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俺氏、デュラはんの寄り合いから逃亡する。

 5年くらい前、トラックに轢かれてこの世界に転生したらデュラハンやった。

 ねぇデュラハンって知っとる? 頭を抱えた騎士っぽいやつ。別に困っとるわけでもなくて、物理的な話。最近アニメでも割と有名。

 でもなんつーか、首とれてるって死んでるってことやんね? 息しとらんし。

 転生したらすでに死んでたってなんなん⁉︎ クレーム入れてもええんちゃう⁉︎

 と思たけど、案外悪うない。


 飯も食わんでいいし夜にプラプラしてるだけ。そんで今はなんか、この村の警備員になった気持ち。

 あ、俺がいる村はキウィタス村っていうん。人口100人くらいの小さい村でさ。10年ちょっと前にできたばかりの開拓村って聞いた。


 デュラハンっていうのは死を告げるものでさ、死ぬ人が出る家に行って家の人が戸をあけたらタライ一杯の血をぶっかけるん。それで姿を見られたら鞭で目を潰さんといかんらしい。

 意味わからんやろ?


 でもフレーバーテキストにもそう書いてある。なんか頭の中にアイコンがあってやな、『オープンステータス』とか唱えると脳内にいわゆるステータスが出るんやわ。そこの自分の種族にカーソルあわせるとそう出る。

 なんだこの不条理。職業選択の自由はないのか。

 ここはステータスとスキルありきの世界線。



 まあそんなことを言うても仕方ないし、と思うて俺はいわゆるデュラハンの寄り合いから逃亡した。本来はデュラハンて妖精らしくて世界の(ことわり)からは逃れられんらしいんやけど、俺の魂は転生者だからか縛られんらしい。よかったよかった。


 そいでプラプラしてた時に会ったんがボニたん。

 ボニアなんとかいう長い名前なんやけど、覚えられんかったからボニたん。デュラはんとボニたんいうとなんか漫才コンビみたいやなと勝手に思とる。


 ボニたんはキウィタス村で神父さんしてる30代くらいの男子。30代を男子いうんかようわからんけど、20下回るくらいにしか見えんからまあええやろ。身長は170センチくらいで茶髪のひょろっと痩せてる眼鏡似合いそう文系男子。お約束のエルフかなんかかと思たけど、耳尖ってないから違うんかな。

 もう会うて5年くらいたつけど容姿は全然変わらんし、でもTPO的に種族って聞いてええんかわからんからそのままや。案外俺小心者。だってボニたんはこの世界の最初の友達なんやもん。

 みんな逃げちゃうし、そら首もっとるから仕方ないし……。


 でもボニたんとはなんか気が合うて、そんなわけで俺の昼の寝床は教会倉庫。別に棺桶で寝たりはせんのよ。たまに元同僚が探しにくるんやけど、教会に籠っとれば見つからんっぽい。

 ボニたんに聞いたら妖精は普通は教会に入れんのやって。妖精いうと手のひらサイズのイメージなんやけどな?

 まぁ俺の前世知識でもボニたんから聞いた今世知識でも、妖精は少なくとも善なるものやないみたい。そのせいかな。

 俺?

 信仰心とかないからやと思うけど全然平気。


 昼間は自宅(教会の倉庫)を警備して、夜間は村の周辺を警備しとる。

 この世界はお約束の中世ヨーロッパ系ファンタジー史観で、なんか狼とかゴブリンとかちょくちょくやってくるから。

 デュラハンて戦闘能力高いんな。鞭使いでなんやかっこええ浪漫職。転生した時から既に鞭レベル4やったから、なんでかヒュンヒュン使えて楽しい。やってきた狼やっつけて森の奥に捨ててくるん。死体をそのままにしとくとゴブリンとかくるし。ほんま嫌よね。


「デュラはん~?」


 あっボニたんが呼んどる。


「何何~?」

「隣村の方で大きな魔物が出たんだって。またお願いしていいかな~?」

「オッケオッケ、今晩行ってくる!」

「ありがと。デュラはん大好き。倒せてボーナス出たらまた面白いものお取り寄せするね」


 サムズアップ!

 デュラハンやから頭の反対側にある右手に上がった親指を俺は確認できないんやけど。大好きいわれたら張り切らんとあかんわ。

 ボニたんは俺の倒した魔物とかを教都本部に報告して報酬をもろてる。ボーナス出たら魔法の眼鏡とか面白魔法グッズを色々買うてくれる。こないだもろためっちゃ切れ味ええ魔法のナイフとかキャンプに便利。倒せたらなんか買うてもらお。


「デュラはんならきっと大丈夫。でも無理だったらちゃんと逃げて帰ってきてね」

「大丈夫やて、なんとかしたるわ!」


 んん。そんな強いんかな。

 ボニたんが『きっと大丈夫』いう時は失敗する思とる時や。

 でもデュラはんがんばるで!

 まぁ無理やったら逃げてこよ。


 それにしても大きいてどのくらい大きいんやろ? 俺より大きいんかな。

 多分俺2メートル超えとる思うけど。前に1回切り株の上に頭置いて自分の全体像眺めたことあるから多分正確。

 うーん、まあ俺死んどるからなんとかなるやろ。そう思って出かけた夜の山。


 死んどるからか夜目が効く。

 ホーゥホーゥと鳴くフクロウがどこにいるかもわかっちゃう。多分投石したら当たるけどそんな可哀想なことはせんで。夜の山はいい匂い。なんか解放感。別に束縛されてるわけやないけど。

 さてと、魔物てどうするかいな。むやみやたらに歩いても山は広いし大きいし。


 そういう時はデュラハンの固有種族スキル、スピリッツアイをオン。生命力を感知できるん。

 デュラハンって死を検知するわけやからかこういう謎いスキルがあるん。

 生命力ってなんなん? っていう疑問も湧いたけどわからんもんは考えても仕方ないわ。


 どれどれ。

 スピリッツ・アイで見回すと虫やら鳥やらも入ってキラキラしすぎるから大きさをどんどん絞る。

 鹿っぽい。あっちも鹿? お土産にすると喜ばれるかな。

 んん~、あれ、あっちはゴブリンの巣っぽい。

 あとでボニたんに報告しよ。勝手に潰したら報酬入らんのよね。問題視されてからやないと。世知辛いわぁ。


 キョロキョロしてると大きな影を発見。あれかいな。

 そろりそろり、なるべく音を立てんよう山を闊歩する。かぽかぽ。

 妖精やからか忍足は超得意。これも種族スキルがあってやな、俺、妖精やからか体重変えられるん。ほぼ0から多分200キロくらい。

 まぁ服やら装備やらの重さもある。だからうまく動くには完全0にはできんのやけど。上限はなんとなくデュラハンの体格からくる俺の想像力な気がするような。

 ともあれ、体重調整すごい便利。弱点もあるにはあるんやけど忍び足とか超得意。

 でも俺の首は俺の頭よりずいぶん上の方やから首まではよう把握できんくて、たまに木の枝にぶつかってガサガサ音がしとる。だから森の行軍は正直得意じゃないん。


 そんなことをぼんやり考えてると目的に到着。ひときわ大きいライフの明かり。

 木影からのぞくと、なんかでっかい熊やった。立ち上がったら6メートルくらいになりそう。

 ええと。ボニたんに見せてもろた魔物図鑑を思い出す。あのサイズはヘルグリズリーってやつかいな。

 毛皮が高いと書いとったような。


 う~ん、でかい、でかいぞ。

 どうしよ。よし、なるべく不意を打つ。それしかないよね。

 鞭を構える。鞭ってほんまに浪漫武器。村周りの平原ならともかく正直森の中にはものごっつ不向き。障害物多すぎるんよ。よっぽど開けたとこやないと無理や思う。

 神様は何考えてこんな武器設定にしたんや。それになんでかわからんけど、この世界は適性がないと武器が装備できん。料理するんにナイフ持つとかはええんやけど、武器や思た途端力が入らんくて持ち上げるんも無理になる。せめてナイフくらい持てればええのに。


 だから俺は鞭のグリップを逆さに握って鈍器にする。グリップの端にはこぶし大の髑髏型の変な突起がついている。ヘルグリズリー、長いから熊でいいや。よし、熊は俺の方を向いとるけど俺に気づいてなさそうや。死角やな。念のためにちょっとだけ細工する。

 ゆっくり距離をとりながら熊の背後に回るのだ。熊の頭の高さは俺の首くらい。頭だけで両腕をワッカにしたくらいのサイズ感やな。でかい。ちょっと呼吸を整える。息してないから気持ちだけ。ここでぼんやりしたって始まらん。

 とりま行くか。気合十分。


 ヒュウ、と風がついてきた。

 前傾姿勢で地面を蹴って風の速さで熊右背後から忍び寄る。

 重さのほとんどない俺の走りは足音なしで気づかれん。

 熊の真横に滑り込む。体重増加。軸足を起点に鞭の柄で熊のこめかみを強打・振り抜き、その勢いで熊の正面に回りこむ!

 どや?


 突然の衝撃に熊は一瞬大きく唸り、ぐらりと足元を揺らがせた。だが、それだけだ。

 くっそ、さすがレベルの高い熊、このくらいじゃ倒れへんか。わかっとった。体重乗らん軽い打撃はやっぱたいして効かないや。これが弱点。

 だから熊が混乱してるうちに一呼吸も置かせず追撃。


 熊が地面を太い脚で踏み締める前、俺は体重を消して地面蹴って高く跳躍する。

 5メートルの高さから体重200キロに重力追加。鞭柄を振りかぶって熊の右目に正確に叩きつける。メキョっという音が響く前に背後に飛んで距離を取る。

砂埃の先に見える熊は……目は潰せたけどやっぱ浅いか。

 本当は頭骨を割りたかったんやけど。頭蓋が硬すぎる。眼窩は髑髏より小さそう。鞭柄を突き立てても脳髄に届かんな。

 なら、次の武器は徒手。


 鞭を放り捨ててより身軽になった体重をオフ。熊の右側面から素早く背後に回り込み、左側面の死角から勢いをつけて熊の左目を指突でえぐる。

 ぐちゃぐちゃ貫通する眼球の粘り。だがやはり脳には届かない。

 被弾を避けて再び体を地面スレスレに低く倒しながら正面に回り込む。

 直後、熊の直径1メートルはある逞しい腕が俺の元いた場所をなぎ払う。

 ふぅ、あれで殴られたら多分ばらばらや。少なくとも俺の頭部は潰れそう。頭潰されたらさすがに死ぬんかな。


 今見た感じ、熊のリーチはおそらく3メートル。こちらの方が身軽にしても、あの丸太みやいな凶悪な脚。熊の方が突進力は高そうだ。だが早々に両目は潰せた。

 ぐうふフと唸りながら熊はゆっくりと威嚇するよう立ち上がる。やはり……でかい。圧倒的に。下から見上げると余計に。ゴクリと喉が鳴る。


 だが。勝った。

 俺の指はお前を貫けはしないけど、それなりに力は強いんよ。

 細工を手元に手繰り寄せて呼びかける。


「く~まくま~」


 アホっぽいなん。

 真下から聞こえた俺の声に怒号を上げ、上体を大きく捩じって凶悪なこぶしを振り上げる。

 おお、すげえ迫力。まじ怖ぇ。心臓あったら止まったかも。

 俺の何倍もあろうかという質量が上空から暴風とともに振り下ろされる。

 体重0の俺はその勢いで吹き飛ばされて、頭を木に強かに打ち付けた。


 いてて。

 もっとちゃんと持っててよ体。

 地面に転がる俺の頭は、横になった視界で熊が太い杭に貫かれて絶命してるのを見た。

 俺はボニたんが買うてくれた恐ろしく切れ味のいいナイフで先端を尖らせた倒木を俺と熊の直線上に置いてきた。武器と思わんかったらナイフは使えるし罠と思えば杭を持てるんよ。そうやないと武器屋さんが武器持てんし猟師さんが罠設置できんからな。太い杭は熊の胸にズドンと見事に突き刺さっていた。

 ……やっぱあの質量差は武器ないと無理やよな。

 やっぱ、武器で使えるもん欲しいな。鞭かっこええけど実用性低い。


 ふう。でもよかった。倒せたわ。俺やったよ、ボニたん。

 よっし。皮剥ご。ボニたんにお土産。

 夜は短し皮剥け俺氏。

 熊と接敵した衝撃で鳥は飛び立ち、獣は逃げ去っている。

 静かな夜。今日はお月様もいない。

挿絵(By みてみん)

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