晴天乱流ボルドウィン
今回はジャン・レイハー君視点でお送りします。
僕は、無造作に投げられたボルドウィン隊長のリュックを両手でキャッチした。あれ? このリュックには水袋が入っていたはずだよね? なんだかイメージと違ってすごく軽いんだけど?
「勝手に中を開けるなよ! 乙女の秘密が入っているんだからな! 」
そんなことを宣ってニヤリと笑う隊長さん。あれのどの辺が乙女なのだろうか? 守備隊のハート隊長をすこし小さくして女性にしたらあんな感じになるな。そんなことを考えていたら
「それでは行ってくる! 空中闊歩! 」
え? どこへ? 上だった…… あっという間に空へと駆け昇っていった……
「みんな! 怪我はないか? 」
この中では一番年長のシュバンツさんが声をかける。皆さん無事のようだ。
「それにしてもあの人、とんでもねーな! 」
「飛んでるんですけどね! 」
「空中闊歩って言ってたか…… ありゃエア・ウォールを踏み台にして宙を駆けてるだけで、空を飛んでるわけじゃねーな! まさかあんな使い方があるなんて思いもよらなかった! 」
「いや、想い着いたとしても、あれだけの堅さの壁を次々と出していけるのがすごい! 相当に魔力を消費するはずなのに疲れる様子も見えない! 」
「魔力だけじゃねーぞ! もしも、アレが地面だとしてもだ! あんな速さで駆け抜けられると思うか? 里にいる誰にもできねーぞ! 」
「姉さんはやっぱりとんでもないお人だったんだな! 誰だ、早逃げって名前つけたのは! 」
「そんなことより、あれ見ろ! ドラゴンと互角にやり合ってるぞ! 」
「お前よく見えるな?青空に太陽のせいでよくわからん! 本当に互角にやり合ってるのか? 」
「ああ! 背中に背負ってた剣を抜いているようだ! だが胴体を斬ろうとしているようだがなかなか切り切れないようだ! だがあのドラゴンは姉さんをが自在に宙を舞うせいか、動きをとらえきれていない! やれるぞ姉さん! 」
「姉さん!がんばれ!」
NeSAN!NeSAN!NeSAN!NeSAN!NeSAN!NeSAN!NeSAN!NeSAN!
姉さんコールが沸き起こります。皆さん、上を見上げて拳を突き上げています。あ! 隊長さんがドラゴン(仮)の上をとった! 剣を振り下ろします! その数秒後! 上から強風が吹いた!
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
ダウンバーストというやつだ! ボルドウィン隊長がやったのだろうか? あまりに強い衝撃風のためあわや間道から落ちそうになった僕。まただ!
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
上からの突風が止んで見上げると…… 空気が歪んでいる?! ボルドウィン隊長とドラゴン(仮)の周りの空気が歪に、太陽が移ろって見える………
「晴天乱流・・・・・・」
僕はつぶやく。
「なんだ、坊や? その晴天乱流っていうのは? 」
「晴れた日に起こる突然の空気の乱れと言いますか…… 」
「もっとわかるように説明してくれ」
「普通、晴れた日には空気は地面付近で温まり、軽くなって上昇していきます。一方で、上空では高速で西から東に流れていく気流が存在します。この気流が何らかの原因で乱れて乱流となり渦となって地面を叩きつけることがあります」
「つまり、それが晴天乱流、だと?」
「晴天乱気流ともいいます。他の国の言葉を使えば、クリアー・エアー・タービュレンス」
「ははっ! ボルドウィンの姉さんにはぴったりの二つ名だな! 早逃げ、なんてのはふさわしくないわ! これからは晴天乱流ボルドウィンと呼んで差し上げろ! 皆もいいな! あれだけ戦えるお人にはふさわしい二つ名だ! 」
「そういや、ボルドウィンって他にも二つ名持ちがいなかったか? 」
「ああ、”青天霹靂”と”青嵐”だな。最初のは軍務卿で二番目が三軍のうちの一つのトップだ」
「姉さん隊長、兄弟がいるとか言ってなかったか? たぶんその二人なんじゃないか! 」
「ははっ! ”青”で統一されてて都合がいいじゃないか! 」
「おい! 喋ってる間に姉さんが降りてくるぞ! あのドラゴン、やっつけたようだ! 」
「さすが姉さん! 」
「サスネェ! 」
SASUNe!SASUNe!SASUNe!SASUNe!SASUNe!SASUNe!
僕らは両手を振って、ドラゴン(仮)に剣を刺して降りてきたボルドウィン隊長を迎えた。
本日はここまでにしておきます。
お読みいただきありがとうございました。




