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デュラはんに転生したけど寄合いから逃亡して楽しく暮らしてるん。~心の友とのんびりスローライフ~  作者: tempp
デュラはんと機械の国のお姫様

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僕とデュラはんの夜の散歩

「この領域外で機甲を使う方法?」

「えぇ。なんとか叔父の手を使えるようにしたいんです」

「うぅむ、気持ちはわかるがなかなか難しいんでねえかなぁ?」

「やはり材料の問題でしょうか?」

「んだ。ほら、ここを見てみぃ」


 眼の前のヒゲモジャの男は太い腕を組みながら考えあぐねるようにつぶやく。

 今日もコレドさんに紹介された工房で親方の話を聞く。コレドさんは工房が実家らしく、小さい頃からこの辺りの工房に出入りして機甲に触れて育ったそうだ。だからこの辺りの工房にも機甲にも詳しい。


 カレルギアの工房は様々だ。システム化されて大量に同じ機甲を生産する工場もあれば1品1品手作りの一点物を制作する工房もある。この工房はその一点物の工房で、日常的に使用する義肢パーツを個人に合わせて作っている工房だった。


 工房内には光熱を吹き出す炉が所々に設置され、そのせいかとても熱い。いるだけで汗が吹き出るけれど、コレドさんも親方も慣れたもの。平然としている。デュラはんはよくわからない。

 オイルの香りに溢れた無骨な工房内には様々な器具や機材が所狭しと乱雑に置かれ、材料の入った大きなカゴが天井までうず高く積みあがっていた。それを器用に避けながら歩く親方の後ろをついていき、工房の端っこの煤で黒く染まった小さな机にたどり着く。親方はその上に散らばる物を筋骨隆々の腕でざっと端っこに押しやり、一本の機甲の腕、肘から先の部分を乗せた。


「これは今頼まれて作ってる腕なんだが、ここのいくつも枝分かれしている線、わかるかの」

「はい。これが魔力を伝える伝達腺というものだと伺いました」

「そうだ。人間で言うと神経なんだがこれと使用者の神経を魔力で接続して機甲を自在に動かす。だがこの腺は特殊な鉱石で出来ていてな、専門の工場が石から加工して大小様々な腺を作るんだ。鉱石自体は領域外にもあるかもしれんが、この加工された腺がこの領域外では手に入らないだろう。つまりこの領域外でメンテナンスができない」


 それは納得できる話だ。

 白灰色に薄い光沢の走る細い線。こんなものはカレルギア以外で見たことがない。機甲を使うカレルギア以外に用もないだろう。


「そう、ですね。私は見たことがありません」

「日常的にに使うなら定期的なメンテナンスが必要だ。この領域外で使うなら尚更だ。環境が変わるとどんな不具合が起こるかわからん。それからそもそも機甲を動かすには魔力の塊、いわゆる魔石が必要だ。それはわかってるか」

「はい。魔石から魔力を吸い出して動かすんですよね」

「そうだ。カレルギアには魔力がない。だから魔力は鉱山や魔物から取れる魔石を使う。けれどもこの領域の外ではそんなことをする必要がない。だから魔石は容易に手にはいらねぇ」

「その、大気中の魔力を利用できないものでしょうか」

「ううん、わからんが魔石を使う前提で機甲は作られとるからな。すぐに対応できる工房はないんでねえかなぁ」


 このカレルギアと僕の住むアブシウムでは環境に大きな違いがあった。

 この領域内では魔力がないから魔法はほとんど使えない。だから魔力を使うには魔石を使う。けれども領域外では大気に大量の魔力が含まれている。魔石を使う必要がない。

 魔法使いが魔法を使う方法は様々だけど、その体内にある魔力行使器官を世界に接続し、大気やいろいろな物にあふれる魔力から力を引き出して魔法を使う。だからわざわざ魔力を貯蔵しておく必要がない。魔石というものは存在するけど、それは大気魔力ではまかないきれない大規模魔術を行使する際や即時に魔法を発動させるために濃度の高い魔力が必要、といった特殊状況下で使用することが大半で、ほとんど民間には流通していない。


「魔石の魔力は有限だ。定期的に『灰色と熱い鉱石』まで買いに来なくちゃならん。この腕パーツでも小さな魔石を10日に1度追加することを前提としとる。この領域じゃ魔石は普通にあふれているが、よそにはねぇだろ。特にアブシオム教国からじゃ片道10日はきかないだろう?」

「そう……ですね」

「気の毒だが他の方法を考えたほうがいいんじゃねぇかな。それに機甲を作るにもそれなりの金がかかる。それなら回復や再生の魔法をかけてもらうとか。それこそアブシオム教国が得意にしてるところじゃねぇか」


 親方は僕の方にポンと手をのせ、まあ気を落とすな、と呟いた。


 伝達腺、魔石。その確保は僕らの村では難しい。

 それに一旦この国を出たら再入国は難しいだろう。

 僕はなんでリシャさんに本名を言っちゃったのかな。そうでなければこうはならなかったのかな。いやでもそもそもデュラはんを探してリシャさんたちは現れたわけだし避け得なかったような気はする。


 僕らは幸いにもたくさんの工房を見学することができた。そして結論としてカレルギアの機甲はカレルギア以外での運用は難しいことがわかった。

 この親切な親方以外にもカレルギア内の色々な工房を巡って出した結論。 

 リシャさんにデュラはんの体を作ってもらえたとしても、僕らの村で使えないならあまり意味がない。


 そうなればもう、ここにいる必要はない。

 リシャさんは今は僕らに好意的だけど、それはおそらくデュラはんを研究の材料とているから。デュラはんの研究が一段落ついたら教会の秘儀の開示を迫られる。この国にとって教会の秘儀というものはとても意味があるものなのだから。プラスにしても、マイナスにしても。

 だからきっと、僕が帰国するといっても穏当には返してもらえないだろう。

 だから僕はここをこっそり抜け出すしかない。とても心苦しいのだけど。

 それにやっぱり教会の秘技を引き渡すことはできない。特にこのカレルギアには。

 それが僕が出した結論。


 教会の秘儀。

 それはこの世界から魔力を吸い上げ人に還元する術式。

 そもそもこの世界には世界を統べる魔女様たちがいる。なのに何故かアブシウムには神様という概念が存在する。

 教国の民はそのことに疑念を抱かないように教育されている。神様の名前はアブソルト様。『アブシウム』とは古い言葉でアブソルト様に仕える者、という意味と習う。


 アブソルト神、いやあえてアブソルトという『システム』と呼ぼう。

 このシステムは何百年も昔の転生者アブソルト=カレルギアが魔女様の魔力回路を利用して構築したものだ。魔力を操り恵みをもたらす『アブソルト神』というもの自体は存在しない、いわば偽神だ。いうならばこれは魔力を運用する魔女様をアブソルトが模して構築した、口頭術式で起動運用する魔力運用システムだ。

 そしてアブシウム以外の領域で伝わる伝説ではアブソルトがこのシステムを構築して『灰色と熱い鉱石』の魔女から魔力を奪ったためにこのマギカ・フェルムから魔力が枯渇し、そして訪れた4人の魔女はアブソルトからこのシステムを取り戻して現在の5人の魔女様が共同統治し運用する体制となった、とされている。


 そしてアブソルトの意を汲む者の子孫、つまりアブシウム教国は魔女様の怒りに触れない範囲で細々とそのシステムを改変して運用していて、それを取りまとめるのがアブシウム教会だ。だからそのシステムの存在と運用方法自体がこの島の禁忌。つまりリシャさんが言うところの秘儀。

 システムを利用する術式を知るためには、口外すれば死が訪れるほどの強固な守秘義務を負う誓約が前提となる。


 もともとカレルギア帝国はこの巨島の大部分を支配する巨大な帝国だった。その当時はアブシウム教国のある範囲もカレルギア帝国の版図だった。

 魔力の枯渇という大惨禍がおこり、その最も影響の強い『灰色と熱い鉱石』の領域が縮小されるとともにカレルギアもその範囲に押し込められ、地勢的にもカレルギアとアブシウム教国の間に他の領域が挟まれる形で分断された。

 だからこそ、このシステムの存在はカレルギアでは巧妙に隠されたのだと思う。コレドさんやリシャさんにこの国の話を色々きいたけれど、カレルギアには何故魔力が枯渇したかという伝承の詳細は失われているらしい。ただ、昔の転生者が何かをやらかして魔力を枯渇させたというだけ。


 僕が秘儀を伝えればこの国は何故この国に魔力が枯渇しているのかに気づくだろう。そして再度それを行うための方法も。そうなれば……どうなるかはわからないけれど、また戦争が起こるかもしれない。あるいはもし術式がこの島中に広まればまた島全体で魔力が枯渇するかもしれない。

 僕は僕のせいで歴史を変えたくはないんだ。


「デュラはん、僕はそろそろ村に帰ろうと思うんだ」

「ええで。ほな帰ろうか」

「えっいいの?」

「でもどうやって帰るん? 多分この感じやとそうそう返してはもらえんで」

「うん、だから強行突破するの。身の回りのものとデュラはんがいれば後はなくてもいい」

「はぁい。ボニたんは相変わらず謎に思い切りがええな」


 僕が持ち込んだ武器の類は全部押収されたまま。

 でも身分を証明する証明証やお金といった、僕がカレルギアで過ごすのに必要なものは返してもらっている。お金はまだ十分ある。場合によっては機甲の一部を購入して村で解析することも考えていたくらいだから。

 だから僕はデュラはんのカゴに布をかけて、夜中にこっそり機甲師団を抜け出した。

 僕はよくデュラはんと夜の散歩にでかけていた。城郭に登って時々赤く光る夜のアストルム山や夜半にも明るく熱気に溢れたカレルギアの街を眺めていた。いつも話しかける守衛さんは快く僕らを送り出してくれた。とても心が痛い。


 機甲師団は何かあった場合、例えば竜が襲ってきたときにすぐに迎撃できるように城郭外に施設が設けられている。

 月が雲に隠れた夜。珍しく薄暗く陰った道を僕らは二人で歩く。いつもは楽しくおしゃべりをしているのに今日は何も喋らない。静かだ。

 僕らはいつもどおり城郭に続く街路を歩き、随分離れてから反転してアブシウム教国に続く街道に向かって走り出す。

 その瞬間、僕の意識は暗転した。

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