《外伝 BRAVE》後編
グラン王国、その城下町から離れた、外れの平野にて数匹のスライムが逃げるようにぽよんぽよんと跳ねる。
「逃がすものかッ!」
木剣をひゅっと横に空を切り裂くと数匹のスライムが同時に弾き飛ばされる。
それぞれ地面にぺちゃんっと音を立てて着地した時にはすでに事切れていた。
「へへっ、一丁上がりっと!」
木剣を肩に担ぎながら決め台詞を決めるはすくすくと立派に成長した黒髪の少年。
「お疲れさまでした! 報奨金です!」
街の冒険斡旋所の受付で受付嬢のエリカが報奨金の銅貨を黒髪の少年に数枚差し出す。スライム討伐の依頼なので報奨金はさして多くはない。汗水垂らして得た報奨金を受け取るとポケットに入れる。
「要領よくこなせるようになりましたね!」エリカが微笑む。
褒められた黒髪の少年がへへ、と頭を掻く。
この黒髪の少年がギルドに初めて来たのが3か月ほど前。その時はエリカも受付嬢として新しく入ったばかりだった。
はじめこそ、あたふたしながら依頼の受付や報奨金の支払いなどの業務をこなしていたが、今では新米と呼ぶのもはばかられるくらい立派に成長した。そして黒髪の少年も様々な依頼をこなして冒険者として成長していった。
「ほかにはどんな依頼があるんだ?」
「えぇとですね……あら?」
エリカが依頼書から顔をあげる。その視線はギルドの入り口に向けられていた。
黒髪の少年もつられて見る。
「げっ……」少年の顔が曇る。
入り口には仁王立ちの幼なじみのシンシアがいた。
「またウソついて……!」
シンシアが幼なじみの頬をつねる。
「ってぇ!」
ギルドから出たふたりはがやがやと人の行き交う街なかを歩く。
「しょうがねぇだろ。ギルドが手っ取り早く稼げるんだから」
「それでケガしたら元も子もないでしょ! 最悪、しんじゃうかもしれないんだよ?」
ドラゴンや魔族の討伐でなくとも、ゴブリンやスライムなどの低級魔物でも油断すれば命を落とすことはある。
「大丈夫だって。それにおばさんに迷惑かけらんないし、自分のおこづかいは自分で稼ぎたいんだよ」
「あたしがママに言ったらどうする?」
ふふんとシンシアが不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっ、頼むよ……おばさんには言わないでくれよ……」ぱんっと手を合わせる。
「んー……どうしよっかなー」
シンシアが細い指を顎にあてがって考える。
「んじゃ綿菓子おごってくれたら見逃してあげる!」
屋台にて棒付きの綿菓子を購入するとふたりは並んで街の中央、噴水の縁石に腰かける。
シンシアが美味そうにぺろりと綿菓子を舐めるのとは対照的に黒髪の少年は溜息をつきながら食む。
綿菓子2本でスライム討伐の報酬の半分以下が消えたから当然と言えば当然か。
「なぁこれでいいだろ?」
「んー……」
シンシアが足をぱたぱた言わせる。
「なぁマジで頼むって……」
必死に懇願する幼なじみを尻目にくすっと笑みを漏らす。
「冗談よ冗談。ママには内緒にしたげる。でも危ないことはしないでよ?」
「助かる! もちろん危険なマネはしないさ」
シンシアがうん、と頷くとふと、少年の肘に擦り傷があるのに気付く。
「ケガしてるじゃない、ここ」
シンシアが傷を指さす。だが、少年は「平気だって。こんなのツバつけときゃ治るんだから」と軽く言う。
「ダメよ。とにかく汚れは落とさないといけないんだから」
そう言ってハンカチを取り出すと噴水の水に浸して濡らすと傷口の汚れを拭う。
「いててて、もちっと優しくしろよな」
「男の子なんだからガマンして!」
汚れが取れるとハンカチで縛る。とりあえずはこれでよしと。
「ありがとよ」
「ん、どういたしまして」
そしてふたりはふたたび綿菓子を食む。シンシアが隣に座る幼なじみの横顔をちらりと盗み見る。
彼が街道で倒れるのを見つけて村に運ばれ、シンシアと母親の母子が住む家で暮らすようになってから数年……。
初めて会ったときと比べると、幼なじみの彼の横顔は逞しくなっていた。
そっか……この子はもう立派な男のひとなんだね……。
シンシアの視線に気付いたのか、少年が顔をくるりと彼女に向ける。
「どうした? 俺の顔になにかついてるのか?」
「え、あ、ううん、なんでもない……」
慌てて顔を背け、綿菓子をぱくりと食む。
「そ、そろそろ帰ろうか? 急がないとママが心配するし……」
「だな。綿菓子ももうなくなったし」
よっ、と縁石から下りるとシンシアのほうへ手を伸ばす。
「帰ろっか」
「うん!」
差し出された手をしっかりと握ると、ふたりは並んで歩いて家路につく。
翌朝、少年はシンシアの母親からの「ご飯よー」でむくりとベッドから起きる。
階段を下りると朝餉の香りが漂う。
「おはよう!」母子から挨拶が交わされる。
「おはよう……ございます」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。あなたは息子同然なんだから」
「はい……」
わかっていてもなかなか慣れないものだ。食卓につく前に顔を洗ってから席についた。
「神よ、日々の糧をお与えくださり、感謝します」
三人で食物の恵みに感謝のお祈りを捧げると朝食に取りかかる。
育ち盛りの少年は母子より食べるのが早く、あっという間に平らげてしまった。
「薪割ってきます」
少年の一日は朝食を食べ終えて薪割りをするところから始まる。
その日も一日分の薪を割ると、次は稲の刈り取りだ。
鎌を手際良く動かして大地の恵みを収穫していく。今年は豊作だ。
刈り取りが終わる頃にはすでに昼時で、向こうからシンシアが「ご飯だよ!」と昼食が出来たことを告げる。
帰宅して朝食と同じく神に祈りを捧げたあとに昼食を口に運ぶ。
「街に行ってきます!」食べ終えた少年が食卓から勢い良く立つ。
「あら? また街に行くのね。今日は何をしに?」と母親。
「えっと……」
なんて言おう? 友だちと遊びに行くと言おうか? でも昨日もそう言ってごまかしたし……。
シンシアを見ると、じっとこちらを見ている。
「あたしと街に行く約束でしょ?」シンシアが昼食を口に運びながら言う。
「え?」
豆鉄砲を喰らったような顔の少年をよそに幼なじみは母親のほうへ顔を向け、「昨日約束してくれたの」と平然として言う。
「まあ、そうだったのね。いいわ遊んでらっしゃい」
母親が疑うことなくにっこりと微笑む。
シンシアがくるりと少年に向き直る。
「あたしが食べ終えるまで待ってて」
ね? とにこりと微笑む。
こうなっては少年にはどうすることも出来なかった。
「行ってきまーす」
母親に見送られながらふたりは街道を歩く。
「お前さぁ、なんであんなウソついたんだ?」
「いいじゃない。だってまたケガするかもしれないんだから」
「ムチャはしないって」
「ふーん、どうだか」
他愛のない会話をしながら歩くと街の入り口が見えてきた。
少年はいつものようにギルドに入り、受付嬢のエリカに挨拶をしたあと依頼書を受け取る。
「じゃお前はここで待ってな。すぐ戻るから」
噴水の前で少年が幼なじみにそう言う。もちろん不満が出た。
「あたしも行きたい!」
「ダメだって。危ないんだから」
「やだ! ここで待ってるなんて退屈だもん!」
ぎゃあぎゃあと幼なじみ同士で喧々囂々。
そんなふたりの喧嘩を治めたのは、通りかかった街の酒場の女主人、リーナだ。買い出しに行っていたのか、紙袋を豊満な胸の前に抱えている。
「あらあら、お二人とも仲が良いのね」
「良くない!」「良くないです!」とあうんの呼吸で返事するふたりにリーナがふふふと笑う。
「ね、シンシアちゃんは私が見てあげるから、行ってらっしゃい」
「ありがとう! リーナさん!」
「あっ、ちょっと!」
颯爽と駆ける少年を止めようとするシンシアをリーナが優しくもしっかりと抱きしめる。大人の力には敵わない。
「大丈夫よ、あの子なら」
「でも……!」
「今朝の新聞の魔物予報では強い魔物はいないようだから、安心していいわよ」
仕事柄、店に来た旅人や冒険者に魔物に関する情報を提供するのも酒場の女主人の仕事だ。
むー……と納得がいかないようにふくれっ面をするシンシアをリーナがよしよしと頭を撫でる。
「ね、私の店に来ない?」
「え、でも彼を待たないと……」
「大丈夫。そんなに時間は取らせないから」
さ、とリーナが手を差し出す。
リーナの店は噴水から少し歩いて奥まったところにある。
店の扉の錠を外すと「いらっしゃい」と手招きする。
店の中はそれぞれのテーブルの上に椅子が逆さまに置かれ、奥には踊り子が踊る舞台が、そして入り口から入って右側にはカウンターが見える。
酒場なので今の時間はがらんとしていた。女主人リーナは紙袋をカウンターに置くと、シンシアに腰かけるよう椅子を勧める。
ちょこんと座ると、リーナが後ろの酒瓶やグラスが並んだ棚からゴブレットを取り出すとそこにミルクを注ぐ。
「お酒飲めないから代わりに、ね」
「あ、ありがとうございます」
グラスを受け取ってこくこくと飲む。
「ね、シンシアちゃんはあの子のこと、すきなんでしょ?」
ぶっ! とシンシアが吹き、手で口を拭う。
「リ、リーナさん、いきなり何を……」
狼狽するシンシアを見てリーナがふふふと笑う。
「そりゃあねぇ、見ててわかるわよ。こういう仕事をしてるとね、色んなことが見えてくるものなの」
リーナも自分のグラスを取り出すと、グラン地方の名酒、ポトカを注ぐと、くいっと呷る。
ふぅっとひと息つくと、ぽつりと漏らすように話し始める。
「このお店ね、もとは私の好きだったひとのものだったの。でもある日、突然いなくなっちゃって……」
シンシアがごくりと唾を飲む。
「それで今は私が代わりにお店をやってるってわけ。あの人が、いつ帰ってきてもいいようにね……」
リーナがまたグラスにポトカを注ぐ。ほんのりと頬に朱が差した彼女には大人の色香が漂っている。
そんなリーナをシンシアは尊敬や憧れが入り混じった目で見つめる。
逆に自分はと言えば、大きくなったといってもまだまだ子どもだ。背は伸びたが、胸はまだまだ実り乏しい。
リーナの豊満な胸と自らの貧乳を見比べる。
むぅ……もっと大きくなったら胸も大きくなるのかな……?
そう考えていると、リーナがカウンターに肘をついて、はち切れんばかりの胸を乗せる。
「男の人には、帰る場所がいつでも必要なものなの。もちろん、あの子にもね……」
「は、はい……」とどきまぎしながら答える。
ふふ、と笑うとまたグラスを空ける。
「あら、ごめんなさいね。自分の話ばっかりしちゃって……そろそろ待ち合わせ場所に戻ったほうがいいわね。あ、お代は結構よ。お酒が飲める年になったら遊びに来てね♡」
ひらひらと手を振るリーナに見送られながら酒場を出る。そしてその足で噴水へと向かう。
縁石に腰かけてしばらく足をぶらぶらさせていると、向こうから幼なじみの顔が見えたので手を振る。
だが、なにか様子がおかしい。しかも頭になにか飾りのようなものを付けている。出かけるときにはあんなのは付けていなかったはずだ。
「おかえり……どうしたの? その頭飾り」
「うん……言っても信じないと思うけど……」
ぽりぽりと少年が頭を掻く。
「何かあったのか、言ってくれないとわかんないよ?」
「うん……」
すぅっと息を吸って、意を決したように口を開く。
「おれ、神様に魔王を倒せって言われたんだ」
「…………は?」
帰宅して詳しい話を聞くと、依頼をこなしている途中、突然声が聞こえたというのだ。辺りには誰もいないし、幻聴や空耳の類にしてははっきりと聞こえたという。
その声の主は神、正確にはそれと同等の存在で魔王とは対をなす者だと名乗った。
「それでキミが魔王を倒す人に選ばれた……ってわけ?」
こくりと少年が頷く。
家の居間にてシンシアと母親が少年の話を聞き終える。
母親にはすでにギルドで依頼を受けて仕事をしていたことは説明済みだ。そうでなければこの奇妙な出来事はとてもではないが説明出来ない。
「にわかには信じがたいけど……嘘はついてないのね?」
「はい……本当です。ウソついたのは街に行く口実だけで……ウソついて仕事して、ごめんなさい」
うな垂れる少年の頭を母親が慰めるように撫でる。
「気にすることないわ。気を使ってくれたんでしょう? シンシアから聞いたわ」
とにかく、と母親がすっくと立つ。
「村長さまのところに行ってくるわね。留守番お願いね」
ぱたんと扉が閉まると家には幼なじみ二人のみ。
気まずい空気のなか、シンシアが切り出す。
「ねぇ、それでどう……するの?」
問われた少年はしばし考える。
「うん……俺、魔王を倒しに行くよ」
ばんっ
シンシアが机を叩いて立つ。
「どうして……?」
「そりゃ、さ……俺だっていきなり魔王を倒せって言われて、訳分かんないよ。でも神様がすべては運命で決まってて、俺が生き残ったのも、この村にやってきたのも偶然なんかじゃないって」
一拍間を置いて続ける。
「考えたんだ。もし俺が魔王を倒しに行かないと、この村も俺が前に住んでた村と同じようになっちゃうって」
だからさ、と目の前で涙を流す幼なじみをまっすぐに見る。
「俺、行くよ」
「ばかっ! 知らない!」
泣きながらシンシアは階段を上って自分の部屋へと駆ける。
それと入れ違いに玄関の扉が開き、そこから母親と村長、村医者が入ってくる。
村長が杖をつきながら少年のもとへと歩む。ぷるぷると震える手で頭の飾りに触れる。
「おお……これはまさしく、言い伝え通り選ばれし者にしか許されない頭飾り……!」
村長がぎゅっと少年の細い体をかき抱く。
「村長、俺、魔王を倒しに行きます」
その言葉は村長の後ろに立つ母親や村医者を驚かせた。
村長はますます強く抱きしめる。
「神よ。なにゆえこのような重い業をこの幼子に背負わせるのです……?」
魔王を滅ぼし、世界に平和をもたらす宿命を背負うその双肩はあまりにも細く小さかった。
村長と村医者が家を出、母親が夕餉を食卓に並べる。
だが、そこにシンシアはいない。母親が「ご飯よ」と呼びかけても返事はない。
「ごめんなさいね。あの子、頑固なところあるから……」
「いえ……」
「あの子の父親、私の主人はね、あの子がまだ小さい頃に冒険に行くと言って家を飛び出したの。で、ある日、魔物に襲われて亡くなったの……」
母親が少年の手を握る。
「だから、あの子はあなたのことを心配してるの。お父さんのようになって欲しくないって……」
結局、その日シンシアは部屋を出ることはなかった。
少年がノックしても返事はない。
部屋の中、シンシアはベッドの上でひとり蹲る。
閉じた目からは涙が流れ、ときおりしゃくり上げる。
どうしてあの子なの……? 他の人じゃダメなの……?
ごしごしと目を擦る。
でもあの子が行かないと、世界は魔王に滅ぼされちゃう……。
そんな葛藤が延々と彼女を苛む。
リーナさんって、強いひと……帰ってくるかどうかもわからないひとをずっと待ち続けるなんて……。
「男の人には、帰る場所がいつでも必要なものなの。もちろん、あの子にもね……」
今日、酒場でリーナから教えられた言葉が思い出される。
なにやってんだろ、あたし……ここでうじうじしてちゃだめ……。
シンシアはふたたび涙を拭うとベッドから下りて、書き物机の引き出しを開けて、そこから中身を取り出す。
魔王を倒すのがあの子の役目なら、あたしは……!
翌朝、旅装に身を纏い、背嚢を背負った少年は村の入り口で村人たちに見送られながら旅立とうとしていた。
「気を付けていくんだよ」母親が名残惜しそうに抱きしめる。
「薬草や薬を入れといたからの。無くなったらすぐに店で買うんじゃぞ!」と村医者。
「みんなから集めてきた旅費だ。これで武器を買え。グラン城下町のガンビーノさんの店で買うといい」これは肉屋のハンスだ。
村人全員総出で小さな英雄に励ましの言葉を送る。そこにはシンシアの友人三人組もいる。
「がんばれー!」ニナが手を振り回す。
「あら? シンシアはいないの?」ネルが辺りを見回す。
「今日はまだ見てませんわ」アンが変ねと首をかしげる。
「村長、俺行ってきます。絶対に帰ってきます」
黒髪の少年が背嚢を背負い直す。
村長がうん、うんと頷く。
「辛くなったら、いつでも村に帰ってきなさい」肩に手を置く。
その肩は重責を背負うにはあまりにも小さい。
「みなさん、お世話になりました! 行ってきます!」
少年がくるりと背を向けて、村の門から出る。その背中に村人たちが声援を送る。
少年は街道を歩く。背嚢を背負っているので足取りが重いように感じられる。
このまま引き返して村に帰りたいという衝動に駆られる。いっそのこと全てを投げ出して、逃げ出したい。
だが、できない。そうしたくても足は前へ前へと進む。
目尻にじわりと涙が滲みそうになる。すぐさまごしごしと拭う。
せめて、最後に彼女ともう一度話をしたかったな……。
幼なじみの顔が浮かぶ。
「まって!」
聞き間違いようのない声が後ろから聞こえる。振り向くと果たしてシンシアが息せき切って、少年のもとへと駆けてくる。
「まって……! 渡したいものがあるの……!」
やっと少年のもとに着くと、ふわりと少年の首になにかを巻き付ける。
マフラーだ。
「急いで編んだから……出来が良くないのは大目にみてよね」
なるほど、マフラーにはところどころ目が抜けている箇所がある。
「ありがとう……」
シンシアがふるふると首を振る。
「お礼は帰ってからにして……絶対、帰ってきてよね……!」
「……おう! 約束だ」
互いに小指を絡ませる。
ゆびきーりげんまーん。ウソついたら、剣一本のーます。ゆびきったー……。
約束を交わして少年は幼なじみに背を向けてふたたび歩き出す。
「ぜったい、かえってきてねー! ゴブリンやスライムなんかにやられたらしょーちしないんだからー!」
幼なじみの声援を背に少年が親指を立てる。
シンシアは涙が零れそうになったので手で拭う。と、そこへ村の子、ニコがシンシアのもとへ駆け寄る。
「あ、いたいた! おねーちゃん、おばさんがさがしてたよ!」
ニコがシンシアのそばに来ると手をぎゅっと掴む。シンシアが彼の頭を撫でる。
「ねぇ、おねーちゃん。おにーちゃんはまおーをたおしにいくんでしょ? すぐかえってきてくれるよね? またおにーちゃんとあそびたいな」
ニコが無邪気にはしゃぐ。シンシアはまた頭を撫でる。
「うぅん。いまはまだその時期じゃないの……彼はこれから旅をして、強くなって、一緒に魔王を倒してくれる仲間と共に旅をするの……」
シンシアは幼なじみの背中が見えなくなるまで見送る。
「神の代行者ならんと光を掲げる者、混沌にありし世界の救世主……」ぽつりとシンシアが古来より伝わる予言を述べる。
そして、魔王を討伐する宿命を背負いし者の名を口にする。
「勇者」
黒髪の少年、勇者の前にはまだ見ぬ大地や世界が広がっている……。
次回の冒険?へ続く。
次回は勇者一行の冒険の回想録です。




