぎきった時に二人は力を使い果たしていた。アブソルトと魔女は恋仲で、はるか先の未来に再び出会うことを約束してアブソルトは地に倒れ、そこに教都コラプティオが建設された。魔女も同様に力を失いカレルギアの山に戻って眠りについたことになっている。


 これはおとぎ話で空想だと思われているけど、教会にはアブソルトの組み上げた術式が残っていて、実際に魔女ラルフュールの名で行使できたわけだから、おおよそは事実なのだろう。術式がアブシウムとこの魔女の領域だけにしか残っていないことからも。


 そして教会にはもう少し詳しい伝承がある。魔女はアブソルトに封印されてアブシウムまで来ることができなかった。だからかわりに魔力回路の行使許可をアブソルトに与えて、具体的にはその魔力回路を使用するための術式をアブソルトが構築した。そして魔女は封印を塞ぐことをアブソルトに委任してカレルギアに封印されたことになっている。教会では封印の理由は魔女を穴から守るためと残ってるけど、なんで穴から守るのにわざわざ封印するのかよくわからなかった。


 でも最近考えたこと。

 大厄災というのは、幸せが失われたとは、つまり大量の魔力の消失なのだろう。災厄の大穴はおそらく地球の日本という場所と繋がったんだ。そして大量の魔力が穴を通って異世界に流れ込んだ。

 デュラはんに聞くと地球という異世界には魔法、おそらく魔力がないらしい。デュラはんの説明はよくわからない部分もあったけれども、タケヒサ君が言うには魔力というのはデュラはんの世界では『気体』という性質をもち、気体は濃度の濃いところから薄いところに世界の間に存在する薄い境界をすり抜けて移動するのではないかという。浸透圧という作用だそうだ。この世界でも二種類の液体間でそのような性質があることは確認されている。


 だからこの島に穴が空いたとき、この世界から地球世界に急激に魔力が移動したのだろう。魔女というのは領域の魔力と繋がっている。だからそのままだと魔力ごと異世界の地球に吸い出された可能性がある。

 この世界は脆い。大きな魔力変動が起こり、それを制御する魔女が消滅した場合、この世界はその部分から崩壊を始める。それを防ぐために魔女というシステムが各地に偏在している。

 それで多分4人の魔女が訪れるまでアブソルトは魔力回路を操って魔力をこの地にとどめ、4人の魔女が訪れたときにその魔力回路を魔女たちに明け渡して、没したのだと思う。

 アブソルトによって様々な天変地異が起きたのではなく、アブソルトは世界の崩壊を天変地異に留めたのだと思う。

 でもこの話はアブシウムの重大な秘密だからイレヌルタにもコレドにも話すわけにはいかない。それにはるか昔の伝説で、実際は違うかもしれない。


「アブシウム教では魔女は封印されていることになっています。僕が接続したときもそのように感じました。だからもう一度、ここで呼びかけてみます。ここで接続すれば先程の魔力もここに戻るでしょう」

「おい」


 問題は強靭な魔力とスキルを持つアブソルトでも魔力回路に接続できたのは1週間だったこと。少し前に行使したときの記憶を思い出す。ものすごい負荷だった。果たして平凡な僕にどのくらいの接続が可能なのだろうか。

 それから僕は……あの術式を唱えるべきなのか。

 2人の神子が眠る祭壇に手をかけて祈る。


[探知:ラルフュール]


 その途端、僕には膨大な魔力の奔流と、その奥に僕が感じたこともないほどの巨大な意思と、それを隔てるものの存在を感じた。


[接続]

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