介護室長も魔法のダブルユーザーだった
真夜中にこっそり投稿。
ボルドウィンが竹を刈り、ヴィンデルバンドが燕を見張りをしてしばらく経つ。
「隊長! お待たせしました! 」
ようやく部下のボーデン兵長がやってきた。
「他の者たちはどうした?」
ボルドウィンは一旦手を休め、ボーデンと向き合う。
「里長たちは外壁屋上に到着したよ。もうすぐ、ここに来ると思う。ほら、あそこに見えている。あと里の者たちをトレーネが呼びに行ったから、1時間ぐらいしたらたくさん人手が使えるはずだよ。それにしても、世界樹さまは大丈夫なの? 葉っぱがこの季節にこんなに落ちるなんて…… 」
「大丈夫、とは言えないな。だが、まだ生きている。それだけでよい。スネークが来たらすぐに元通り、いや、それよりもっと成長するさ。たしか、グラニーラムゼースミス様は、まだ精霊状態にはなれなかったはずだ。それが目の当たりにできるかもしれんぞ」
「へぇー、師匠ってそんなこともできるんだ! それは楽しみだね。で、今、僕はどうすればいいの? 隊長みたいにバンブーを切っていけばいい? 」
「そうだな…… 下手に土魔法を使ってグラニーラムゼースミス様の根を傷つけてもいけないし。この幹に取りついているマギ・バンブーを引っぺがしてくれないか? 」
「了解。剣でマギ・バンブーを切っていけばいいんだね! 」
「ああ。とは言っても、勢いよくやってはグラニーラムゼースミス様を傷つけるかもしれないから、慎重にな。バンブーを半分ほど切ったら、あとは少しずつ削っていってくれ」
こうして二人で世界樹に張り付いたマギ・バンブーの茎を一つ一つ剥がしていく。残る一人は上空で旋回している鳥の魔物を見張りつつ、毒液をマギ・バンブーの地表に出た地下茎に打ち込んでいく……
「それにしても…… 地道な作業だね…… 人手も足りないし…・・・ 」
「あ! フランメクライゼルさん達が! あれれ? 結局最初に上層に登ってきた人しかいないんですね……」
援軍としてやってきたのは、里長とその妻である介護室長、それに援軍の一人であるフランメクライゼルの3人だけだった。
「おい! これはどういうことだ! グラニーラムゼースミス様がどうしてこんなに葉を散らしているんだ! 説明しろ! 」
と真っ赤になって怒っている里長の後ろから、介護室長が手刀で李朝の首を叩いた。当たり所がよかったのか悪かったのか、里長は崩れ落ちてしまった。
「うちの人がうるさいと、作業の邪魔になるでしょうから。ボルドウィンさん達は好きにされててくださいね。ほほほほほ」
「お気遣い感謝いたします。介護室長殿に説明しておきますと、我々が傷を入れているのが、マギ・バンブーです。これはグラニーラムゼースミス様に取りついて魔力を吸っているようなので、一つ一つを引きはがしている最中なのです」
「世界樹さまはご無事なのかしら? 」
「葉は大半が抜け落ちたものの、まだ魔力が幹に残っているようです。マギ・バンブーを剥がして、それから魔力をスネークに注いでもらえば大丈夫でしょう」
「スネークというと、ボルドウィンさんが連れてきた従魔さんのことね? いま、どちらに? 」
「里の外周をぐるりと回ってマギ・バンブーの本体を探しております。どうも連絡のつくようなところにはいないようでして。ああ、マギバンブーはこの里には北側砦の方から侵入してきたようです。スネークが作った坑道から入ってきて、外壁を使って一気にグラニーラムゼースミス様のところにやってきたんでしょうね…… こちらの不手際でした、申し訳なく」
「でも、ボルドウィンさんの従魔さんだってうちの里の者が頼んだから地下道掘ったって聞きましたよ? 何でも自分のせいにするのはおよしなさいな。それより今は、グラニーラムゼースミス様を何とかするのが先でしょ? 」
「そうですね…… 現状、グラニーラムゼースミス様にマギ・バンブーが取り付いて、魔力を吸っているようですので、まずはそれらをグラニーラムゼースミス様から引きはがしているところです」
「マギ・バンブーとはそのように魔力を吸い取る植物の魔物なのでしょうか? 」
「いえ、定かではありませんが…… スネーク、従魔の話によると、植物にはそういった魔物がいるそうで、おそらくマギ・バンブーもその類なのではないかと推察していました」
「・・・・・・ そうですか…… それで、その、マギ・バンブーは吸い取った魔力をどうするのでしょうかね? 」
「それは、やはり自身の成長に使うのではないでしょうか? 」
「・・・・・・ だとすると、 ここまでマギ・バンブーが来ているのに、いつまでもこのままなのは変なのでは? 」
「・・・・・・ グラニーラムゼースミス様の魔力をあらかた吸い出したので、もう用はないと思っているのでは? 」
「ですが、まだグラニーラムゼースミス様はいきていらっしゃるでしょう? まだ葉は茂っていますよ? 」
「・・・・・・ マギ・バンブーがどのような意図を持っているかはわかりません。しかしこのままでよいことはありません。作業を続けさせていただきます」
「ああ、それとですね? ヴィンデルバンドさんが持っていた、蛇の人形、スネークンと言ったかしら? あれ、治癒魔法が使えるんですよね? あれを、グラニーラムゼースミス様に使ったら、マギ・バンブーを引きはがした時についた傷を治せないかしら?」
ボルドウィンは、なるほど、と言って、ポーチに入っていた治癒用スネークンを取り出し、マルス・プミラに押し当てた。すると、傷ついていたマルス・プミラの樹皮が見る間に塞がっていく。植物にも使えることにボルドウィンも感心していた。だが、傷ついた樹皮は治っても、散っていった葉は元通りにはならなかった。
「すごいわねー。それもスネークさんが作ったのでしょう? 」
「ご入用ならあとでスネークに作ってもらえるように頼んでおきます。いまは一刻も早く、この張り付いたバンブーを引きはがすことです! 」
「わかったわ! それじゃ、やりますか! 」
そう言って介護室長はマギ・バンブーに張り付いた茎を掴んで引きはがそうとする。しかし、細かい根がマルス・プミラに張り付いていて中々はがれそうにない。それを強引に掴み上げ、マギ・バンブーの茎とマルス・プミラの樹皮に隙間を作ることに成功する。
「よーし! これだけ空間が開いたら・・・・・・
気よ、気よ、我が祈りを聞き、願いを叶え給え。願いを叶えた暁には我が魔力を我が願い満たすだけ受け取り給え。気よ、気よ、我が刃となってわが想いのままに切りつけよ! 風刃! 風刃! 風刃! 風刃(エ
ア・カッター)!風刃! 風刃!風刃! 風刃!」
介護室長が掴んで開けたマギ・バンブーとマルス・プミラの空間に魔法でできた刃がマギ・バンブーの細い根を切っていき、太い茎がジワリとマルス・プミラからはがれていく。そして介護室長は一気に力を入れて茎をはぎ取っていった。
「あらあら、マルス・プミラ様に傷が入ってしまいましたね? 致し方ありません、
滴よ、滴よ、我が祈りを聞き、願いを叶え給え。願いを叶えた暁には我が魔力を我が願い満たすだけ受け取り給え。滴よ、我が手に触れるものを、癒し給え! 手当て(ライト・キュア)! 」
「おお。介護室長殿もダブルユーザーでしたか! さすがですね! 」
「ヴィンデルバンドさんに比べたら全然大したことはありませんけどね。魔力も全然多くないし。さあ、この調子でどんどんやっていきましょう! 」
「マリョクの方は大丈夫なのでしょうか? 治癒はスネークンを使った方がよいのでは? 」
「だけど、そのスネークンは回数制限があるのでしょう? 私が使えるのは軽い治癒だけなので、これくらいなら大丈夫ですよ。さあ、どんどんこの魔植を剥がしていきましょう! 」
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