真の危機
グラニーラムゼースミスの里長は、朝起きてすぐにアプフェエル王国からの援軍が来たことを知らされた。最初は喜んだものの、援軍を率いているのが、2か月前にやってきてすぐに撤退していったミア・ボルドウィンということを聞いて苦い顔になった。よりにもよって、またあの小娘が来たのか、王里は何を考えている? 同じ過ちをくりかえすだけじゃろうが! しかも、今度はたったの6人? 前回より人数が減ってるではないか! 従魔がいる? そんな得体のしれない魔物を里の中にいれられるか! 里長は、しかし、食糧を持ってきてくれたことは評価してやる、と偉そうに鼻を鳴らす。もともと、最初にボルドウィンが率いた援軍には里の糧食を支えるだけの量がなく、しかもそれを里に供出せよ、という無茶振りに対し、いやな顔をせずに供出してくれたのだ。元来なら里をあげて援軍をバックアップしなければならなかったはずだが…… 里長並びに里の指導部は、ボルドウィンが女性であり、なおかつ軍歴も浅いことから、小娘だと侮っていた。現場で一緒に戦った自分の息子からは、個の武力としては自分と同程度だから決して侮ってはいけません、との進言を受けていた。だが、しょせんは若造、しかも女、部隊の統率が食料を教室したとたんに乱れた。
「かれらの糧食までいただく必要はなかったのではありませんか? 」
息子や息子の友達のハンスが抗議をしてくるが、あやつらではこの危機を乗り切ることはできん! と一喝した。それが証拠に1週間も経たぬうちに奴らは撤退していった。
「そら、食うもんがなけりゃ戦もやれんじゃろうて…… わが息子とはいえ、バカなことをしたもんだ」
里長の母親から嫌味を言われたが、そんなことはないと里長は思う。あの植物は川を越えられない、ならば籠城して夏を乗り切り秋を通して冬になるまで待つべきだ、と考えた。里を開拓して120年、通常なら100年でマルス・プミラが顕現する筈だが立地が良くないのか20年余計に経ってもまだその兆しがない。だが、今年こそは、と思う里長であった。小娘が失敗したのは王里の人選ミスだ、別の部隊を寄越すように連絡を入れろ、と通信部隊の小僧にせっつかせたが、果たしてどこまでやってくれたものやら? 長雨になり連絡が取りにくくて、などと通信部隊が言い訳をしている、そう里長は感じていた。実のところ、通信部隊は連絡した通りのことを報告していたのだが。自分の信じたいことを信じ信じたくないものを信じないようになったのはいつのころだったか。自分の行いにより、やってきた援軍を危機にさらし、撤退させたのだ。頭では否定しても、心の底では自分の決断でそうなったことに対する贖罪の意識が残っていた。ただ一言、謝罪をすれば済むのだが、それができず今朝も援軍の隊長のボルドウィンに顔を合わせられなかった……




