僕とデュラはんはカレルギア帝国に向かった。
キウィタス村はマジカ・フェルムと呼ばれる少し特殊な大きな島に存在する。
首になったデュラハンたちは世界中を飛び回ったと言うけれど、その世界っていうのはこの広い世界の全てじゃない。デュラハンたちの体が動き回っていたのはとても広い範囲だけどこの大きな島の範囲内。海岸線の内側。
「でも聞いてる範囲、めっちゃ広そうやったよ」
「うん。ここはものすごく大きな島なんだよ。そこが多分デュラはんたちが行動できる範囲内」
「行動?」
「そう。島より外には多分出ていけない。だからあの子たちがいう世界っていう表現は間違ってはないのかも」
「ボニたんはちゃうん?」
この世界は色々と複雑且つシンプルに絡み合っている。
魔女様と呼ばれる存在がこの世界の魔力を監理し、その運行を司っている。だけどそういった世界の真理についてはこの国の普通の人にはほとんど知られていない。ここが他と比べても特殊な場所で大きな島だということも、その外に世界があることも知られていない。
僕は教会にいたから辛うじて知ることができただけ。
「僕は人種だから島の外に出ても大丈夫だけど……てなんでそんなに驚いてるのさ」
「いやてっきりボニたんはエルフかなんかやと思てて」
「なんで!」
何故僕がエルフに間違えられるんだろう。エルフの特徴なんて持ち合わせていないと思うのだけど。
まあ気を取り直して。
それでこのマジカ・フェルムは5人の魔女がそれぞれ担当領域を受け持って協力統治している。
僕らの住んでいる村やコラプティオは同じ魔女様が統治する領域だけれどもこれから行くカレルギア帝国は異なる魔女様の領域だ。僕らの住んでいる領域は森や緑が溢れているけれど、カレルギア帝国に緑は少なく砂や土に覆われた黄色と赤の特殊な領域だって央協会で学んだ。
同じこの島の中といってもずいぶん遠くて、だいぶん違う。
「その魔女いうんが違うとなんか違うん?」
「魔女様は世界を巡る魔力を管理しているんだ。魔力が世界の変なところに溜まりすぎたり枯渇しすぎたりしないように調整しているの。そうしないと災害とかが起きちゃうんだって。それで簡単に言うとカレルギア帝国は魔力がほとんどない地域、と認識してればいいんだと思う」
「ふうん? けど俺は魔法使えんで? 関係ないんとちゃう?」
「それは多分逆で」
デュラハンというのは妖精だ。妖精は精霊と似た性質を持っていて、魔力をその本質としている。
簡単にいうと精霊は魔力の塊で、妖精というのはその精霊が肉をまとったもの。その中身はだいたい魔力で満ちているはずなんだ。つまり肉の体を持っているように見えても本質的には魔力に親和性が強くて魔力で動いている……はず。だから魔力がないと存在できない。
だからあの子たちはカレルギア帝国の噂は聞いていても、誰も死を告げにいくどころか帝国内に立ち入ったことすらないようだった。どこかで噂を聞いただけ。
「噂を聞いただけで入ったことがないのっておかしいと思わない?」
「お仕事なかったんちゃう?」
「ううん、多分デュラハン、というか妖精は入れないんだよ。教会みたいに」
「俺、教会入れるよ?」
「そこがわからないんだよねぇ本当に。でも僕が習った話ではそうなんだ。魔力がないと動けなくなるはず」
「え、それ俺ヤバいんちゃう?」
「でもまぁ僕が習った話では聖水でデュラハンは弱体化するのに全然しないしねぇ」
「聖水めっちゃ気持ちええで」
本当にデュラはんはいつも企画外。あの子たちもそうだけど、他の世界から来たと言うのが関係あるのかなぁ。
でもこれから行くカレルギア帝国は魔力が少ない。いわばご飯がないようなもの。デュラはんは食べ物を食べていないから、恐らく純粋に、というか無意識に大気中から魔力を吸収して魔力で動いているんじゃないのかな。
カレルギア帝国の領域でも魔力はほんの僅かにはあるそうだからすぐに死んだり消滅したりはしないだろうけど動けなくなったりする可能性はある。
それもあって止めようって言ったのに誰も話を聞いてくれなかったじゃん。
『みなさま。間も無く『灰色と熱い鉱石』の魔女様の領域に入ります。魔道具をお使いの方は一旦その使用をお止めください』
馬車が停車してアナウンスが流れる。
僕らはカレルギア方面行きの乗合馬車に乗ってちょうど13日目。今その問題のカレルギア帝国のある魔女様の領域に入るところ。
領域を超える時に魔力の性質が変わることがあるそうだ。
魔力の管理者が変わるからだといわれていて、その場合、魔道具を使い続けていると不具合が出ることがあると聞く。異世界人は『旅先で急に電圧がかわって電化製品が壊れる現象』って言うそうだ。デュラはんもなるほど? と言っていたけどよくわかっていなさそう。僕もだけど。
車内にガサガサと荷物を改める音が溢れた。
魔力の変質の影響は人にも現れるらしく、先輩に聞いた話だとちょっとクラッとして空気の匂いが変わるのが一瞬だけわかるとか。
僕も領域を越えるのは初めてのことでちょっとだけ緊張していた。
デュラはんもドキドキしているのかカバンの中でふらふら左右を見渡している。もし動けなくなったら次の停車場で降りて引き返そう。
そして再び馬車は領域境界に向けて進み出した。