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#7 side E

「夢は寝てから見るものでしてよ?」


 ルーイ殿下の告白に、私は思わずそのような暴言を吐いてしまった。だって、ルーイ殿下ったら、言うに事欠いてご自分の前世がアミル殿下だなんて仰るんですもの。それが本当のことでしたら、今、目の前にいらっしゃるアミル殿下は何者だというのか。


 初めてお会いした日、アミル殿下は確かに「この先の未来を知っている」と仰いました。その後の展開はアミル殿下の仰ったとおり。ルーイ殿下は高等学院に入学するなりゾフィー様にぞっこんになられて、私は放置。少し違ったのは、ゾフィー様が殿下に近付いたのではなく、殿下がゾフィー様に声をかけられたことくらいでしょう。


「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、どうやったらそんな斜め上の勘違いができるんだ……」


 アミル殿下も呆れてらっしゃるご様子。「めんどくせぇ」と頭を掻きながら、ルーイ殿下を問い詰めます。


「おい、ルートヴィッヒ。お前どこまで覚えてるんだ」

「どこまで、って……前世の私は兄上で、リジーとは薔薇の迷路で出会ったんです。ルートヴィッヒがリジーを傷つけるたびに私が慰めて。いつの間にか、リジーのことを愛しく思うようになっていました。でも、リジーはルートヴィッヒの婚約者だからと告白せずにいる間に、ルートヴィッヒはゾフィーと恋仲になり、リジーを疎ましく思って、舞踏会の日に、その……」


「首を刎ねて殺した」


 尻すぼみになったルーイ殿下の言葉尻を捕まえて、アミル殿下ははっきりとそう仰いました。以前にも聞いていたのでショックは大きくありませんけれど、自分が愛する人に殺された過去(未来?)というのは、嬉しいものではございません。つくづく、自分に記憶がなくて良かったと思いますわ。


「あのな、ルートヴィッヒ。どうしてお前が前世は俺だったなんて思ったかは知らんが、お前は時間を遡る前もルートヴィッヒだったぞ?」


 そうなのです。アミル殿下のお話を信じるなら、ルーイ殿下は私を切りつけた瞬間魔力を暴走させ、それを防ごうとしたアミル殿下の魔術によって時間を遡って私たちが十歳の時間軸に戻っていらっしゃいました。時間を遡っただけならば、当然生まれ変わるなどということにはなりません。なにより、ルーイ殿下の荒唐無稽なお話より、よほど筋が通っておりましたので、私としてはアミル殿下のお話を採用させていただきたい。


「そもそもお前は、リジーに一目惚れしていたにも関わらず子供っぽい意地悪を繰り返して嫌われてたんだ。だが、親父たちは婚約を解消させるつもりが全くない。だったら、間に誰かが入るしかないだろう」

「え……?」

「なのにお前ときたら、俺とリジーが良い仲だと誤解して、挙句魔女につけ込まれる始末だ。舞踏会でいきなり婚約破棄だと言い出したときは本気で焦ったぞ」

「え?え?」

「そのくせ、心の底ではリジーを想っていたせいで切りつけた瞬間かけられてた魔術に反発して魔力を暴走させやがって。俺が時間を巻き戻せなかったら国ごと焼け野原だ」

「まっ……え、じゃあ、私がリジーを好きなのは兄上のせいじゃないってこと?」


 そもそも、前提条件が間違っているのだと気付かされて、ルーイ殿下は泣きそうなお顔で私を見ました。私も、アミル殿下も、頷く以外なにができたでしょうか。泣きそうどころか、すでに半泣きのルーイ殿下の手を握り、私は彼の目を見つめます。


「私、この傷のおかげでルーイ殿下と婚約できましたの。そのことを後悔なんてしておりませんし、殿下が初めてくださったプレゼントだと思えば消そうだなんて考えもいたしません。私のことを大事に思ってくださっているのも伝わっていますわ。これからは、花に託すのではなく、私自身の言葉であなたに愛を伝えてもよろしいのね?」


 女性から愛を告げることははしたないとされる世の中です。ルーイ殿下は今まで私に「好き」とも「愛してる」とも仰ったことがございませんでしたから、私はいつも、薔薇の花に自分の気持ちを託すしかありませんでした。白い薔薇の花ことばは「私はあなたにふさわしい」。一本ならば「一目惚れ」、三本なら「愛しています」。お馬鹿さんな殿下は、意味があるだなんて考えもしなかったのでしょうから、私は好きなだけ薔薇を送ることができました。ご存知だったのはアミル殿下だけ。もしかしたら王妃殿下は気付いていらっしゃったかもしれませんが、それを口にされるほど野暮な方ではございません。


「まったく、異母弟がこんなに馬鹿だとは思わなかったぞ。苦労かけるが、うまく操縦してくれ」


 一気に老け込んだ気分だとぼやくアミル殿下に、私は笑った。だって、最初からそのつもりだったんですもの。この、お馬鹿で天然な王子様の正体に気付いた時から、私はこの人をうまく操縦して良い政治を行えるように学んできたのだから。

 だから、今さら怖気づくこともない。自信を持って、こう答えるだけ。


「ええ、確かに承りました」


お読みいただきありがとうございます。

エリーザベト嬢が実は王子様枠だったというオチ。王子(ヒロイン笑)があまりにも子供なのでこうなりました。

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