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#4 side L

 入学案内を見て、そういえばもうじき高等学院という名の小さな社交場への入学だったと思い出す。名目上は学校なので、授業の時間はちゃんとあるのだが、私はもう学院で習うべきことはすべて履修済みだ。だから、当初の予定ではエリーザベトの勉強を見てやりながら、将来の側近として適当な人物を探すというのが入学の大きな目的だった。そのため、寮では身分の高い婚約者同士の特権である続き部屋を予約していたのだが……今は、エリーザベトと一緒にいる気持ちになれない。きっと、酷いことを言って傷つけてしまう。そうしたらきっと、ますます彼女の心は離れてしまうだろう。


 私は執事に続き部屋をキャンセルするように伝え、壁に掛けられたドライフラワーに目を向けた。それは、初めてエリーザベトからもらった薔薇を乾燥させたものだ。 


 時々、考える。私はアミルのままでいた方が良かったのではないかと。アミルなら、エリーザベトは好意を隠しもしなかっただろう。最近のエリーザベトの記憶は、悲し気な目と、あからさまな作り笑いばかりだ。さすがにもう、気付いてしまった。エリーザベトは、アミルに向ける笑顔を、ルートヴィッヒには絶対に向けない。アミルに対するときのような砕けた口調で話すこともない。エリーザベトが私との婚約を解消しないのは、そうすればアミルに会う機会がなくなってしまうせいだ。



 どんなに過去を変えたって、未来は変わらない。私はもう、足掻くことに疲れ切っていた。



「過去を変えたいんですか?」

「ヨハン……いたのか」

「ええ、おりましたとも。それで、どうされたのです?過去を変えたいだなんていきなり言い出して」


 変えたいのは過去じゃない。未来だ。告げると、ヨハンは「またエリーザベト様ですか」と呆れたように言った。


「ひとつ、良いことを教えて差し上げます」

「いいこと?」

「殿下はずっと、エリーザベト様の傷痕を消す方法を探してらしたでしょう?」


 そういえば、ヨハンにはそんな話をしていたっけ。でも、どんな魔法も、医術も、魔力の暴走で負った傷を消すことはできないと誰もが口を揃えて言った。私の魔力が治療に向いていないこともあって、今は少しでも傷が薄くなる方法を模索している。


「殿下と同級に、アイルホルン家のご令嬢がいらっしゃいます。王家をも凌ぐ魔力を持っていると噂の、ゾフィー様が。相談されてはどうでしょう?なにかご存知かもしれませんよ」



□□□



 入学式の後、私は早速ゾフィーに声をかけた。栗色の髪に、ピンクがかった金色の瞳。大きな目がきらきらと光る彼女は、魔術師としてだけでなく流行を作る側の人間としてもとても優秀だそうだ。


「では、エリーザベト様の傷を治すために私に?」

「そうだ」


 事情を説明すると、呑み込みの早いゾフィーはすぐさま笑顔になった。


「わかりました。その代わり、タダじゃ嫌ですよ?」


 と、ちゃっかり見返りを要求してくる辺り、しっかりもしているのだろう。なんというか、新鮮な気分だった。エリーザベトは、私からの贈り物を喜びこそすれ、なにかを要求してきたことはない。慎ましい様は好ましいけれど、少し寂しくもあったから。


「私にできる範囲のことなら、構わない」

「では、魔法石をいただけますか。そうね、ブローチか何かの身に着けられるものだと嬉しいわ。こればかりはどうしようもないのですけれど、月の障りのときに魔力の制御が難しくなるんです。かといって、分家筋の我が家では私の魔力を押さえることができるだけの魔法石を買う力がなくて」


 相当苦労してきたのだろう。切実な願いに、私はふたつ返事で頷いた。ゾフィーは心底嬉しそうに笑い、必ず力になると約束してくれた。


「ひとまず、次の休みに帰省して我が家の蔵書を探してみます。それまでお待ちいただけますか?」


 そうして、私たちの秘密の研究が始まった。

 ゾフィーは頭の回転が速く、話しやすい性格だった。時々、男の級友を相手にしているかのような気にさえなる。政治や経済にも明るく、時にその知識は専門家が舌を巻くほどだ。当然、学院での履修範囲はすでに終えていて、授業に出る必要を感じなかった私たちは、のめり込むように研究に没頭した。



 そんな私たちの様子が周囲からどう見えるかなど、私は全く考えていなかったのだ。

お読みいただきありがとうございます。

王子もポンコツなら従者もポンコツ。暴走するのも当たり前な環境なんですね...( = =) トオイメ目

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