援軍の兵長の実力
「だけど、このままではまずいですねぇ。どんどんマギ・バンブーのエリアが広がっていってますよ? 隊長達が来る頃にはマルス・プミラ様のところに到着してしまうかもしれません」
マギ・バンブーの狙いがマルス・プミラの魔力という仮説が当たっているなら、と、小声でつぶやく衛生兵。それを聞き逃さない里長だった。
「あの魔植の狙いは本当にマルス・プミラ様なのか! 」
「それ以外には、我々エルフ族の命ぐらいしか考えられませんが・・・・・・ まあ、我らの命はほんの行きがかりの駄賃といったところなのではないでしょうか? 」
「なぜそんなことがわかる! 」
「なぜ、といわれましても・・・・・・ 仮説にすぎないのですが・・・・・・そんな話をうちの隊長とそちらの守備隊の隊長で話してましたよ? それより、あれをどうにかすることを考えた方がいいんじゃないですか? 」
一度はヴィンデルバンド衛生兵に燃やされた笹の葉だったが、焼け焦げた葉はターンオーバー、すなわち新しい葉がすぐに生えるように、枯れて萎れて枝から落ちていった・・・・・・しばらくすると、新しい葉が、萎れて落ちた葉のついていた枝から生えてきている。さらに新しいバンブーが次々と発生している。このまま時間が過ぎていったら,夕方までには里の中をマギ・バンブーに占拠されてしまう。やはり、隊長かスネークちゃんが来ないと厳しい・・・・・・そうおもい、ヴィンデルバンドは額金通信で呼びかける。
”もしもし、隊長かスネークちゃん! ”
”隊長や師匠じゃないけど、どうしたの? ”
”あー,ボーデンさんですか! 今どちらに? ”
”今まで師匠の作った地下道を使って東西の砦の先にある畑の収穫をしてきたんだ。それが終わって南側砦にやっと帰ってきたところ。それで、なにかあったの? ”
”里の中にマギ・バンブーが侵入しました。隊長とスネークちゃんに連絡を取りましたが、隊長はこちらに来るのに時間がかかるそうです。スネークちゃんとは連絡が取れません。一仕事終えたばかりですが、皆さん、大至急こちらに来てください! ”
”あー、了解。それと師匠に連絡が取れないのは、僕らみたいに地下道にいるからじゃないかな? とにかく、すぐそちらに向かいます! ”
里長はヴィンデルバンドの独り言が聞こえていた。。
「おい小童! 援軍が来るのか? 」
「ええ。すぐ来てくれるそうですよ。南側の可動橋はいつでも出入りできるようにしておきましたので」
「勝手なことをするでないわ! 」
大声を張り上げる里長の近くに,何やら一陣の風が・・・・・・
「ごめん、ヴィンデルバンド君! 大変なことになってるみたいだね! 」
やってきたのは,ヴィンデルバンド衛生兵よりは大きいものの,やはりまだまだ子供のような背格好のエルフだ。
「あれ? ボーデンさんお一人ですか?」
「うん! 大至急って言ってたので! あとの人たちもすぐに来るよ! それで、マギバンブーは? 」
「待て待てーぃ! ワシを抜きに話をするな! 」
「誰? このおじさん? 緊急事態なんでしょ? 」
「ああ、この方はグラニーラムゼースミスの里の里長さんだそうです。こちらはリージー・ボーデン・・・・・・えっと、階級は・・・・・・」
「兵長だよ。おじさんがここの里長さんだね。それで、バンブーは? 」
「上をご覧ください! 壁面からどんどんバンブーが生えてきています! このままでは隊長やスネークちゃんが来たときにはマルス・プミラさまのところまで侵入されてしまいます! 」
「わかった! なら、僕らの役目は隊長達が来るまで少しでもおおくマギ・バンブーを刈っていくことだね! 」
「ですが、あんな高いところまでは私たちでは・・・・・・ あ、トレーネさんのロングテールなら大丈夫だと思いますが・・・・・・ あれはバンブーを刈ったりする武器ではないですしねぇ・・・・・・」
「とにかくあそこに行って刈ってくればいいんだね! 師匠からもらった装備の出番だ! ちょっといってくる!」
「えええ? あんなところまでどうやって? 」
「魔力は十分に蓄えたからね!」
そう言うと,ボーデン兵長は自分の履いているブーツを指さした。あれはたしか、土属性の魔力が使えるぶーつだったかしら? そうヴィンデルバンドはつぶやいた。
「それじゃ! いってくる! 隊長の空中闊歩にあやかって名付けたよ、大地疾走!」
言うが早いがボーデン兵長は里の内壁を駆け上がりマギ・バンブーへと到達するまでに呪言を唱えた。
「 土よ、土よ、我が祈りを聞き、願いを叶え給え。願いを叶えた暁には我が魔力を我が願い満たすだけ受け取り給え。土よ、その身を刃と成して、我が鉈となりて我が進む道を塞ぐ藪を刈り取り給え。汝の名は淵藪開拓! 」
ボーデン兵長は手にしていた鋼鉄の棒の先から鉈を生み出す。彼女が師匠と呼ぶ蛇からもらったこの棒は,彼女の魔力を込めることにより自在に刃物を変えることができるのだ。今回はそれが鉈だった。ボーデン兵長は自身の身長より長い棒を振り回し、一閃、マギ・バンブーの太い幹を刈り取った。
「あー、まだまだこの動きは慣れないねー」
つぶやきながら壁面を蹴って地面に向かうボーデン兵長。たった1本とはいえ、マギ・バンブーを里内で刈り取ったのは大きな功績なのだが,本人は全く納得いってない様子だった・・・・・・




