ブレスローの冒険者ギルドマスター
案内された部屋に入ります。目についたのはデカい執務用机と書類の山済み、そして来客用のテーブルとソファだった。山姥さんはソファの一角に座り、ボルちゃん達に着席するよう促した。
「さっきから山姥というとるが、私の名前はジョイス・J・マンバだからね。覚えておきなよ、そこの蛇!」
あ、はい。そのまんまマンバですね! もしくは、矢抜きヤマンバということでひとつ夜露氏苦。ひょっとして鬼の人? それとも死人?
「馬鹿なこと言ってんじゃーないよ! あたしゃ基本人族だよ! さっさと話を聞かせてもらおうか!」
あたしゃ基本人族だよ! ほんとか? 神様じゃなくって?w
「その前に、自己紹介をしておこう。私はミア・ボルドウィン…… 」
「あー、全部言わなくても大丈夫だ。私には”見えてる”からね? アプフェル王国の近衛軍筆頭剣士で現在部下二人、ハンナ・ヴィンデルバンドとエマ・バウアーを連れてとある任務を遂行中、といったところだね。その蛇を従魔と言い張っているのは気に入らんが、特に危険もないようだし、今回は見逃す! それで? 」
なんだよ、”見えてる”んなら話する必要もないじゃーないか!
「うるさいね! ”見えてる”と言っても相手の状態が見えてるだけだよ。それと蛇よ。お前人の名前覚えるの苦手だろう? さっきから失礼なことばかり言ってるな! 」
それはこの際些事ではなかろうか……
「すまないが、要点だけを聞いてくれ。ヴィン、頼む」
「はいな。私はハンナ・ヴィンデルバンドといいます。説明させていただきます。30分ほど前に町から10㎞程離れた道中で、蜂の魔物であるツァオバーべスぺに遭遇しました。数は約15匹。1匹は撃退したものの、それ以外はどこかへ撤退していきました。仲間を呼びに行ったものと思われますので、私たちもその場を離脱しました」
「ツァオバーべスぺと言やぁ、単体で中級ランク相当の魔物だが、お前ら4人で倒したのかい? 」
「倒したのは…… 」
ハンナちゃんと我やで! ボルちゃんは寝てたし、エマさんは頭抱えてた!
「どうやって倒したか聞かせてもらおうか!」
ハンナちゃんが魔法で陽動して、我が攻撃! それ以上は企業秘密や!
「あんたらのギルドランクは?」
「私がランク4でそっちの二人は最近登録したばかりだ」
「ツァオバーべスぺは群体になると上級ランク下位相当の危険度だよ! まったくろくでもないことをしてくれたね! 」
「旅の商人から聞いた話だと、この先の峠ですでにツァオバーべスぺに襲われたそうだ。この辺りにはいないだろうと思っていたが、案外早く来てるのかも知らんな。別に我々が手を出さなくてもそのうちこの町にも来てたさ。親切に教えてやったのだ、感謝してほしいところだな」
「で、お前さんたちはどうするね?」
「どうもこうもない。我々には任務があるからな。先を急ぐのですぐ出発する」
「討伐クエストに参加する気はないかい? 」
「討伐クエストともなると1週間、ヘタすると半月は取られてしまうのでな。この場合どこかに巣があるのだろうが、それを探すのに相当時間がかかるぞ? 町を守るのはその町の冒険者ギルドだろう? 」
「なるほど、参加は難しいか」
「遭遇したらその都度狩っていくつもりではあるがな」
「ふん、そうかい…… ところでお前さんたち、どこに向かうって? 」
「フランクフォートだ」
「そうかい、そしたらあっちのギルド支部にも連絡しとくよ。峠を越えるとしばらく雨が続いているからスライムが多発してるとは聞いていたがね。ハチの話は向こうからは連絡がなかった。たぶん知らないんだろうね。この魔物の死骸はギルドに提出してくれるんだろうね?」
「そのためにわざわざ来たんだ。拒否するわけもない」
「かーーーっ、その可愛げのなさはエルフ族特有のものなのか、お前さん個人の資質なのかねぇ? 特別依頼ということで報奨金を出しとくよ。話は終わりだ。カウンターの方に行ってきな! 」
ヤマンバさんは立ち上がると何やらあちこちに指示を出した。我ら、お茶を持ってきた女の子に、下で飲むようにと追い出されてしまいました。ギルド内に併設されている食堂に入り、軽く一服。てか、ギルドの建物の中に食堂付けていいのかよ。
「ツァオバーべスぺの死骸、とられちゃいましたね。あれの毒腺と毒針、傷の治療につかったりするんですけど」
「また会うこともあるだろう。その時に解体すればいいさ」
友達みたいに言うなや! あれは結構厄介やど!
「だが、スネークの見立てでは、私の風魔法の方が速いのであろう? なら問題ないさ! むしろあっちの方が問題だな…… 」
目線の先には頭を抱えているエマさんがいた……




