#4 side E
高等学院に入学してから、いえ、その少し前からルートヴィッヒ殿下は変わってしまわれた。罪悪感からでも、私を大切にしてくれた殿下はもういない。きっと、以前からゾフィー・アイルホルン様と交流があったのだろう。そして、彼女に惹かれていたのだろう。
悲しいけれど、私の気持ちはまるで殿下に届いていなかったのだ。そう思って、諦めた。
もう、なにも言うまい。
我が家の立場からでは、王家に婚約破棄を願い出ることはできない。殿下が私という邪魔者があることを思い出して、婚約破棄を国王陛下に伝えてくれることを願うばかりだ。
「馬鹿なやつだ」
王宮の薔薇の迷路の最奥で、私の一番の友人がぼやく。醜いやけどの痕も気にせず、「たまには乾かさないと余計に痛むぞ」と毎回私からヴェールをはぎ取るアミル殿下は、ルートヴィッヒ殿下の異母兄だ。そして、私にとって実の兄のように気を許して話すことができる貴重な相手でもある。
「そんな風に言わないで。きっと、ルートヴィッヒ殿下にはお考えがあるのよ」
「そうは見えんが。とにかくあれでは将来が困る。政権がアイルホルン家の操り人形になってしまっては、内乱どころか他国との戦争の火種になりかねん」
「そうね……」
アイルホルン家は、代々宮廷魔術師を務めるお家柄。魔力の強い家であるがゆえに、脅威にもなりうるかの家を、国王陛下は冷遇している。内乱を引き起こされては困るというのがお考えのようだが、ルートヴィッヒ殿下のお考えは違うのだろうか。
授業にも出ず、ゾフィー様と図書館や研究棟に入り浸る殿下を良く思っていない貴族の子弟は多い。子女たちの中には次期国王を誑かしたとゾフィー様に嫌がらせをする方たちもいるようだ。そして、その多くが私が命じたことになっていることも耳に入っている。
「私、もう学院に戻りたくないわ。ずっとここで、宝物に埋もれていたい」
憂鬱な気持ちを吐き出す。傍に控えていた護衛や侍女が痛ましそうに表情を崩した。
初めてルートヴィッヒ殿下にいただいたのは、ピンクアクアマリンのブローチ。次は、スズランの造花で作られた髪飾りだった。それから、愛らしい猫のぬいぐるみと、たくさんのお手紙。みんな、私の宝物だ。初めて殿下に告白したこの場所も。
「リジー、そんなことできないの分かってるだろ?王太子があの状態の今、お前まで不登校になったらそれこそ他の貴族の反発を招くぞ」
「知ってるわよ。でも、思うくらい勝手じゃない。我慢してるの、頑張ってるの。褒めてくれたっていいでしょ!」
涙が溢れる。アミル殿下は困ったような顔で、私が泣き止むまで頭を撫でてくれていた。
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