78話 恋敵の姉妹
玲衣さんと琴音はしばらく睨み合っていた。
二人は姉妹で、そして、恋敵なのだという。
しかも、二人の恋愛の対象は、俺なのだ。
俺がうろたえていると、玲衣さんが俺と琴音を見比べて言う。
「わたしは琴音に負けたりなんかしないんだから……」
「へえ、なら、姉さんが私より勝っているのって、具体的にはどこですか?」
たしかに玲衣さんも琴音も、誰もが見惚れる美少女だし、頭だってかなり良いし、どちらも完璧超人で、拮抗している。
玲衣さんは言葉に詰まり、そして、突然、天井に向かって手を突き上げた。
「こ……琴音よりも、わたしのほうが胸が大きいもの!」
なんだかとんでもないことを言い出した。
玲衣さんは恥ずかしそうに俺を上目遣いに見つめた。
「晴人くんも……大きいほうが好きだよね?」
「それはそうかもしれない」
俺は反射的に答えてしまった。
琴音は不満そうに頬をふくらませる。
「胸の大きさがどうとか、はしたないですよ、姉さん」
「もしかして、負け惜しみ?」
玲衣さんはくすっと笑う。
琴音はかあっと顔を赤くした。
「わ、私は成長途中なんです! 姉さんにいつかは勝つんですから!」
わいわいと、玲衣さんと琴音が言い合う。
どうしよう?
これから三人でこの部屋で暮らさないといけないのに?
しかもベッドは一つだ。
幸いベッドは無駄に大きいので、三人で一つのベッドに寝ることも不可能ではないけれど。
玲衣さんと琴音はまだ言い合いを続けてた。
「わたしは晴人くんと一緒にお風呂に入ったこともあるし」
「それだったら、私だってさっき一緒にシャワーを浴びました!」
「でも、わたしと晴人くんは同じ浴槽で体を密着させて入ったこともあるの」
愕然とした様子で琴音が俺を見つめる。
たしかにそんなこともあったけれど、いつもやっていたわけじゃない。
琴音がジト目で俺を睨む。
「いいんです……お屋敷に戻ったら、私もいろいろするんですから」
いろいろってなんだろう? とは俺は聞けなかった。
ともかく、屋敷に戻ることが重要だ。
ここにいる限り、誘拐犯に自由を奪われているし、いつ命を落としてもおかしくない。
「琴音……とりあえず、服を着てくれる?」
「先輩が着せてくれるならいいですよ?」
「俺が?」
「はい。裸の私にブラジャーをつけて、ショーツをはかせて、そのうえにブラウスを羽織らせて……やってみたくありません?」
「俺にはできないよ」
玲衣さんの見ている前だ。
そんなこと、できるわけがない。
琴音は恥ずかしそうにうつむいていた。
「私……先輩になら裸を見られたって平気です。それぐらい、先輩のことが本気で好きなんです」
「ありがとう……でも、普通に服は着てほしい。そうじゃないと俺が冷静でいられないから」
「冷静でなんて、いないでほしいです。姉さんのいる前で、私を襲ってくれてもいいんですよ?」
俺は赤面し、そして、首を横に振った。
「俺は何もしないよ」
もう一度繰り返すと、琴音は上目遣いに俺を見つめ、そして、諦めたのか、バスタオルを脱いで下着をつけはじめた。
俺は慌てて目をそらす。
振り返ると、玲衣さんは顔を真赤にしていた。
「わたしも……晴人くんにだったら何をされてもいいの……だから……」
玲衣さんは俺にしなだれかかり、そして、急に俺の唇を奪った。
俺はなされるままになっていて、玲衣さんの甘い香りにくらりとした。
「琴音に晴人くんを渡したりなんかしない……」
玲衣さんは青い瞳を潤ませていた。
気づくと、琴音が下着姿のまま俺に近づいてきてた。
「ずるいです……私にもキスしてください……」
そして、琴音がそっと俺に身を寄せた。
そのとき、部屋の扉が開いた。
いたのは誘拐犯の男たちだった。
慌てて、琴音が飛び退り、警戒するように、両手で体を隠した。
男たちは食事を持っていて、要するに朝食をくれるということらしい。
「やれやれ……」
紳士的な男のほうが、肩をすくめ、俺に朝食のコーンフレークの載ったトレイを渡した。
その弾みに男のポケットから何かが落ちる。
名刺入れ、のようだった。
俺はそれを拾い上げ、驚いた。
そこにあった名刺は、遠見グループの役員のものだったからだ。
☆あとがき☆
誘拐篇はそろそろ終わりです。玲衣さん、琴音が可愛い! と思った方はポイント評価をいただければ幸いです!
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