幕間
アミル視点(初!)
魔力で作った氷の浮かぶグラスに、琥珀色の液体が注がれる。母が生まれた遠い異国の酒は、アミルにとって慣れ親しんだ味だ。
「で、どーすんだよ。あれ」
呆れた声に、王は肩をすくめた。どうしようもないという意味なのか、どうにもする気がないという意味なのか。測りかねて、アミルは眉を寄せた。
「いっそ、お前が継ぐか?」
投げ出すような問いかけに、アミルは目を瞠る。決して無責任な男ではない父にこう言わせるほど、ルートヴィッヒの現状は酷いというのか。
「授業も社交も放り出して、アイルホルン嬢と魔術の研究三昧。エリーザベト嬢が牽制しておるようだが、アイルホルン嬢へ嫌がらせをしている輩もいるのに気付きもしない。それどころか、最近はエリーザベト嬢を遠ざけてふたりでいちゃついてるらしい」
「それはまた」
聞きしに勝る、というやつだ。エリーザベトが学院へ戻りたくないとぼやくのも仕方がない。
「だから、聞いておるんだ。ルートヴィッヒの阿呆がこれ以上問題を起こす前に廃嫡するのが良いのではと、最近では王妃すら言っておる。なにより、シャルロッテ家とエリーザベト嬢の恩恵に預かってきた諸外国の反発を抑えるのが大変なんだ。どうだ?エリーザベト嬢と婚約して、ついでに王位を継ぐ気はないか?」
「王位がついでかよ」
疲れ果てた様子の国王は、手酌で注いだ酒をぐっと呷る。身も蓋もない言い分に、アミルは思わず笑ってしまう。エリーザベト・シャルロッテは、国内の貴族の評価こそ低いが、一歩国を出ればその業績は華々しい。ルートヴィッヒとの婚約こそ偶然の産物だったが、彼女は王子の婚約者という名の外交官として手腕を発揮している。特に、外国の王侯貴族の令嬢たちの関心を買っているのは、エリーザベトのドレスだ。首元まできっちりボタンを閉め、長袖や長手袋をしているだけのように見えるが、実はそのドレスが相当凝ったものだということに気付ける男は少ない。地方の特産品である草木染、繊細な手編みのレースを使った伝統的な形のドレスはもちろん、左右で長さの違う手袋やコルセットを思わせる幅広のベルトを使った乗馬用のドレスなどは、エリーザベトが独自に生み出した流行だ。各地の特産品にも詳しく、男たちの会話に混ざることができるほど知識の幅が広く外国語にも堪能。これらはすべて、ルートヴィッヒにふさわしくあろうと彼女が自分を磨き続けてきた結果である。
「んー。とりあえず親父、俺がルートヴィッヒを殴っても単なる兄弟喧嘩だと思っといてもらえる?そんで、あいつが反省しなかったらその時はリジーのことを俺が引き受けるよ」
恋愛感情はないが、かわいい妹分をみすみす不幸にする気もない。先日話した様子では、エリーザベトの方も限界が近そうだ。早めに対処した方がいいだろうと、アミルは国王の耳に計画を囁いた。
お読みいただきありがとうございます。
なんか、悪だくみしてますね…。アミル殿下が褐色肌なのは、このシーンが褐色肌の方が色悪っぽくなるのでは?とかわけわかんないこと考えたからだったりします( ´艸`)