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カレルギアの火口の秘密

 もう! しゃあないなぁ!


「ボニたん下がって! 『スピリッツ・アイ』 ぎあ!」


 唱えたと同時に襲いかかってきたのは、そりゃぁもう、今までにないもんのすごい頭痛。でもなんとか我慢して俺はコレドのソルトレットを操る。右足を振り上げながら体を後ろに捻じって放った後ろ回し蹴りは、丁度コレドの左脇をすり抜けようとしていたイレヌルタの胸部にクリーンヒットした。ソルトレットでは感じられない触感を『スピリッツ・アイ』で確認する。うぅくっそ頭痛かったぁ!

 そのままくの字に固まるイレヌルタの足を素早く払い、倒れた背中にコレドの左足で体重をかけつつ両腕を背中で拘束する。ガントレットやからようわからんけどスピリッツ・アイで見た感じ、骨格は人間とあんまり変わらん気はする。この国でも機甲頼りで体術は全然重視されてなさそうやけどやっぱ体術優秀。

 けれども首を曲げてこちらをみたイレヌルタの表情が一瞬にやりと笑ったように見えた。


[解除:全]


 一安心や思たけどイレヌルタの声で状況は一変した。声が響いた瞬間コレドとの接続が切れる。

 俺が動かしよったから急に力を失った反動でコレドはバランスを崩して倒れかけ、そのすきにボニたんに突進したイレヌルタの懐から刃物と思しき煌めきが見えた。

 ボニたんとイレヌルタの間は3メートル。

 コレドは動けんし首だけの俺はもっと動けん。ボニたんはよろけたんか床に手をついとるしボウガンも仕舞っとるし遮るもんがない。絶体絶命。


[行使:拘束]

「ぎぃやぁ!?」


 折角スピリッツ・アイの痛みが薄らいできてたのに突然頭がひしゃげるような激痛に勝手に喉から悲鳴が絞り出された。それから少し遠くで崩れ落ちながらうめき声を上げるボニたんがスピリッツ・アイで認識できた。イレヌルタはナイフを構えた不自然な格好でボニたんの1メートル前で固まっている。けど俺の頭も瞼も唇も動かない。コレドも微動だにしない。


[行使:拘束:除:コレド=シュニッツ]

「コレドさん、早くその人を拘束して! デュラはんが魔石になっちゃう!」


 コレドは階段を三段飛ばしで弾けるように駆け上がり、ボニたんの前でナイフを構えたまま固まっているイレヌルタを引き倒して懐から取り出したロープで手早く後ろ手で拘束する。


[解除]


 その言葉とともにボニたんは完全に床に倒れ込んで上を向いて荒い息を吐いた。コレドの足元のイレヌルタは身動(みじろ)ぎして拘束から抜け出そうともがき始めた。


「ボニたん大丈夫なん? 今の何なん?」

「おのれアブウオムの走狗め! 今度こそこの領域の魔力を根こそぎ奪いにでもきたか!」

「ちが、ちがい、ます。僕は魔力をここの魔女様にお戻ししようと」

「ふざけるな! 今回の騒動もお前のせいなのだろう!? どの口が言う!」

「僕はそんな」

「本当です! 僕らはここに帝都に移動した魔力を戻すために来たんだ!」

「その証拠に帝都に移動した魔力は今ここに戻しました。だから帝都が竜に襲われる可能性はもうない。それから……できれば魔女様にかけられた封印を少しでも軽減できればと……」

「封印……?」


 イレヌルタはゆっくり目を閉じて何かを探るように跪き額の角を地面につけた。しばらくそうしてひとつ頷き怪訝そうにボニたんを眺めた。


「確かに魔力はここに戻っている」

「よかった。信用していただけますか」

「信用はしない。アブソルトの術式を知る者はこの領域の敵だ」

「けれども今の私はあなたに敵対しません。もし敵対するならコレドにあなたを殺させました。アブソルトの術式を知るあなたなら可能なことはご存知でしょう?」


 イレヌルタはものすごく嫌そうな顔をして頷いた。

 コレドはギョッとしている。あいかわらず偉い人と話してるときのボニたんは言ってることがなんか怖い。


「……本当に魔力を返しに来ただけなのか?」

「魔力の移動は座標がわからなければ行使者の現在位置にしか移動できません。私はこの国に来るのは初めてです。それはコレドが証明できます」

「それは証明できますけどアブソルトの術式? 今のは機甲の起動式ではないのですか? 初めて聞く式でしたが」

「僕はこの術式と行使方法を他の人に知らせるつもりはありません。この国の人にも。それから魔力を正しい場所に戻したらもう使うつもりはありません」

「あの、ボニさんどういうことなんです?」

「すいません。コレドさんにもお話できない内容なのです」

「話せないと言うなら私が話す。その前に拘束を解け」

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