俺氏とボニたんの行く末
結構叫んだ。喉が痛い。
どのくらい叫んだんやろ。けどちょっと先の扉の向こうの廊下はさっきからずいぶん慌ただしい。たくさんの人間がバタバタと走り回っている音がする。余裕がないのか誰も気づかない。
どうしよ。でも呼び続けんとしゃあない。糞。動けんのマジで不便や。ああもう!
「西区にある内務卿の別邸にデュラとボニは囚われているはずだ。これから救出に」
「俺らもうここにおるけん助けて!」
「ってあれ?」
ドアがパタンと開いて電気がついて聞き慣れた声が響いた。マルセスの声とそれから目を丸くしたコレドの姿。
「あれぇ? デュラはんどうしてここにいるのさ? 隠しスキルかなんか? ってボニさんどうしたの!?」
「わからんねん! 気がついたらここにおったん。ボニたんマジックアイテムかなんかもっとったん?」
「そんなはずは……持ち込まれた私物はこちらでお預かりしている。今は身の回りのものくらいしか所持していないはずだ」
俺の頭に腕のっけて倒れとったボニたんをコレドが抱き起こして近くのソファに寝かせ、熱やら脈やらを測ってふぅ、と安堵のため息をついた。
「ボニたん大丈夫なん?」
「あとでお医者さん呼ぶけどぱっと見は異常はなさそうかな」
「そうなん。ほんまよかったわぁ~」
「それよりどうして君たちはここにいるんだ? 内務卿の別邸に捕えられたのではなかったのか?」
「俺にもようわからんのや」
散歩に出る言うて外に出て街から離れようとして突然捕まって知らんとこに連れて行かれたん。そこでボニたんと別れてそっからは色々調べられてたけどカゴが開かんみたいで、無理やりこじ開けたら魔力が爆上がりしたけど俺が原因やないみたいやったからスピリッツ・アイしたらめっちゃ頭痛うなって気がついたらここにおったん。
「え。あれマジでこじ開けたの? 別にいいんだけどさぁ」
「あかんかってん?」
「まあダメかといえばダメじゃないけど野蛮っていうか。機甲を脱ぐのにスイッチ押せばいいのに破壊して脱出するというか。構造的にはそんなに難しくないんだけどねえ」
「いや、それよりスピリッツ・アイを使って具合が悪くなったというのが気になる。今も違和感はあるのか?」
「なんか肩こりみたいに頭の後ろの方が痛いん」
マルセスは急に真剣な目で頭を持ち上げて後頭部をさする。
「コレド、魔力検査機持ってきて」
「はいよ」
「俺なんか病気なんかな? 今までこんなことなかったんやけど」
「魔物の病気は詳しくないが、この領域に最初に来た時も痛かったんだろう?」
「そやけど実験でつこたときは別に痛うなかったで」
「ここの実験室は魔力が外に漏れない特殊な作りだからな。さっきのカゴも同じだ。発動しなかっただろう?」
そういやそうやったな。あのカゴの中はスキルは使えんのかな。残念。
そう思っとるとコレドがたくさんコードのついたヘルメットを持ってきて俺に被せる。ちょっと小さいねんこれ。
「マルセスさん、ここ変です。魔石反応」
「やっぱりか」
「なん?」
「デュラはん、君は魔石になりかけてる」
「なんやて? 俺、掘られてまうん?」
この領域の魔物は体の節々に魔石を作るらしい。
魔力を行使するときに体内の魔力が少しずつ圧縮されて固まるから。この国ではそれを掘って機甲の燃料にする。俺もスピリッツ・アイを使たからその分魔石が出来たのではないか、と言われた。
「でも俺アブシウムでようけ使たけどそんなんなかったで」
「デュラはん、この領域はちょっと特殊なんだよ。大気中の魔力が著しく少ないんだ。だから多分スキルとか魔法とかを使おうとすると他の領域より魔力が余分に吸いだされる。それを防ごうと無意識に魔力を集めて抵抗するから魔力が固まって魔石になるって考えられてる」
「ふうん、え、て、この頭痛いんもう治らんの? 嫌やぁなんとかならん?」
「一度固まったのが溶けるという話は聞いたことがないな……魔石として使うにも取り出さないと」
「待って待たれて。流石に頭かち割られたら死んでまう気がする」
謎の緊張感。マルセスが研究者の、特にマッドな感じの目をしている。
俺は動けへん。ごくり。
「まあそれは追々研究するとして、こちらも聞きたいことがある。君たちは、いや、ボニさんは何をした」
「何て?」
「おそらく君たちが原因でこの国に異常が生じている。そして君たちはとても微妙な立場にある。この国で極めて重大な犯罪の容疑者、少なくとも参考人となっているはずだ」
「あの! 全部僕のせいなんです! デュラはんは関係ないから! デュラはんは助けてください!」
「ボニたん……?」
そこには胸を押さえながらソファから体を起き上がらせるボニたんがいた。
◇◇◇
「つまりアブシウムの秘儀を行使したけれどもその内容は話せないし、元に戻す方法も教えられないってこと?」
「はい……というかあの魔力を消すには」
「話にならないな」
「すみません。でもそんな大した魔力量じゃなくて、どうしても」
「ボニたんめっちゃ頑固やから言わんいうたら言わん思うで」
「本当に困ったな。君はたいしたことじゃないと思っているかもしれないが、この国では君のやったことはたいしたことなんだよ」
マルセスがくるくるとスプーンでお茶のカップを混ぜながらため息をつく。コレドが新しいお湯を用意する。
さっきから空気がひたすら重い。それはマルセスとコレドがボニたんを尋問しているからで、ボニたんがのらりくらりとかわすたびに空気が重くなっていった。
「あの……僕は何をしたのでしょうか」
「そうだなぁ。そもそもいうと危険物持ち込み、偽証入国。それから今回のは場合によっては国家転覆罪」
「待って待たれて。国家転覆てそんな大きな話なん? 俺ら拉致られたから逃げてきただけやん。ひょっとしてどっかですごい被害とかでてるん?」
「いいや、今のところは被害はカゴが一つ壊れたくらいだが俺たちにとっての被害はそこじゃない」
「……あの、本当に口外できないことなんです。だから、どうしてもお話ししなければならないならせめて責任者のリシャさんにだけお話したい」
ピクリとスプーンをかき回す指が止まる。
急に鎮痛な空気が流れた。
「リシャさんは恐らくもう戻られない」
「どっか行ったん?」
「アストルム山に行かれた。おそらく次の神子になられる。だからもう外には出られない」
「え!?」
「なんで? リシャたんはお姫様やないん?」
「うん? 知ってたのか? まあ、お姫様だから神子になるんだよ」
2人の話をまとめるとこんな感じ。
『灰と熱い鉱石』の魔女は何百年も前に転生者アブソルトによってその力を奪われた。
その結果、魔力が暴走してこの島全体の魔力が枯渇した。今は4人の魔女が新しく加わり、新しい領域を作ってこの島を分け、その範囲内に独自の魔力回路を形成して運用している。『灰と熱い鉱石』の魔女の領域がこの範囲に狭められたのは、それが『灰と熱い鉱石』の魔女が管理しうる限界だから。『灰と熱い鉱石』の魔女はこの領域の中心となるアストルム山に自らを封印してこの領域の魔力の運行を行っている。
けれども時折、予想外の地点で魔力が噴出することがある。
魔女様のいらっしゃるアストルム山の外でそれが起こると、それに対応し調整するためにはアストルム山以外でも行動できる依代が必要で、魔女様の子孫と言われている王家の子女が神子、つまり依代となって魔女様の力を行使するらしい。
今の神子はリシャたんのお母さんで次に魔女様に親和性が高いのがリシャたんらしい。一度神子になったら魔女様とは分離できない。だからリシャたんはもう戻ってこないかもしれない。
「なんで。どうして。魔女様の回路の制御方法を知っているならどうとでもなるでしょう?」
「なんでと言われてもこの国ではずっとそうしてきたんだ。今は君のせいでカレルギア王都内に一部の魔力が移動している。このままではいつ大型龍種が飛んでくるかわからないらしい。速やかに魔力を収束させなければならない」
「どうしようもないって、10人もいればどうとでもなるでしょう?」
「……アブシウム教が秘技とするのと同じで、ここでは王家しか魔女様のお名前を知らないし接触できない。今ご存知なのは王家の中でも3人だけだ。漏れれば昔の転生者のように自在に魔力を使おうと考えるやつがでるかもしれない。だから」
「そんな! ……そんな。あれは……」
「君にとって大した量じゃなくてもこの魔力が乏しいこの国では魔物や龍を呼び寄せる大した量なんだよ」
さっきから何の話をしてるん? アブシウム教?
「なあなあ、何がなんなん?」
「僕のせいで……?」
「大変です! 龍が活動を始めました!」
突然扉が開いて若い兵士が飛び込んできた。
「なんだと!? 糞っ戦力が足りない! 姫様と皇后様のお二人でも無理なのか!?」
「あの……僕がいきます。先程のお話だと山に魔力が戻ればいいんですよね? 僕が行って魔力を山に戻します」
「いや、無理だ。龍が活動を開始した以上戦力が足りない。君が事態を収束できるのだとしてもアストルム山の神殿までの安全が確保できない」
「そんな、でも」
「なぁ、そのアストルム山までいければええのん?」
「そうだが龍が襲ってくるとなると街全体で防衛する規模となる。状況は逼迫。今すぐここに飛んできてもおかしくないのだ。この隊の一番は王都の防衛だ。うまくいくかもわからぬところに回せる戦力などない」
ようわからんけどボニたんは山でなにかする用事があって、でもそこは強い敵がおるから行けんいう話なんかな。
「なぁなぁ、大規模迎撃用ロボいうん前に見たやろ?」
「あー、デュラはんがかっこいいって言ってたやつか。でも前も言ったけどあれは大きすぎてうまく動かせないんだよ」
「俺が乗るん」
「デュラはんの魔力は生だから機甲に直接使えないんだよ? 魔石じゃないと」
「でも今の俺は魔石なんやろ? それに魔石なくなったら頭痛いのなくなるんちゃうの」
「「あ」」




