王里出頭要請? だが、断る!
ラス前のお話
あっけにとられていたボルちゃんの野郎部下たち。おまぬけな顔を見ながら、我は優雅に朝食です。モガモガモガ、サンドウィッチは白いブロートもいいですが、こんがりトーストもなかなかのものですぜ! バターがあればなお良しですな。食べてしまったので食後のコーヒーターイム! ドリップは完全に終了してますので、サーバーから直接コーヒーカップに注ぎまして…… コーヒーカップを口元まで運びまして…… まずは香りを楽しみます! 前世はインスタント派だったのだが、それは朝の時間が限られているからだ!ゆっくりできるんなら、こうやって豆から挽いて焙煎して香りごと楽しむ! 朝から贅沢なひと時……ん? なんかみんな我を見ているな? ははーーーん、さてはコーヒー、飲んでみたくなったか?
「スネーク君は面白そうなものを飲んでいますね。私にも一杯、貰えるかな? 」
どーぞどーぞ! 我はサーバーからカップに注ごうとしたが、中身が入っておりますな。それならば、我、おえっとコーヒーカップを吐き出します! やっぱりコーヒーはコーヒーカップで飲んだ方がうまいっしょ! …… ん? また、おかしな顔をしていますな? ボルちゃんとハンナちゃんはもう慣れたのか無表情ですな。
「スネーク君はもしかして我々の持っているポーチみたいなことができるのかな? 」
エルフのポーチか。いろいろ入って便利よね、あれ。
「シュッツ様。御覧の通り、モノだけでなく魔法も仕舞えて取り出せるのは先ほどからご覧になっている通りですよ? 」
「ああ、あの”魔法の手”のことだね? 土魔法が得意と言っていたが、そんなこともできるんだ? 」
各種魔法ができるってボルちゃん話さなかったっけ? あ、シユッツ氏は飲み物に砂糖を入れた方がいいんだっけね? ハンナちゃん、お願い。コーヒーカップにコーヒー注いでハンナちゃんに渡しますと、ハンナちゃんが砂糖を入れてシュッツ氏にお渡しします。
「ふーむ。これは… 南方の飲み物だったか… あの時は口がざらざらしたのだけど、これは飲み方が洗練されてるね? 」
すげー、さすがに亀の甲より年の功だな! コーヒー飲んだことあるんだ。ざらざらだったのは挽いた豆に直接お湯を入れたからじゃねーかな?
「へー、そうなんだ……」
なにやら小指を立ててコーヒーカップを持ってます。イケオジめ! 目ェつぶってカップを鼻先で揺らして香りを楽しんでやがる!! そして口先でフーフーしてやっと啜りました。ちびりちびりと飲んでいます。何だこの時間? 我らはいったい何を見させられているのか?
「いや、実にすばらしい… 先ほどまでの空腹も渇きも、昨夜からの疲労もすべて満たされ、癒されました」
あー、さよか。シュッツ氏、コーヒー全部飲んでから我の方を向いた。
「さて、スネーク君と直接話ができることが分かったので、話しましょうか。私がここに来た本当の目的」
あちゃーーーー、やっぱりそうか。我が目的なんだな! さては我を取って食らうつもりだな!
「いやいや、そんなことはしないよ! 」
ウソだ!エマさんなんか最初我を昼飯の肉としか見てなかったぞ!
「あのときは~、お腹減ってて~、しばらくオニク食べてなかったし~」
ボルちゃんがエマさんの方を見ると、エマさんは黙った。女性部下の方が野郎部下より統率が効いてるね。野郎の方が自由すぎるということか。
「王里から捕縛命令でも出ましたか? 」
なぬ? 我を捕縛?
「いやいや、そんな物騒な命令など出てないよ。 ただ、私にも報告義務があるんだ」
ギルドのお仕事とは別に、王里とも繋がってるんだ。やっぱりエルフの人族に対するスパイってところじゃねーか。
「うん、スネーク君は察しがいいね」
あ、続きがあるんだ? どこまで王里に話したのかな? あ、ちょっと待って。この話、他の人に聞かれたくないなぁ…… 我、ボルちゃんをちらと見ます。
「わかった。スネークよ。こいつらと朝食後の訓練だ。ハート殿もこいつらを鍛えてください! バウアー、お前も一緒だ。ヴィンはここで待機。レイハー殿は……」
「私は通常勤務に戻ります」
出るものは出て行って。
「王里に報告したのは、ミア君がオリザの勧めで孤光のマルス・プミラ様を探したが、それは叶わず、代わりに君という従魔を連れて帰ってきた、というところからだ」
オリザって誰だっけ?
「オリザは伝説の賢者オリザ・パディフィールドのことですよ? 」
ああ、そうそう、伝説の賢者のことね。伝説の賢者というからには、死んでるんかと思いきや、シュッツ氏の知り合いなんだ。
「彼女は私の友人で魔法の師匠でもある。彼女にも孤光が亡くなったことは伝えたよ。とても残念がっていた」
あ、アシアティカ様と知り合いだったんか。火結晶をあげたのってそいつかな?
「孤光様の名前はアシアティカ、というのか…… それは私には教えてくれなかったな…… あとでオリザに聞けばわかるか…… 確かに火結晶をあげたという話は聞いたことがあるな…… すると、この者が言うことには真実味があるな……」
何やらぶつぶつとつ呟いていますな! 我、いらんこと言ったかな? それで他には何を報告したんだ?
「従魔を連れたミア君が、無事グラニーラムゼースミスの里に繁茂する魔植を討伐した。その際、グラニーラムゼースミス様が覚醒したというところまでかな? 念のため確認に来たんだよ」
はーさよでしたか。グラニーちゃんなら、ここからもう少し中に入れば、精霊状態で会うことができるぞ?
「え? ここからグラニーラムゼースミスの里までまだ距離があるよね? 」
あれ? あれは内緒にしておかなきゃならんのだったかな? まあすぐばれるしいいんじゃね? 自分で確認してくらはい!
「まあそれは里に入ればわかることだね。それで、ミア君がメルゼブルグからフランクフォートに来る道中でツァオバーべスぺのアルコホール漬けや姿見を献上しただろう? そのことが王宮で話題になってね。あれ、討伐したのはミア君達でも、その外側の保存容器を作ったのスネーク君でしょう? 姿見もさ。あれをみて王家が君に興味を持ったらしい」
興味?
「ミア君に君を連れて王里に来るように要請がだされたんだ。君がミア君の従魔なら、当然ミア君についていくだろう? 」
ハハーン、なるほどね…… よくわかった。しかしまあ、契約とやらは今日で終わりジャ! 我は本日前に住んでた場所に帰るんジャ!
「フー、君たちの関係を見ていると、ただの従魔契約とは思っていなかったけど…… やっぱり強制力はついてなさそうだね? 」
ただの約束だからな。ボルちゃんが涙流して鼻水垂れて頼んだことだ、グラニーラムゼースミスの里を救ってくれ、と。我、孤光の世界樹に世話になったから、世界樹助けと思ってその頼みを受けることにしたんジャ。別にエルフのために何かしたわけではない。
「ああ、そうだったんですね。なるほど隊長が話したがらないわけが分かりました。隊長はおそらく孤光の世界樹と会われたのですね。それで、孤光の……アシアティカ様と言いましたか? その方から、スネークちゃんを借り受けた。うん、これで謎は解けた! 」
「すると、スネーク君の住んでいたところには、光のマルス・プミラがおられる、ということか? 」
「そうすれば、スネークちゃんが光魔法を使える理由がわかります。スネークちゃんはリヒト・アプフェルを食べたのでしょう! 」
ああ、光る実のことね。確かに食べたな(だけど、光結晶も飲み込んでるんだよな……)。だけど、今は実をつけるマルス・プミラはいないぞ? 亡くなられてしまったからな。
「それは以前にミア君から聞いたね。光魔法が使えるということは、ヴィンデルバンド君が言うようにリヒト・アプフェルを食べたということで間違いない? 」
また尋問のようですな…… 食ったは食ったが、あげるというからもらって食ったのだぞ! やましいことなどないわ!
「土魔法や風魔法、水魔法が使えたのはどうしてですか? 」
(風魔法はボルちゃんの持ってた風結晶を食ったからだが、それは内緒)
土魔法は最初っから使えたが、あとはいつの間にか使えるようになってた。
「他の魔法は属性魔法を合成してできるそうですよ、シュッツ様」
「うん、それはオリザにも聞いたことがある…… 彼女もまた合成魔法の使い手だったからね」
ああ、そうでしょうそうでしょう。伝説の賢者なら、緑魔法を属性魔法から合成して作ったに違いない。
「緑魔法、それと光魔法の使い手になった彼女は、エルフ族のためにその魔法を駆使したんだが……思うところがあったのだろう、彼女はエルフの里から出奔してしまったよ。私にだけは連絡が取れるようにと、例の額金と似たものを置いていった」
たぶんこき使われたんだろうな! そりゃそうだ! 使ってわかる、便利な魔法だもんな! それが嫌になって逃げたんだろう。我だってそうするわ!
「私もそう思うね。だから、スネーク君には早々にここを出た方がいい。今ならミア君にも迷惑をかけないはずだ」
「そんな、急です! せめて皆にお別れだけでもさせてあげてください! 」
そんな時間はないみたいだな。よし、我はすぐにここを出る! もう用事もないしな! ハンナちゃんよ、ここまでの旅、楽しかったぞ! あとは魔法の蛇たちと楽しんでくれ! いつかどこかで会うときもあるだろう! それまで元気でいてくれよ!
「ずねぇぐぢゃん!」
ハンナちゃんよ、最後の置き土産だ! 我、体内の青魔法のかかった水晶岩から、そのままスネークンの形を削り出し、青魔法を注入! おぇっと!
”これは、青スネークン! 通称青大将! 覚醒、解毒(弱)、麻痺(弱)の状態異常なら1日100回使える! 祝福(弱)は……1ヶ月に1度、使えるそうだ! (だって魔法の声の人がそういってるもん!) ヒバカリカリンによろしくな! 今度会う時までに喋れるようにしときなさいよ! ”
「ずねぇぐぢゃ~~ん! いがないで~~~!!」
我、屋上へ続く階段をジャンプして駆け上る! 外へ出るドアがあるがマギハンドで開けまして! ”空気階段”で空を駆ける! 帰りの乗り物、うんこ撒き散らし鳥のところまでゴー! 途中、グラニーラムゼースミスの樹が見えましたので、隠蔽のため迷い惑わしの樹を周囲に張り巡らせるように、体内に残る緑魔法を使って、”移植”
おぇえええぇえぇぇぇっぇぇェェぇぇぇぇえぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇおおぉぉぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぉぉぉぉぉぉぉぉぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぉぉぉぇえぇえええぇえええええええぇっぇっぇっぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
これで外のエルフが里内に入っても、こんなにマルス・プミラがたくさん生えているとは…… 気づくかな? ぱっと見だと気づかれないだろう。
「神の御子! そんなに急がれて、どうしました? 」
グラニーちゃんも空を駆けている! そんなことできるんだな。今度、アシアティカ様にやってもらおう。
”外のエルフがやってきて、我はもうここを出た方がいいと言われた。まあ今日中に出るつもりだったしな。グラニーちゃん、これでサヨナラだ!”
「また会いに来ていただけますよね? 」
モチのロンでさぁ! それと、うんこ撒き散らし鳥がたまに来るかもしれないから、来たら赤い実をあげてやって。たくさんはいらない、一個でいいそうだ! うんこ撒き散らすから、緑魔法が残ってたら、それにかけてあげるとエルフにとって有用な植物がはえてくるかもしれない!
「わかりました! 」
グラニーラムゼースミスの里内に入った我ら。うんこ撒き散らし鳥! 飯はたんまり食ったか?
”くわーーーーーー、この糸解けーーーーーーーー! ”
言われなくても解いてやるわ! 我、技能【ほどく】を使い、銀の糸をうんこ鳥から外してやる。うんこ鳥、翼をバサバサ羽ばたかせ喜んでいる! その隙に、
”銀魔法Lv.2銀糸! 紐状になり首と翼に巻き付け! 翼の方は飛ぶのに邪魔にならないように翼の根元に!”
「くぇーーーーーーーーーー!」
うんこ鳥の叫び声を聞いたエルフの人たち。我、うんこ鳥の背中に乗り手綱を握ります! そら! 飛びやがれ! そして我の言う方へ向かえ! ばさっばさっ!
「聞きなさい、里の守り人たちよ! 神の御子はこの地での使命を終え、元居た場所へ戻られようとしています! どうか皆、感謝の念をもってお送りするように! 」
エルフのみんなが広場に出てきましたな! 里長は…… 寝てるか。 お、ヒカリ娘達がいますな! あばよ、お三人!
「また急だな! 」
「お世話になりましたわ! 」
「師匠、またいつかどこかで! ってあの額金つけてないね? 」
「あれがなくっても、こっちに言ってることはわかってるさ! あばよ!」
意外にヒーちゃんが我の事よくわかっていた。それじゃ、皆の衆! さらばジャ! そら、うんこ鳥! 南の空に飛んでけ! さらばグラニーラムゼースミス! 青い空が徐々に広がって、次第に赤茶けた地面が視界から狭くなっていった……
「たいちょ~、スネークさん、いっちゃいましたね~」
辺りは私の剣戟で倒れた部下たちだ。倒れなかったのはバウアー新兵だけだった。スネークのやつ、どれだけバウアーを鍛えたんだ?
「よかったんですか~、挨拶もしないで~? 」
「ん。やつがマルス・プミラとともにある限り、また会うことになるだろうさ」
私達は西へ黒く遠ざかる鳥をしばらく見送っていた……




