#5
ルートヴィッヒ視点です。
だんだん、現実と夢の区別がつかなくなってきている気がする。
ゾフィーの体からは、甘くてスパイシーな独特の香りがして、嗅いでいる間はとても気分がいいのだが、離れると頭痛がする。エリーザベトのための研究をするのにふたりでいる方が都合がいいこともあって、寝るとき以外は私たちはずっと一緒にいた。朝早くからふたりで研究棟にこもり、夜遅く解散して、寮の部屋で数時間だけ眠る。そんな生活をどれだけ続けているのだろう。私の頭の中はいつしかエリーザベトのことよりゾフィーと一緒にいることの方が大切だと切り替わってきて、どうしてこんなに彼女のために一生懸命になっているのかすら分からなくなってきていた。
「――から、こうなるでしょ?これならリーゼロッテ様の傷痕を消すことができるかもしれないわ」
ゾフィーの声に、ぼんやりと私は頷く。寝不足の日が続いたせいか、どうにも頭がはっきりしない。だが、あの醜い傷がなくなれば、リーゼロッテは他の男とも結婚できる。容姿は地味だが若い女だ、そこはどうとでもなるだろう。
そうすれば、私はゾフィーと結婚することだってできるのだ。ゾフィーは明るく、快活で、流行にも敏感な可愛らしい女性だ。リーゼロッテさえいなければ彼女との結婚も夢ではない。
「ちょっと、聞いてるの?ルーイってば」
「ああ、聞いてる。じゃあ、それでやってみよう。リーゼロッテだって嫌とは言わないさ」
唇を尖らせる様子も愛らしい。ああ、私の妻には、醜く、性格も暗いリーゼロッテなどではなく、ゾフィーこそがふさわしい。
学園に入学して半年ほど。ゾフィーの素晴らしさに、かつてリーゼロッテを思っていた私はどこかへ消え去ってしまった。アミルとして彼女を愛した記憶は残っているが、それだけだ。
――あれ、どうして……。
どうして、リーゼロッテをあんなに好きだと思っていたのだったか。まあ、いいか。ゾフィーとの出会いをくれた彼女には感謝しているんだ。
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