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プロローグ

「エリーザベト・シャルロッテ」


 王宮の広間に、王太子の朗々とした声が響き渡る。名指しされた令嬢は、悲し気な瞳で『彼ら』を見ていた。俺は会場の隅で、ワインを片手に様子を見ている。

 王家主催の舞踏会。本来なら婚約者である王太子、ルートヴィッヒにエスコートされているはずの彼女はひとりだ。

 エスコートもしなかったくせにいきなりリーゼロッテを呼びつけた王太子に、何事かとざわめく貴族連中と、王と王妃。俺も、異母弟がなにを始める気なのか分からず静観するしかない。淑女の礼を取った彼女に、王太子は表情を歪め言葉を投げつける。


「王家を謀った罪は重い。君との婚約は解消、シャルロッテ家には貴族籍を抜けてもらう。そして、エリーザベト、君は――死刑だ」


 その言葉を待っていたかのように、主席騎士であるラインハルト伯爵がエリーザベトを取り押さえた。

 緩く波打つ黒い髪、アクアマリンの瞳の地味な女。王家の都合で王太子の婚約者にされ、王太子の都合で切り捨てられる、可哀想なリーゼロッテ。


「死刑だなんて、そんな」


 ふと、王太子の傍らから、栗色の髪の少女が顔をのぞかせた。ピンクがかった瞳の、とびぬけて愛らしいゾフィーは、王太子が見つけた真実の恋の相手だそうだ。ゾフィーはレースの手袋に包まれた手を口元に当て、ちらりとリーゼロッテに視線をやる。一瞬、その表情が優越感に歪んだ。


「かわいそう」

「同情の余地はない」


 ゾフィーの言葉を受けて、ラインハルトがリーゼロッテの前髪を掴み上げた。普段、黒い薄布で隠しているリーゼロッテの顔の右半分。幼いころに負ったやけどの痕があるはずのそこには、まるで鏡に映したように左側をそっくりトレースしたつるりと白い顔があった。「バカな」「傷がない?」「一体どうして……」さざめく貴族たち。使われた魔法があまりに高度で、感じ取れた者がいなかったのだろう。おそらく犯人はゾフィー。代々宮廷魔術師を多く輩出する家の娘であるゾフィーは、王族と同じくらい魔力が強い。広範囲の魔法もお手の物だったはずだ。彼らは集団で幻覚を見せられていることに気付かないまま、口々にリーゼロッテを責め立てた。


「ルートヴィッヒ殿下」


 押さえつけられたままのリーゼロッテは一度きつく目を閉じ、やけど痕が引き攣れるせいで舌足らずになる発音で王太子を呼んだ。王太子は侮蔑の眼でリーゼロッテを睨み――次の瞬間、抜刀した彼はリーゼロッテの首を切りつけた。



 そして、目の前を白い閃光が覆う。誰かが魔力を暴走させたのだと気づいた時には、俺の体は霧散していた。

お読みいただきありがとうございます。

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