反撃
長らく間を開けてましたが、新年度からまたがんばります!
背におじさんを抱えて、ボーデン兵長は外壁の頂上から壁面にある階段を使って駆け下りる。その後ろには、介護室長エンゲルがついて走る。土魔法の大地疾走の出力を抑えてはいるものの、その速さについてこれるエンゲルにボーデンは賞嘆していた。
「エンゲル様、僕の”大地疾走”に付いてこれるなんて本当にすごい! 」
「これでも風魔法使いの端くれですからね・・・・・・ でも、ボーデンさんが全力出したら全然ついて行けませんよ? ・・・・・・ それにしても変ですね・・・・・・」
「どうかされましたか? 」
「魔植は風魔法を使っているらしいのですが、空気が全然動いてません・・・・・・ と、いうより戦闘の気配がしないのですが・・・・・・ 」
「気配察知ですか・・・・・・ 僕は苦手なんだけど・・・・・・ そう言われれば、戦っている様子がまるでないですね。もしや、全滅? 」
「いえ、人の気配はしてますよ? 」
*****
エンゲル介護室長とボーデン兵長が地上部へ戻ってきた。なるほど辺りは竹林が生い茂っている・・・ が、不思議と動く気配がない。まるでただの植物が生えているようである。
「この辺りには誰もいないようですね。それでは門から出ましょうか? 」
二人(と気絶してる人一人)は竹の生い茂っているその場を離れ、南側出口から降りたままになっていた可動橋を渡って里の外へ出た。そこには早朝にスネークが作った広場並びに建物が残っていて、そこに大勢のエルフが所在なさそうにしていたが、介護室長エンゲルを見つけ出し、歓声が上がった。
「エンゲルさん! ご無事でしたか! 」
「よかったー! 」
「里長はどうされたのです?! 」
「援軍の隊長さんは一緒じゃないの? 」
「世界樹さまはどうなりましたか? 」
皆、一度に声をかけるから何を言っているのかエンゲルには対処できない。そんな群衆の中から一人、老婆が歩いてきた。エンゲルはその老婆に声をかける。
「お母さん、ただいま戻りました。里長は、ちょっと気を失っているだけです。どこかで休ませてればそのうち気が付きますが……」
「ありがとうねぇ、うちのバカ息子には過ぎた嫁じゃて。そら、あっちの建物にいれてやるがいい」
「お母さん、あれは……? 」
「おお、エンゲルちゃんは知らなかったか? あれはボルドウィンさんの従魔の蛇ちゃんがこしらえた建物じゃて。あれの2階に寝るところがあったから、そこで寝かしとけばえぇ」
「話はリージーさんから少しは聞いてたけど、ほんとにすごいのね、師匠さんって」
「師匠さんとは蛇ちゃんのことかぇ? 」
「そうだよ、師匠は魔法の師匠なんだ! 」
「まぁまぁ、いろいろと話したいことはあるでしょうけど、ここは誰が仕切っているのかしら? お母さんがやってるんですか? うちの子はどうしたのかしらね? 」
「ハートさんは従魔と一緒に里の外を時計回りで回って西側砦から北側砦に行くと言ってましたが、出発してから連絡がありません。レイハー、アンナと連絡はまだ取れないか? 」
「クラインガルデンさん、ハートさんからはいまだ連絡がありません・・・・・・あのヘルムの魔道具はかなり優秀で何百Kmも離れていても通信が可能なのですが、それがないということは、やはり坑道の中は使えないと言うことですね」
「だが、連絡が無くなってからかれこれ30分近く経つのではないか? なにかあったのかもしれん。誰か使いをやった方がいいのではないか? 」
”・・・・・・ ・・・・・・”
「あ? クラインガルデンさん、少々お待ちを! 」
「どうした?」
「通信が聞こえそうなのですが・・・・・・」
”こちら、統合作戦本部連絡課! アンナ! 聞こえるか? ”
”・・・? ・・・・・・!”
”こちらの念は聞こえているが、そちらからの念が聞こえてこない! なの
で、こちらの状況をハートさんに伝えてくれ! 魔植、ボルドウィン殿の言う
マギ・バンブーが里の中に現れた。しかも、グラニーラムゼースミス様の所で
魔力を吸収しているそうだ。現在、ボルドウィ殿と・・・・・・衛生兵殿がたたかっ
ているそうだ。その状況は不明だ。さらに里内の地上部にてマギ・バンブーが
現れたので、里内のものは外に退避している! 早く連絡が付くところに出
て、ハートさんから指示を出してもらってくれ! こちらからは以上だ!”
「これでしばらく待てば、連絡は取れると思われます。それで我らはどうしま
すか? 」
「そうだな、このまま待機、か?」
そのとき、このやりとりを見ていた援軍の兵二人が声をかけた。
「ねぇ、あなたたちはそれでいいの? 」
「里を襲っている魔植を倒さなきゃ、里には住めないんだぜ? 」
「そんなことは言われなくてもわかっとるわ! 」
「なら、上の方はうちの隊長に任せるとしても、せめて地上部だけは討伐した方がいいんじゃねー? 」
「そうそう、何のために私たちがわざわざやってきたと思ってるのよ? 」
「フランメクライゼル、トレーネ。言い方! 我が兵が・・・・・・言い過ぎました・・・・・・ お許しください」
「ああっ、リーちゃんが一人だけいい子ぶってる! 」
「とはいえ、よそのお偉いさんに、普通に口聞けるようになってんだなぁ! えらいぞ! リーちゃん! 」
「うるさい! ・・・・・・ それで、ですね? 今はマギ・バンブーも地上部は静かにしているので、今のうちに・・・・・・刈り取りした方がいい、のでは?、ないかと・・・・・・ 進言しましゅ・・・・・・ 」
グラニーラムゼースミスの里のものは、援軍の兵長殿が噛んだことは生暖かく放置した、かったのだが。
「わーお、やっぱりリーちゃん、ちゃんと噛む! 」
「あいかわらず、知らない人とはちゃんと話せないようで、安心したぜ! 」
真っ赤になってうるさい!と言っても、周りからはわー、かわいい!と囃したてられたのであった。
「だけど、嬢ちゃんの意見はもっともだぜ! さすがは姉さん所の兵隊だな! 」
「サスネェだ! 」
「そだ、サスネェ! 」
里の者の中で、東側砦からやってきたもの達が合流していたようだ。怪しげなワードに赤毛の援軍兵が首を傾げる。
「なんだ? そのサスネーってのはよ? 」
「うちの隊長のことかしらねぇ? 」
「そうだとしても、意味がわからんぞ? 」
「サスネェはさすが姉さん、の略だな! 」
「ねぇさんって・・・・・・ 何言ってやがる! うちの隊長よりおっさんの方がよっぽど年上じゃねーか! 」
「ホホホのホ! 何も知らないおバカさんはこれだから! この人達は隊長のすごさを目の当たりにして、敬愛の念も含めて、”ねぇさん”と呼んでいるのよ? おわかりヒーちゃん? 」
「いや全然わかんねぇ、なんだよその酒場の論理はよ? 隊長はすごいし、ここの里のやつらが隊長を認めたってのはわかるけどよ? それがなんで”ねぇさん”なんだよ? 」
「若いの、あんたももう少し機微ってやつを知ったらいい」
「あの人は、”ねぇさん”と呼ばれるにふさわしい」
「だからなんでだよ! 」
「ちょっと待って! 隊長が姉さんかどうかはさておき、今はこの状況はどうするかだよ! 隊長がいないところでは僕が隊長の代理なんだから! 」
「へいへい。それでどうすんだよ、リーちゃん隊長代理」
「オレはねぇさん代理の意見に賛成だな。あんなに里の中に魔植が生えてたら、おちおち安心して寝てられねぇ。戦えるものは全員で戦うべきだ! 」
東側砦から里に戻ってきたもの数名の戦意がやたらと高いのは、サスネェ効果とやらのせいなのだろうか、とボーデンは思った。
「わたしゃその意見に基本的には賛成だがねぇ・・・・・・」
「お母さん? 基本的には、ということはどういうことですか? 」
「怪我した人間は、蛇ちゃんの”なんとか”で傷は塞がっているものの、結構な血が流れちゃってるからねぇ・・・・・・ また急に魔植が暴れ出して怪我でもしたら、今度は傷は治せても動けなくなるかもしれないよ、ひっひっひ」
「なら、動けるものだけで魔植を刈り取る、というのはどうでしょうか? 幸い、今は魔植は活動していないようですし」
「そうですな、それでいきますか」
こうして、グラニーラムゼースミスの里の戦えるもの達と、ボルドウィン小隊ながらメンバーで地上部に生えたマギ・バンブーを刈り取ることになった。
今宵はこれにて。お読みいただきありがとうございます。




