フランクフォートの冒険者ギルドマスター
「そちらの二人は初めましてかな? 自己紹介をしておこう。ここフランクフォートの冒険者ギルドでギルドマスターをしているドラウセン・シュッツです。よろしくね。ミア君、こういう時はどちらから先に話してもらう方がいいのかね?」
「バウアーの方が年齢は上ですが、軍歴はヴィンデルバンドの方が長いのでヴィンデルバンドの方から自己紹介をしてもらいます。ヴィン、よろしく」
「はい、私はハンナ・ヴィンデルバンドといいます。軍属で衛生兵をやってました。よろしくお願いします」
「あたしはエマ・バウアーと申しますー。今年の4月から入隊しましたー。よろしくお願いしますー」
「それで、そちらの蛇君が、”協力者”だね。それでは、詳細を聞こうか。グラニーラムゼースミスに入った連絡だと、各種魔法が使えるとか? 」
「その前に、ギルドマスターからお借りした通信用額金、アレを使うことでこの魔物……自称・スネークとの会話することが可能になります。まだそちらにございませんか? 」
「あれは私も4つしか入手できてなくてね」
「それじゃ、あたしのをお使いくださいー!」
エマさんから額金を受け取ったギルドマスター、我に話しかける。
「さて、話は聞いていたと思うが、私がここのギルマスをしているシュッツです。さてと、自称・スネーク君。君のことを教えてくれるかい? 君は、何者? 」
”我はツチノコという生き物。名をスネークという! 名前がそれほど重要か?”
「名前は重要ですよ? どんな行動をするかはその名前によって知られることも多いのです。逆に言えば、どのような行動をするかでその名前を付けられるのです。 ”スネーク”という名は聞いたことがあります。確か、潜入者、内情を探る者、という意味があるのでしたかね? 気配察知や気配隠蔽が得意な暗殺者タイプ? サーペンテスの魔物には毒があるものが多いのですが、君も毒を持ってたりするのかな?」
”毒はあるが…… あまり使わないね。 それより、これ、我の尋問? ”
「いやいや、純粋に君のことが知りたくてね。私は、このミア・ボルドウィンの兄の知り合いでね。国軍とは別系統で、この子の面倒を見ているのだよ」
”ボルちゃん、妹だったんかい!”
「そう言えば、言ってなかったな。私は4人兄弟姉妹の末子だ。ギルドマスターは一番上の兄上のご友人だ」
そう言えば、風魔法のイタチちゃんが出てきたとき、兄上がどうこう言ってたな……
「その兄上は二番目の兄だ。私の剣と弓、そして風魔法を教えてくれた先輩でもある」
なるほどボルちゃんがこうなったのもその二番目の兄がいかんのやな! 兄より優れた妹など存在しねぇ!
「ミア君の家族の話はまあ置いておこう。私はミア君のお兄さんからミア君がグラニーラムゼースミスの里救助の王命を受けたと聞かされてね。なぜ近衛軍のミア君が、しかも全軍でなくその半分で、一地方里の救助に行かされたのか疑問に思っててね。里の情報を聞くと、20人でどうにかなるくらいならグラニーラムゼースミスだけでどうにかできると思っていたんだ。懸念した通り、それだけの加勢ではどうにもならず、一時フランクフォートまで退いたというわけさ」
「食料がなくては戦になりませんから。里から食料を調達もできませんでしたので」
「そこでグラニーラムゼースミスから一番近い街・フランクフォートにきて私のことを思い出してくれたというわけだな」
「いえ、存じてはいたのですが、王命をむやみに明かしてはならぬと軍団長に言われておりましたので……ですが、王命を遂行するにも具体策がなく、お知恵を借りにきたのです」
「それで、ミア君。伝説の賢者が言った”孤光”のマルス・プミラ。報告にはすでに枯れていた、と聞いたけど…… そして”孤光”を看取ったのが今日連れてきたスネーク君で間違いない? 」
「報告の通りです」
「どうしてそれがわかったの?」
「具体的に申しますと、伝説の賢者様の教えてくれた通りに迷い惑わしの森を抜け、孤立円錐峰の山頂に行きましたら、すでに枯れ果てた巨樹がありましたので。そこにいたのがスネークなのですが、マルス・プミラ様から遺言を残されたようで、亡骸は荼毘に付すようにと。私がやってきたのはちょうどその時でした。そして協力を仰ぎ、従魔ということにしてここまでやってまいりました」
「その話が真実である、という保証は……ないよね? 今のところはスネーク君の話しかない。穿った見方をすれば、邪悪な魔物が、孤光のマルス・プミラを亡き者にして、君を唆し、人の世に害悪をなそうと降りてきた。そういう見方もできなくはない」
”あったまいい! ポンコツボルちゃんとは大違いだな! ”
「そういう見方もできます。なぜなら私の話を裏付ける証拠はまったくありませんから。ですが、さきほどのシュッツ様の意見は、スネークとともに行動してみれば一笑されると思いますよ」
「スネーク君を信じているんだ。まあ、それならその話はそこまでだね。それじゃ、次の話。スネーク君を戦力に加えて、グラニーラムゼースミスを囲っているあの植物に勝てると思うかい? 」
「あの植物が、私たちが一時撤退したときのままであれば大丈夫です」
「そうだね。あの後こちらでは長雨が続いて奴ら不活発になったという話だからね」
奴ら? 複数いるのかしら?
「それでスネーク君は、各種魔法が使える、という話だけど? 」
”それはグラニーラムゼースミスの里を救った時に聞いてくれ。得意なのは土魔法だな! ボルちゃん、アレの話はしないのか? ”
「ああ、あれな。昨日ここのギルドにツァオバーべスぺという蜂の魔物を持ち込みましたが、話はノートンさんを交えてした方がよいかと」
ノックノックノック! ドアを叩く音が聞こえます。
「失礼します。飲み物をお持ちしました」
デイジーちゃんが入ってきてティーポットとカップを持ってきました。我らにお飲み物を入れてくれますな。
「ラヴェンデューラのハーブティーです。申し訳ありません。ギルドマスターが糖がないと飲めないそうなので、ポットの中に糖を入れてしまいました」
「ありがとう。あとオリヴィア君を呼んできてくれ」
「承知しました」
デイジーちゃんはカップにお茶を注ぎ終わりましたら出ていかれましたな。さて、ラヴェンデューラのハーブティー、絶対ラベンダーであってるはずや! 我の舌の名にかけて!
「ラヴェンデューラですか…… 懐かしいですね。エマさん。シュタイルハング村で奥さんによく飲ませてもらってました」
我は、村でラヴェンデューラのハーブティー飲んでない……
「シュタイルハング村…… 迷い惑わしの森に一番近い基本人族の村だったね」
「はい。そこの村長さん一家には大変よくしていただきました!」
「あのあたりだとエルフ族って珍しがられたんじゃないの? 」
「それはそうなのですが、でもそれは当たり前なのでは? 」
「そうか、珍しがられただけだったんだね。エルフ族というだけで毛嫌いする基本人族って割といるから、いやな思いをしたんじゃないかと思ってね。そっちの……バウアー君も同じ意見かな? 」
「シュタイルハング村はビンボーでしたからねー。スネークさんが来てからようやくオニク食べさせてもらえるようになりましたー!」
「こちらへの移動手段を手配してもらう間、村でいろいろ手伝いをしておりました」
「村を出てメルゼブルグからグラニーラムゼースミスの連絡を受け取ったんだよね? 1000㎞近くあると思うんだけど、額金通信が来てから5日で踏破したんだ!」
「村の村長に優秀な汗血馬を3頭、用意していただきましたので」
「どんなに優秀と言っても5日で1000㎞は進めないよ? しかもその間にツァオバーべスぺを討伐してきてるし」
「あの~、ツァオバーべスぺだけではないのですが……」
「他にも何か魔物を討伐してきたのかい?」
「はい! シルドラウスの大きくなった魔物を多数発見しました。その中でも超強大なものがいましたので」
「そうです。昨夜ギルドの依頼ボードを見ていたら、コッコイデアの討伐依頼書が張ってありました」
「そうですか…… その話はオリヴィア君が来てからにするか」
そう言って、ギルマスはカップを持つと口に運び、香りを楽しんだ後一口啜った……何やら所作がいちいち優雅ですな! このイケオジが!




