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85話 Tシャツ姿の美女


「やっぱり、あたしより水琴さんのほうがいい?」


 下着姿の夏帆が、潤んだ瞳で俺を見つめている。

 好きだった女の子にそんなふうに言われると、くらりとする。


 ふたたび夏帆が俺の唇を奪う。

 もし玲衣さんがいなければ。


 きっと俺は夏帆を選んでいたと思う。

 だけど……


 そのとき、俺の背後に小さな体が押し当てられた。


「私のことも忘れないでくださいね……?」


 と言ったのは、琴音だった。

 玲衣さんがいなければ、きっと琴音と知り合うこともなかったし……こんなふうに同じ部屋で寝ることもなかったはずだ。

 

 正面からは幼馴染のキスを受け、背中からは美少女の後輩に迫られ。

 二人の甘い香りに、くらりとする。


「私のこと、好きにしていいんですよ?」


 背後から琴音がささやく。


「そんなわけには……」


「見返りなんて求めませんよ。まあ、姉さんから先輩を奪っちゃうかもですけど」


 くすっと琴音が笑い、俺の耳元に息を吹きかける。

 夏帆は頬を膨らませて、俺を睨んでいた。

 

 キスを終えると、夏帆は俺に抱きついた。

 完全に、前後両側から二人の女の子に挟まれる形になる。


「あたしがキスしてるんだから、あたしのことだけ考えてよ」


「そ、そう言われても、琴音が……」


「あら、先輩は佐々木さんより私のほうが好みですか」


 俺が反論しようと、琴音を振り返ると、そのすきに強引に唇を押し当てられた。

 琴音は顔を真赤にしていた。


 やがて琴音は俺から離れた。


「私、姉さんにも佐々木さんにも負けません。きっと先輩を独り占めしてみせます。でも、今は、三人でも我慢してあげます。だから……」


 玲衣さんに先を越されるぐらいなら、と言って、琴音と夏帆は二人で手を組むことにしたらしい。

 まずい状況だ。


 このままだと、本当に流されてしまう。

 そうなったらどうなるんだろう?


 俺は勇気を振り絞って、二人を拒絶しようとした。


 そのとき、


「何をやってるのかな?」


 と言って部屋のふすまを開けたのは、すらりとした長身の美人女性だった。

 Tシャツ一枚しか着ていないみたいで、その大きな胸の形がくっきりとわかった。

 そこにいたのは、俺の従姉の雨音姉さんだった。


「約束破りの悪い子達にはお仕置きしないとね」


 雨音姉さんは長い髪をかきあげ、にっこりと微笑んだ。

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