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僕とデュラはんの不穏な旅路

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。それより顔がまたパイナップルみたいになってそうや」

「パイナップル?」


 キーレフの町を出発して3日。僕らはゴトゴトと乗合馬車で荒野を進んでいる。

 窓から顔を出すと遠くからびゅうびゅうと乾いた風が吹き渡って髪を揺らして、少し埃っぽい。景色はだいたい赤茶色の土と青い空、時折硬そうな大きな木。最初は物珍しかったけど代わり映えがあんまりしない。初めての旅にわくわくしてたけどずっと同じ景色だからちょっと飽きてきちゃった。

 魔力不足を心配していたけれど、今のところデュラはんに異常はなさそうだ。


 馬車には3組のお客。家族っぽい親子と旅慣れていそうな青年と老人。デュラはんとの会話を聞かれないよう世間話を続ける彼らと少し離れ、馬車の一番後ろの座席から景色を眺めていた。

 馬車は今日の夜に次の町に着く。そこで一泊して、明日にはカレルギア帝国の帝都カレルギアに到着する予定。キーレフでは帝都にはコラプティオよりたくさんの人がいて、いろいろ珍しいものがあると聞いたから少し楽しみ。たくさんの工房があると聞いたからそれをまわる予定だ。


 馬車が道を外れたのか急にガタリと音が響くと、デュラはんが小さくパイナップルと騒ぐ。

 今デュラはんは木を編んだカゴの中に入っていて、その隙間から外を覗いている。外から直接見えないように籠の中にさらに編みがゆるい内カゴを入れてそこに入っているんだけど、馬車が揺れる毎に内カゴの網目に顔が押し付けられるらしい。昨日の夜も宿でカゴから出した時は網目の形が顔にくっきりついていてなんだか妙に面白かった。

 けれども馬車は街道から外れ、急に車内に差し込んでいた日が陰る。窓の外を見ると岩と大きな木の陰に停車したようだ。


「あの、何かあったんでしょうか」

「わからないがこの先の道で異常があったそうだ。砂ぼこりが立っているらしい」

「砂ぼこり?」

「ああ。先行する車がモンスターか山賊に襲われたんじゃないかって御者が言っていた。それで安全を確保するため少しここで様子を見るらしい」


 不安そうに頬を掻く青年に礼を言って馬車の窓から前方を眺める。言われてみれば、前方が黄色く烟っている。出発前にこの街道沿いは警備兵が循環しているから安全だと聞いていたのだけど。

 そもそもが遮るものがない荒野だ。今、馬車は岩陰に潜んでいるけれど、この岩陰だって完全に隠れられるものじゃない。もし見つかって、この馬車に狙いを定めてくれば隠れようがない。

 急に少し不安になった。


 御者のお兄さんはそれなりに腕っぷしが強そうだけれど、あの砂ぼこりが闘いによって発生したならお兄さん一人じゃどうしようもない。だって砂埃は10メートルはは超えそうな高さ。

 僕も護身用にデュラハンたちが作ったボウガンとかスペツナズ・ナイフ(刀身が射出するナイフ)とかを持ってはいるけれど、そもそも僕は戦闘経験が乏しいし強いモンスターとなんて戦いようがない。


「ちょっと様子見てみるわ」

「スピリッツ・アイ?」

「そうそう『スピリッツ・アイ』ぐあぁ!?!?」

「何だ?」

「あ、すいません、お腹の音です」

「おいちょっと」


 不審そうに眉をひそめるお兄さんに謝り急いで馬車を飛び降りる。何今の声!?

 木陰まで走って急いでカゴを開けたらデュラはんが青い顔色をしてうなっていた。


「どうしたの!? 大丈夫!?」

「痛ったぁ……」

「どこか怪我した??」

「ん、ん、大丈夫や。なんか今すっごい偏頭痛したん」

「偏頭痛?」


 痛そうに右目を瞑ってる。

 そういえばデュラはんはしょっちゅう疲れたとは言ってるけど、どこかが痛いっていうのは聞いたことがない。偏頭痛って頭が痛くなることだよね。デュラはんは今頭しかないけど大丈夫かな、全身痛いってこと?

 痛いの痛いのとんでけ。


「んあ、大丈夫、いちお収まったで。ん、ええと、スピリッツ・アイは起動しとる。こっからえーと、200メートルくらい先に集団で闘っとる。闘っとるんはモンスターとなんかな。なんか大っきいわ」

「大っきい? どのくらい? 隠れたほうがいい?」

「んん、多分大丈夫。それと闘っとるんは人間やと思う。5人おる。御者さんがいいよった警備兵いうんちゃうんかな」


 警備兵。

 ほっと胸をなでおろす。それなら大丈夫かな。

 改めて砂ぼこりに目を向けると先程より更に大きくなっていた。

 激戦なのかな。見えないと余計不安になる。そうだと思ってデュラはんの入ったカゴを担ぎなおして、馬車の上に影を作っていた木に手をかける。確認するべきかな。

 ……向こうからも見えてしまうかもしれないけど仕方がない。相手が太刀打ちできないほど、強ければ強いほど逃げるかどうかは早く決断しなきゃならない。これまではデュラはんが僕を守ってくれていたけど、今は僕がデュラはんを守らないといけないんだから。

 よしと決意してゴツゴツした木をよじ登って懐からマジック・ルーぺを取り出す。この小さな輪っかを通して見ると、遠くの景色を拡大縮小できるマジックアイテム。それを通して見えた風景に絶句した。


「俺にもみして。うわぁなにこれ、特撮映画やん」

「特撮映画?」

「この世界はやっぱナーロッパとはちゃうんかな。ようわからんな」


 ルーペの先では10メートルはあろうかという2匹の灰色の地竜と5人の人間が対峙していた。そのすぐ近くには別の1匹の地竜が横たわっている。竜なんて始めてみたけど、あんなに大きいものを人間が倒せるの?

 そのまま眺めていると1人の小柄な人間を中心に4人が陣形を組んでうまく地竜を誘導している。


「金ピカやねえ。魔法なんかな」

「どうだろう? あんな魔法見たことないけど」


 それとも噂にきく魔法剣とかなのかな。

 小柄な人間が大剣を振り上げてあっという間に1匹の地竜の首を落とす。竜の首に接する瞬間、大剣は金色に光り輝く。

 その動きはまるで舞うように滑らかで、あの硬そうな地竜の皮膚を熱したナイフでバターを切るようにストンと落としたんだ。


 けれど、思わずデュラはんと一緒に身を乗り出して歓声を上げそうになった瞬間、地竜がこちらを向いた気がした。そして同時に5人の人間も。

 一瞬だった。

 その一瞬の隙を突いて残った最後の地竜が5人の包囲をくぐり抜け、一直線にこちらに走ってくる。砂ぼこりがどんどん大きくなる。

 嘘嘘、ちょっと待って。

 どうしよう!?


「ボニたん逃げや。いやあかん、あの速さは逃げ切らん」

「えっえっどうすればいいのさ」

「あの5人が追いつくまでの時間を稼ぎや。花火弾かな」

「わかった!」


 念のためと鞄から出していたボウガンを急いで展開し、タケヒサ弾をセットする。タケヒサ君がつくった弾で、村の近くの山でとれた硝石と硫黄と木炭を混ぜて作った火薬に金属片や色々なものを追加して変な色に光る弾。あの大きな竜にダメージは与えられなくても近くで急に光ると怯むかもしれない。

 村を出る前に何度も練習した動作でボウガンを肩にかけて狙いをつける。

 デュラはんから標的の位置の修正が入る。デュラはんのスピリッツ・アイは視界と関係ないスキルで空間と距離を把握するもの。だからボウガンの角度と地竜の距離を調節する。


「もうちょい右斜下45度、ストップ。発射や!」

「わわっ」


 シュパという発射音の直後に強烈な破裂音と近くで巻き起こるインパクトの衝撃波。まぶた越しでも目の前がピンクと青の混ざった珍妙な光で満たされた。

 至近距離で爆発した花火の風圧で僕は後ろに転がりそうになり、なんとか木にしがみついて耐えていると、ぐおぉという大きな唸り声がした。発射前に目を閉じたけどまぶた越しでも強い光は強烈で、視界に光が染み付いてしばらく何も見えそうにない。

 ていうかこれだけ明るかったら追いかけてる人たちも見えないんじゃないの?


「デュラはん、どう?」

「大丈夫、や。警備兵が仕留めたわ。まじ強いってちょっ待って。ボニたん動かんで絶対!」


 その瞬間、タタタっと僕が登っている大きな木を反対側から駆け上がる音がして、一瞬後に首筋にひやりと冷たいものが当たる。ひゅうと喉が鳴る。


「心して答えよ。お前は何者だ」


 聞こえたのは女の人の声だった。

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