峠越え
蜂の巣を退治した後、魔物の気配がそれほど感じなくなったので速歩で移動することになった。多少の坂道なんとせず、汗血馬は今日もいく! 途中で蜂の分隊が5度襲ってきたのだがあっさり返り討ち。やっつけた兵隊蜂はハンナちゃんの勘定によると135匹になったそうです。100匹以上だと分蜂する手前の規模らしいですな。そう言えば、幼虫の中にえらくデカいのが2匹混じっとったが……あれって女王候補だったのかな?
「ツァオバーべスぺの行動距離を考えますとしばらくは巣はないのではないでしょうか? 縄張りが被ることはありませんし」
そしたらもうこの辺は安泰ということかな?
「さて、どうかな? もうすぐ峠越えだ。環境ががらりと変わるぞ。ここから先は雨ばかりだと聞いた。スネークの好きなスライムが出てくるかもしれない」
いや! 別に我はスライム好きだとは申していないぞ! リアルでスライムを見れるんなら見てみたい、程度ですジャ!
「環境が変わるだけでなくって国まで変わりますからね」
なぬ? そうなのか?
「たいちょーは用意周到ですからお金もちゃんと準備してるんですよー」
そう言えば、メルゼブルグで別の国の硬貨もにも両替していたな…… なんという国に入るの?
「エッセン連邦というところだ。領主がそれぞれ一つの自治をなしていて、代表者が特別自治区というところで国としての方針を定めているらしい……が、特に我々には関係がないな」
国境なら検閲とか入国審査とかがあるんじゃないの?
「そういうのは町に入るときにやるんですよ? 国境沿いに壁を作ってたらお金がいくらあっても足りません」
ふーん、そういうものですか……我、島国生まれで海外出たことがないから知らんけど、陸続きの国って国境に何か壁みたいなのを作ってるんじゃないんだ…… 万里の長城みたいなのは特例なのかしら? 我、ボルちゃんの背負う背負子の縁から頭を出して辺りを見回す。
「スネークよ、ここが峠だ。 見てみろ」
翼よ、これがパリの灯だ! みたいな感じで言わんといて。言われるがまま、ボルちゃんの頭に乗っかり全面を見ますと、おぉ! 盆地状の地形ですな! 斜面下にはなだらかな山林が広がりそれが終わると農地でしょうかねぇ……中心部には街らしき場所が。そしてその横を流れる大河…… あれが、グロースフルスってやつ? 盆地の手前で大きくミツマタに分かれて広がっております。盆地をなしている山の上空にはやはり黒雲が……つうか、この辺の地面も濡れているが、昨日まで雨降ってた感じ?
「ここから先は泥濘んでいるようだな…… 初めの頃は慎重に進もう」
慣れたら?
「大胆に進む。 スネークよ、索敵をしてみてくれ」
ふむふむ、なんやこれーーーー! たくさん感がありまする!
「水ッ気の多いところにはスライムが大量発生しやすくなるのだ。さて、どうする? いちいち狩っていくか?」
狩ることのメリットは?
「そうだな、魔石が小さいとはいえ手に入ること、レベルが低いとはいえあがることくらいか?」
それだったらハンナちゃんの独壇場では? 魔石は無視して討伐してればいいのでは?
「だ、そうだ。ヴィン、やってみるか?」
「火魔法による広域殲滅作戦ですね。わかりました!」
あ、その前に、辺りを乾かしてからでいいかいな? その方が火魔法の魔力が少なくって済むのでは?
「そうですね、スネークちゃんの金魔法で水分を飛ばすのですね」
あい、そうです。それでは、唸れ、我の金魔法
”金魔法Lv.1抽出”
“ン デデデデーン”
“なにをどうされますか?”
地面の余分な水分を大気中に出して!
“テ・テ・テ・テーン テテテテーン! テテテテン テテテテン テテテテン! テテテテーン テテテテーン………… “
あの交響曲がいつまでも流れていますな。地面からは湯気がもうもうと立ち込めてきました。その範囲が、我らを中心にどんどん広がりを見せています。時々、ビローンと聞こえてきますな。
「それではそろそろいいですか? いきます。
火よ、火よ、我が祈りを聞き、願いを叶え給え。願いを叶えた暁には我が魔力を我が願い満たすだけ受け取り給え。火よ、火よ、我が杖となって我に仇なすものを焼き払え。汝の名は焔蛟」
焔蛟と名付けられた蛇が、ハンナちゃんの持つ杖の深紅の宝玉から呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 最初は小さかった蛇が徐々に大きくなっていきまして地を這っておりまする! 時々口をカパッと開けてるのは何をしているんですかね?
「ホムラちゃんのことは放っておいて大丈夫ですので我らは先に行きましょう。スネークちゃんはこの先も金魔法を使って乾燥を進めててください。お願いします」
本日はこれにて。
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