#1 side E
私の右半身には、醜いやけどの痕があります。二歳のとき、ルートヴィッヒ殿下の誕生日を祝うガーデンパーティーの席で、彼は魔力を暴走させのだそうです。炎の龍となった魔力は庭木を襲い、たまたま近くにいた私はそれに巻き込まれてやけどを負ったのだと、私は聞かされて育ちました。一時は生死の境をさまよい、どうにか此岸に帰ってくることはできたものの、体には醜いやけどが残ります。
国王陛下は、貰い手のないであろう私を案じ、ルートヴィッヒ殿下の婚約者という地位を与えてくださいました(断ったのに押し付けてきた、とお父様はいまだに納得されていないようですが)。
それから八年。十歳になっても、ルートヴィッヒ殿下は一度も私に会おうとはなさりませんでした。私も私で、自分から会いたいとは言い出せなかったのです。お会いして、殿下に嫌われたらと思うと、とても怖くて。できればこのまま、高等学院の入学まで会わずに過ごして、後は殿下のご意向に従おう。
ルートヴィッヒ殿下から、お誘いの手紙が届くまで、私は本気でそう思っておりました。
「お嬢様、ルートヴィッヒ殿下はなんと?」
執事の問いかけに、私は少し困った顔で彼を見上げました。初めていただいた殿下からのお手紙は、なんというか、その、控えめに言っても婚約者に向けるものではありませんでした。
「親睦を深めるためのお茶会を開くように国王陛下から指示がありました、と」
お手紙には、日付と時間と場所が簡単に書かれていました。あからさまに自分の意思ではないと示されて、どのようにお返事すればいいのでしょうか。
「あの、シュナイダー、このような場合、なんとお返事差し上げるのが適切なのでしょう?」
「ご婚約者様からの初めてのお誘いなのですから、喜んでお伺いいたしますとお伝えすればいいのではないでしょうか。ああ、無礼なのはお互い様として、お返事は口頭でもよろしいのではないかと」
「わかりました。では、使者様にそのようにお伝えいただけますか?」
「かしこまりました」
優秀な執事は、すぐさま王宮からの使者様に私の返事を伝えてくださいました。
それから、新しいドレスを作るために仕立て屋に連絡を。初めての登城のために作られたのは、私の目の色に似た淡い水色のドレスです。通気性の良い素材で、首元がきっちり閉まっていてもあまり暑く感じません。ふんわり広がる裾には蝉の羽のような透明感のある素材が重ねられ、歩くたびにきらきら光って。なんて素敵なのかしら!これだけで気分がとても明るくなりました。
そして、初めてお会いしたルートヴィッヒ殿下は、とても美しい人でした。
真冬の山に積もる新雪を思わせる白銀の御髪に、魔力を湛えた赤い瞳。王妃殿下によく似た、キリリとしたお顔立ち……。
なんて綺麗な人がこの世にはいるのだろう!
脈が速い。駆け足する心臓の鼓動で、息が止まりそう。これが、世に言う一目惚れというものなのでしょうか。
ああ、でも、この美しい人の隣に自分はふさわしくない。
やけどの痕がなかったとしても十人並みの自分の容姿が恥ずかしくて、私をじっと見つめる殿下に「あまり、見ないでくださいませ」とお願いする。
「すまない、リーゼロッテ。その、つまり、そう!見とれていたんだ、君に」
リーゼロッテ……あなたも私をそう呼ぶの?
蔑称であるがゆえに、面と向かって言われたのは初めてでした。私は気が遠くなりそうなのをこらえて、泣きながらその場を立ち去りました。それが、精いっぱいだったのです。
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