ボルちゃんのつぶやき
思えば変な奴を同行させたものだ。世界樹のアシアティカ様が代替わりをしたと聞いて、私は部下を連れた初めての任務は完全に失敗したと思っていた・・・しかし、アシアティカ様から彼奴を連れて行ってよいと言われたとき、先ほどまでの絶望から歓喜へと私の感情は変化したのだ。そう、我が名はミア・ボルドウィン。アプフェル王国を支える藩屏の一つ、ボルドウィン家の次女だ。わが父、ヴァルターはすでに軍務卿の任を我が長兄に譲り引退された。今は我が長兄、バナン・ボルドウィンが王国三軍の長の任、すなわち軍務卿をつかさどっている。
私は末子である。先ほど述べた長男と長女であるミラは、私にとっては、年が離れていて兄弟姉妹という感じではなく若い叔父や叔母のような感覚だ。私にとっての兄弟とは五つ年上のブラッツであろう。わが兄ブラッツは私の憧れの存在である。容姿が姉のように息をのむほどの美しさを持っていれば、そのようなことにはならなかった・・・私は二人の兄に似てしまった・・・私は姉のようになるのを早々にあきらめ、一番近い兄のように、王国の剣として、槍として、弓として、盾として、エルフの里を守るということを誇りとして幼少より日々鍛錬にいそしんできた。それは成人して軍隊に入ってからも同じだった。先に軍に入隊した兄は、入隊前からすでにだれにも負けない剣技と槍技を極めていて、めきめきと頭角を現しすぐに第1軍の軍団長にまで上り詰めていった。私はというと、兄に鍛えてもらってはいたが剣も槍もそこそこ、多少の魔法が使えたので魔弓も扱ったがそれもそれなりだった。それでも一心不乱に努力した結果、兄より出世のスピードは劣るものの、ようやく近衛軍の筆頭剣士になることができたのだ。周りからはミア・ボルドウィンは男嫌いだとか剣が恋人とか、実は男だったとか、さんざんにからかわれてきたが、どこ吹く風と聞き流していた。私と同期で入隊した女性は気づけばだれもいなくなっていた・・・私が近衛軍に配属されたのは王家の女性たちを守るためである。男でも王家の女性を守ることはできるが、そこはそれ、間違いがあってはいけないということで近衛軍にも女性兵士を採用されているのだ。私はその女性枠というのが気に入らなかった。私の実力で筆頭剣士に昇格したのだと思いたい・・・しかし、口さがない連中の中には私が女だから筆頭剣士にしたんだろうというやつも・・・もちろん、私の前で直接言うことはない。そんなことを言えば私が素手でぼこぼこにするからだ。無論喧嘩の仕方も兄に教わった。
今回筆頭剣士になって初の対外任務である。いつもは王宮内警備を司っているが、近衛軍長からではなく王命として任を受けた。任務内容はグラニーラムゼースミスの里が謎の植物に襲われているとのことで、尖兵として近衛軍筆頭剣士の私に白羽の矢が立った。なぜ近衛軍に依頼がきたのだろう?軍団長は私に部下二名を付けた。一人は衛生兵としては優秀で名も通っているが実戦経験はない。もう一人はこの春に入隊したての新人だ。近衛軍も女性兵士の数を増やしたいらしい。私に部下を鍛える経験も同時にさせたいようだ。それはよいのだが、本来の目的は謎植物の調査、可能なら殲滅、ということであった。できない場合、軍の方に連絡が入るらしい・・・私は今回の任で名をあげて兄上に認めてもらいたい・・・ボルドウィン家の一員としてふさわしい活躍をしている、と。そのためにも、早いところグラニーラムゼースミスの里に向かいたいのだが・・・焦りは禁物だ。まずはこの村で信を得て、移動手段を確保するのだ。
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私は、崖向うの森で1泊したところに着いた。2日も経っていないのでスネークの立てた簡易ハウスとやらがそのまま残っている。それじゃ、ここを拠点にして狩りをすることにするか・・・スネークは卵も欲しがっていたから、雌のガルスガルスは見過ごして先に雄の方を仕留めるか・・・ガルスガルスの雌雄は簡単に判別できる。頭に赤い冠がついているのが雄だ。それに雄の方が好戦的だ。私は息を殺して自身の気配を断つ・・・自慢の長耳、それと気配を掴むためのこの感覚・・・肌を粟立てる・・・恐怖を感じやすくする感覚で獲物を察知するのだ。エルフ族はその感覚に優れているが、私は特にそれを磨いた。戦場では、それは生き残るのに必至の能力・・・そう兄に叩き込まれた。
私はこの気配察知を使い、前方、樹冠に一匹、大枝に一匹、根元で争っているのが二匹、を発見する。・・・上にいる順で強く、賢くなるので、樹冠にいるやつから魔弓で狙い・・・命中!獲物が落ちる前に枝上にいるやつにも弓で・・・命中!こいつはあっさり落ちた!それに気づいた二匹、おろおろしている・・・そのうち一羽を魔弓で落し・・・魔矢に気づいた最後の一匹がこちらに向かってきたが、剣で一閃!私は樹冠の一匹を魔矢で落すと四匹全部回収した。頭を切って血抜きだな・・・スネークのやつ、妙なことをしていたな・・・頭は土に埋めていたか。私もそれに倣ってみるか。あらかた血抜きが終わったら、簡易ハウス内でガルスガルスをまとめて吊るしておく。血抜きを完全にするためだ。入り口をふさげば血の匂いは外には漏れないだろう。さて、村人コンビは何羽狩ることができるかな?この森だと獲物は豊富だからまず狩れることは間違いないが狩りつくすのはまずい・・・別の獲物も狩っておかないと、ガルスガルスだけで村人全員に肉を振舞うのは無理があるな・・・おっと!前方に水音が聞こえる!そういうところには大型の獣が水を飲みにやって来るのだ。さて・・・私は再び気配を消して・・・大型動物の息遣い・・・昨日のボアとは違う!マウンテンディアか・・・あれは水を飲む瞬間、前足を広げて頭をかがめる・・・その瞬間に頭を狙えば・・・魔弓を構えて・・・今ッ!魔矢はマウンテンディアの眉間に命中!苦しめないように頸動脈を素早く切る!川の流れに従って切った血が流れていく・・・お?岩の上にいるのはスネークと話していたゴブリンではないか!・・・ゴブジ、とかいう名前だったか?私は額金を通じてスネークに話しかける。
“あーあー、スネーク、聞こえるか?”
やや間があってスネークから返事が来た。
”こちらスネーク、こちらスネーク!感度良好!どーぞ!“
“今、二日前に会ったゴブリンが近くにいるが、お前話せるか?話せるんなら連絡を取ってみてくれ!どーぞ?”
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“だいじょーV!ゴブジがそちらへあいさつにいく。脅かさないでくれとのことだ、どーぞ!”
岩場から降りたゴブリン、私の前に来て両手を握って一礼。これがゴブリンのあいさつなのだろうか?私も真似をする!
“あーあースネークよ。先ほど私はマウンテンディアを狩った。今血抜きをしている最中だが、このゴブリンに見張ってて欲しいのだ。無論報酬は払うぞ!”
・・・
“いただけるなら、内臓と、角、蹄が欲しいそうだ。どーぞー!”
“毛皮はいらないのか?こちらは肉だけでいいのだが?”
”毛皮をいただけるとは望外、だそうだ。どーぞー!“
“よし!契約成立だな!それじゃあ、半日、ここで待っていてくれるよう伝えてくれ!”
“OK!ところでガルスガルスは狩れたの?どーぞー!”
“今、四羽狩って血抜きの最中だ!雌にはまだあってないので卵は先だな”
“了解。それじゃ狩りを楽しんでくれ。オーバー!”
私はゴブリンをあとにして引き続きガルスガルスを狩ることにする。
本日は一話のみの投稿です。
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