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《プロローグ ~物語の始まりは魔王との最終決戦から~》

数々の冒険や数多の試練を乗り越えた勇者とその一行はついに魔王との最終決戦へと挑む……!


本作品には一部性描写がありますので苦手な方はご遠慮ください。

挿絵(By みてみん)


 墨で染めたような黒雲より雷鳴轟くなかで一層(そび)え立つ魔王城の広間にて、玉座を背にして魔王は息も絶え絶えに目前の一行(パーティ)を睨む。


 袈裟切りに斬られた胸からは深紫(こきむらさき) 色の血液が抑えている片手からどくどくと溢れている。


 「お、おのれぇ……! この余が貴様ら虫ケラの如き人間に……ッッ」


 魔王は口から血を滴らせると呪詛を唱え始める。


 「いけない! あの呪詛は自爆の呪文……! それもこの城を吹き飛ばしかねないほどの……!」


 そう声を震わせるのは神官の少女だ。


 「なにぃッ! てぇことはあいつの息の根を止めないといけねぇってことか!?」


 斧を斜に構えるのは百戦錬磨のドワーフの戦士。戦士の脇を固めるは徒手空拳を得意とする丈夫(ますらお) の武闘家。


 「くっ、さすがに間合いが遠すぎる!」


 さらにその後ろで後衛を務めるは黒髪の魔女。


 「ウチが援護するさかい、あのアホをなんとかせぇ!」


 魔女は詠唱を素早く唱えたかと思うとたちまち両手から閃光が迸り、光の矢となって魔王を貫かんとする。


 「ちぃっ……! ちょこざいな!」


 残る片手で素早く障壁を張る。

詠唱もなしに片手だけで光の矢を防御するとはさすが魔族や魔物を統べる王だ。

 障壁によって弾かれた光の矢はたちまち霧消した。


 「もうここまでだ。呪詛ももう終わ」


 呪詛の最後の一文を唱えようとした時、違和感を感じた。一行を見やると違和感の正体に気付く。


 ひとり足りないのだ。一行を統べるリーダー、すなわち勇者が。


 「まさか!」


 あの魔女が放った光の矢が陽動だとしたら……。


 魔王が上へと視線を上げたときにはすでにこの最終決戦の帰趨は決していた。

魔女が光の矢を飛ばしている間に上へと高く跳んだ勇者は剣を上段に構えている。


 「魔王ッ覚悟ッッ!」


 選ばれし者にしか手にすることが許されない剣を振り下ろすと魔王の頭蓋を一刀両断に斬り落とす。

 頭蓋から脳漿(のうしょう)をまき散らしながらそのまま地面に斃れる 。


 「やった……」


 勇者は血振りをくれると一行のほうへと踵を返す。

 魔王を倒した勇者に一行は快哉を叫ぶ。

 その時だ。地面から腹の底まで響くほどの地鳴りが起きたのは。


 「なんだこりゃ!」とずれた兜を押さえるドワーフの戦士。


 「くっ……! どうやら詠唱が終わってしまったようです……!」と女神官。


 「てことは崩れるってことか! 魔王を倒したというのに!」


 天井から落ちてくる瓦礫を拳で粉砕する武闘家。


 「ウチの魔法は黒魔法! こんな時に役に立たんウチが腹立つわ!」と息巻く魔女。


 慌てふためく一行に勇者は素早く的確な指示を出す。


 「セシル! 防御壁を作れるか!?」

 「は、はい! でも時間が……」


 セシルと呼ばれた神官は錫杖に力を込める。


 「みんな! 壁が出来るまでに瓦礫からセシルを護るんだ!」


 承知したようにセシルを囲むようにするとそれぞれの得物や術を駆使して瓦礫を粉砕していく。

 その間にセシルは信ずる神より防御壁の奇跡を授けるよう詠唱する。

 その時だ。扉から骸骨兵士(スケルトン)がわらわらと攻め込んできたのは。


 「こんな時に! あんたらの主はもういないっちゅーのに!」ライラが炎の魔法で焼き払う。


 「かぁーっ、壁出来るまで間に合うのかい!? こりゃ」自慢の斧を振りまわしながら毒づくドワーフ。


 「おっさん、無駄口叩いてないでしっかり力入れてくれ!」とドワーフに合いの手を入れる武闘家。


 「俺ぁまだおっさんって呼ばれるほどの年じゃねえと何度も言ってるだろうが! タオ!」


 タオと呼ばれた武闘家は「へっ」と笑うと連続で瓦礫を三段蹴りで破壊する。


 「そんなヒゲ生やしてちゃあおっさんに見えるっての! アンさんよ!」


 アンさんことドワーフの戦士、アントンは顔を紅潮させると、いっそう斧を振り回す両腕に力を込める。


 「このヒゲはドワーフにとっちゃ立派な男の象徴だ! それをおめぇは」

 「あーもうやかましい! 余計なことくっちゃべってないでさっさと手動かしてセシルちゃん守ったりぃ!」


 聞き慣れない方言でふたりの掛け合いにぴしゃりと魔女のライラが嗜める。


 「みんな! 最後まで諦めるな!」


 聖剣で骸骨兵士を斬り払うは我らが勇者だ。

 だが一行の奮闘も空しく、とうとう天井が瓦解し巨塊が容赦なく降りかかる。


 「うわぁぁああああッッ!!」




 永い夜が明け、地平線から太陽が顔を覗かせると今や主を失った魔城の瓦礫を照らす。


 そこへ一羽の黒鴉が甲高い声を上げながら降り立つ。

 嘴で毛繕いをすると足下からころりと小石が転がる。黒鴉が首を傾げるといきなり足下の瓦礫が盛り上がる。

 驚いた黒鴉はいっそう甲高い声を上げながらいずこへと飛び立った。

 盛り上がった瓦礫から陽光を浴びて眩しく輝く刃が飛び出す。続いて、大斧、金合歓の杖、次いで鍛え抜かれた鋼の如き拳が突き出し、最後に白銀に輝く錫杖が飛び出したかと思えば瓦礫から埃にまみれた一行が現れる。


 「ぶはぁっ」と最初に息をついたのはドワーフの戦士アントン。


 「ぎりぎりで防御壁が間に合って良かったぜ……」腕で額の汗を拭う武闘家タオ。


 「ほんまやで。あと1秒遅れてたらどうなってたことか……」


 ぶるっと身を震わせる魔女のライラ。


 「す、すみません……。私の力が未熟なばかりに……」


 錫杖を握りながらしゅんとなる女神官のセシル。


 「気にするな。こうしてみんな無事生き延びたんだ」


 女神官を労う一行をまとめる勇者。


 「さぁみんな! ふもとの町の酒場で宴会だ!」


 勇者の言葉に一行は拳を空高く上げながら快哉を叫ぶ。



 ふもとの城下町に着いた一行を王や町人たちは手篤くもてなし、労を労い、宴会は三日三晩と続いた。



 翌朝、王や町人たちから見送られながら一行は旅立ち、やがて三叉路にさしかかるとそれぞれ別れを告げ、二又道でさらに一行は減り、袂を分かち合ったあと、勇者はただひとり帰るべき場所へと向かう。



 我らが勇者は故郷の村へと帰り着く。

 最初に気付いたのは畑を耕していた村人だ。

畑や家からわらわらと村人たちが出てくると英雄の帰還にみな歓喜に震えた。

 勇者は長老や村人たちからの喝采を浴びながらとある家の前へと向かう。

 木造りの扉を叩き、ノブに手をかけて開く。

挿絵(By みてみん)

「ただいま」


 卓に肘をついて神に祈りを捧げていたところであった幼馴染みは顔をあげると後ろで結んだ亜麻色の髪を靡かせながら勇者の胸元へと飛び込む。


 「おかえりなさい……!」


 目に涙を浮かべた幼馴染みのシンシアはぎゅっと勇者の腰に回している腕に力を込める。


 「シンシア」


 名前を呼ばれた幼馴染みは勇者の顔を見上げる。

 じっとシンシアの顔をまっすぐ見つめる勇者はやがて決意したように口を開く。


 「結婚しよう」


 数日後、村を挙げての結婚式にて幼馴染み同士は村人全員から祝福を受けていた。

 花嫁装束に身を包んだシンシアは嬉し涙を浮かべながら目前の勇者を見つめる。


 「汝、この方を生涯の伴侶とすることを誓いますか?」


 神父の問いかけにふたりは「誓います」と応える。


 「では、誓いの口づ」


 神父が言い終わらないうちにふたりは唇を重ねる。たちまちまわりからどっと歓声があがる。

 互いに唇を離すと、シンシアは顔を赤らめる。


 「ずっと、一緒だ」

 「うん!」


 その日、村を挙げての宴が盛大に行われた。

そして、その日の夜、二人は初めて結ばれようとしていた。

 風呂上りの勇者が高鳴る胸を押さえながら寝室の戸を開ける。

 

 いよいよ今夜…………!


 はたしてそこには月光の差す寝室で、ベッドの上でシンシアはシーツで胸を隠しながら、伴侶となった勇者を気恥ずかしそうに見つめる。


 「シンシア……」

 「あなた……」


 初めて「あなた」と口にしたシンシアは顔を真っ赤にする。


 「なんで顔赤いんだ?」

 「だって、『あなた』なんて言うの初めてだから……」


 顔を真っ赤にしてもじもじさせる様はなんとも可愛らしい。


 「シンシア、俺……」

 「まって、避妊しないと……」

 「へ?」


 ベッドに向かおうとした勇者がぴたりと止まる。


 「今日危険日だから、避妊しないと赤ちゃん出来ちゃう……」

 「え、や、でも俺は別に構わないけど……」

 「だめっ! これからの生活を考えなきゃ!

子ども出来たら生活費いくらかかるかわかってるの?」


 嗜めるようにシンシアがぴしゃりと言う。


 「そんな、だって俺、どんなにこの時を待ったか……それに避妊具ないし……」

 「だめと言ったらだめ!」


 しばしの間、お互いの顔を見つめる。そして決意は揺らがないことが見て取れた。

 最初にしびれを切らしたのは勇者のほうだった。


 「シンシァァアアア!!」勇者がシンシアへ飛び込む。


 「だめぇぇえええええ!!」きかん坊と化した勇者の顔面にシンシアの鉄拳がめり込む。

 そしてそのまま寝室の外へと放り出される。


 「最低! せっかくのムードが台無しじゃない!!」


 ばんっと荒々しく戸が閉められ、勇者は一晩中床を涙と血で濡らした。



続く

読んでくださってありがとうございます! よければ2作目の『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る』もよろしくお願いします!

次回は数年後の時が流れ、新婚期を過ぎたふたりの日常生活パートです。

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